30 祝福を受けし者1
アレクシスはユリアを別宮へ運んだ。
王宮に使える者たちは、皆、慌ただしく動き回っている。
避難した人たちには座れる場所を用意し、怪我をした貴族には手当が行われている。
飲み物を配る侍女、足りない包帯を確保しようと走り回る侍従。
貴族の中にはヒステリックに声を荒げる者もいた。
そしてそんな目の前の出来事が、アレクシスの目にはどこか夢のように映った。
(これは、現実・・・・・)
長いこと、誰かの意識の奥にいた。
記憶は全て覚えている。
そして今、アレクシスは自分の中に溢れる力を、思うようにコントロールできるような気がした。
抱えていた意識のないユリアを、アレクシスはキャロラインの元へ連れていった。
「まあ、アレクシス・・・・!」
キャロラインは信じられないような気持ちで息子の名を呼んだ。
「ご心配をおかけしました、母上」
アレクシスはその美しい顔でうっすらと微笑んだ。
「ユリアを寝かせてもいいですか?」
アレクシスは王族専用の部屋の大きなベッドに、そっとユリアを寝かせる。
「ええ、ええ、もちろんよ」
久しぶりの再会に、思わず涙ぐんだ。
「兄上、ご無事だったのですね」
レオンはその無事を喜び、サーシャは違和感を感じていた。
「なんだかお兄様、違う人みたい」
双子の様子に苦笑しながら、アレクシスは寝ているユリアの頬に触れた。
アレクシスの手から出た温かい光が、ユリアの体を包み込む。
それは、殴られた頬の傷だけではなく、爆風によって倒れた時に負った擦り傷さえも治した。
「アレクシス・・・・・」
キャロラインは目を見張った。
「う・・・ん・・・」
少し身じろいで、ユリアが目を覚ます。
そっと目を開けると、目の前には、心配そうに覗き込むアレクシスの顔があった。
「・・・・・・っ!」
ガバッと起き上がり、声にならない声を上げる。
「どこか痛いところはないかい?ユリア」
アレクシスは尋ねるが、ユリアは口をハクハクさせるだけで一向に答えられない。
見るに見かねたキャロラインが、ユリアの背中をさすった。
「ゆっくりでいいですわよ、ユリア嬢」
「ふふ、大丈夫そうだね」
アレクシスがふわりと笑った。
「・・・・・!!」
その笑顔は、ユリアの心臓に直撃した。
そして近年、アレクシスのそんな姿を見たことのない双子たちも衝撃を受けた。
「兄上が・・・・・」
「笑ってる・・・・」
双子は唖然とするも、7歳のディーンには何も分からない。
「アレクにーさま?」
ディーンは無邪気にもアレクの元に走りより、その足に抱きついて見せた。
「ディーン、大きくなったね」
まるで久しぶりに会ったかのように言うアレクシスだったが、ディーンはその違和感をものともしない。
「うん!ぼくね、アレクにーさまみたいに大きくなりたい」
ニカっと笑ってみせた。
アレクシスがアレクシスでいられなくなったのは今から役4年前。ディーンはまだ3歳にもなっていなかった。
ディーンがたまに会うアレクシスはいつもどこか表情がなく、つれなかった。しかし今、兄が自分に向けてくれる表情には愛があると、幼いながらも感覚に聡いディーンは気付く。
そうなってくると、目の前のこの兄に甘えたくてたまらない。
ディーンは手を伸ばし、抱っこを求めた。
「ディーンたら」
キャロラインは甘え上手で人たらしなディーンにやや呆れながら、二人の姿を見守った。
アレクシスは嫌がることなくディーンを抱き上げる。
ディーンの瞳は喜びに輝いた。
兄弟の再会の喜びを見せつけられ、ユリアはハッとする。
「お父様・・・・」
「ご安心なさい、あなたの家族は皆ご無事ですよ」
聞けば、ジュリアーヌとセドリックは、爆発からは離れた場所にいて、無傷な上に、いち早く避難することができたのだという。一番重症なのはマグリッドだが、今は意識もあり、傷の手当ても終わっているという。ただ、頭を打っている可能性があるため、しばらくは安静が必要らしい。
「会いに行きたいかい?」
「ええ、もちろん」
ユリアがベッドから降りようとしたが、アレクシスは自分も行くから少しだけ待ってほしいと言った。
「こんなときになんですが母上、私の服を用意してもらえませんか」
部屋にいた者は皆、アレクシスの異様な服装に気付く。
爆発の前まで身に付けていた服とまるで違い、横幅は余っているのに、丈がまるで足りていない。誰かの服を無理矢理着ている感満載だった。
そして、キャロラインは察した。
「侍女に用意させましょう。心配なのは分かるけれど、ユリア嬢も少し休みなさいな」
アレクシスが服を着替えに行ってから、ユリアは体の痛みがどこにも残っていないことに気付いたのである。




