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3 可愛い男の子2

「だ、だいじょうぶ?なわ、いたくない?」

 男の子の大きな目からは、大きな滴が次から次へと溢れ出ている。

(一体誰だろう?)

 ユリアを拘束している縄と床が接している部分に、身体の重みで痛みを感じる。

男の子を見ると、縛られてはいないようだった。

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」

 男の子はユリアの返答に、「よかった」と言いながら、小さな手のひらで涙を拭った。

「僕は誰なのかな?お名前言える?」

「うん。あのね、ぼくはテディっていうの。」

「そう、いいお名前ね」

 ユリアは微笑んだ。

「おねえちゃんは?」

「私の名前はユリアよ」

「おねえちゃんもいい名前だね」

 まだうるうるしている瞳を細めて、テディははにかむように笑った。

(やだ、こんな時なのになんだけど、この子、なんて可愛いのー!!)

 黒く、短い髪の毛はツヤツヤサラサラ。こぼれそうに大きなうす茶色の瞳はうるうるして、うらやましいほど長いまつ毛をぬらしている。肌は子どもらしくもっちりしていて、ほっぺは柔らかそうなぷにぷにのやわやわ。泣いて興奮していたからか、頬が赤らんでいる。可愛さ割り増しだ。

 発光している不思議な男の子の可愛さに、この異常事態にも関わらず、ユリアは胸をキュンキュンさせていた。

 ユリアは無類の可愛いもの好き、綺麗なもの好きを自覚している。

 思えばアレクシスに一目惚れしたのだって、完全に見た目だ。

 この子は、ユリアの可愛いセンサーに見事に反応したのだ。

(ああ、縛られてさえいなかったら、あの子のほっぺをぷにぷにするのに・・・・!)

「・・・・・じゃなかった!ここはどこなの?」

 自分でも自分の異常さを感じ、ユリアは我に返った。

 確か、と自分の行動を思い返す。

 セシリア王立学園の夏季休暇が始まり、ユリアは実家に帰省するための馬車に乗ったのだ。

 馬車は実家、つまりシュマルフ侯爵家が手配してくれたもので、もちろん、普段ユリアの世話をしている侍女二人も一緒に乗っていた。また、馬車とともにやってきた公爵家の護衛騎士数人も別の馬に乗っていたのである。

 学園から王都へ帰省する貴族は多いため、道も公道として整備されている。もちろん、山道もあるが、馬車が安全に通ることができるよう、切り開かれ、お金をかけて整備している道だ。それなのに、馬車は急停車した。そして、何者かが馬車を襲ったのだ。

 騎士たちと争うような声や音がしたかと思うと、あっという間に顔を隠すために目以外を布で覆った者たちが馬車の中に侵入してきて、ユリアも侍女たちも悲鳴をあげた。ユリアは暴れたが、後ろから羽交い締めにされて、すぐに意識を失ったのだ。

 侍女の二人はどうなったのだろう。

 護衛の騎士たちは?

 ユリアはゾッとして、震えた。

 目の前には、不安そうな男の子がいるが、

(この子・・・光ってるのよね。)

 精霊の加護があるのだろうか。

 王族や高位の貴族には、生まれながらに精霊の加護をもつ者がいると聞く。

(だとすると、テディと名乗るこの子は、どこかの高位貴族の子息かもしれない・・・)

 ユリアと同じように、襲われ、攫われたのだろうか。

 フォンターク王国には、四大侯爵家という国内で最も権威のある4貴族が存在する。

 王族と公爵家は都市を含めた中央付近を収めているが、四大侯爵家は、中央以外の広大な土地の多くを管理している。もちろん、中央のような盛えた場所ばかりではないため、領地が多いことが富に繋がるかといえば、そう一概に言えるわけでもないが、政治への影響力が強く、権力は大きい。

 そして四大侯爵家の内の一つが、ユリアの生家であるシュマルフ侯爵家である。

 王家は四代侯爵家と婚姻を結ぶことが多く、現在の王妃キャロラインも、ミーディア侯爵家から嫁いでいる。ただ、四家の均衡を崩さないように同じ家紋から続けて王妃を娶らないようにしているため、王子の婚約者は政略的に選ばれるのである。ユリアがアレクシスの婚約者として選ばれたのは、決して顔が好みで、「ぜひ結婚したい!」と訴えたからではないのだ。

 だからこそ、政略的に決まった王族との婚約は、よほどのことがない限り覆らない。

 そもそも、なぜその四大侯爵家に権力があるかというと、物語のように受け継がれてきている伝説があるからだ。

 初代の王様がこの大陸の大精霊に祝福を受け、このフォンターク国を建国した。その際に尽力した四人の騎士たちも、同じように光の祝福を受けたというものだ。

 だから、精霊の加護をもつ人間がいるとするならば、それは四大侯爵家の血筋の者の可能性が高い。しかし、四者の関係は密接で、子どもたちもパーティ等で接見することが多いのだ。たとえお披露目をしていないにしても、話くらい聞くように思うが、ユリアはこの目の前にいるテディの姿を目にしたことも聞いたこともなかった。

(こんなにも可愛い子が侯爵家にいて、私が知らない、なんてことがあるかしら)

 しかも、肉眼で見える程の光を纏っているような、子ども。

(話題に上がらないわけがないわ)

 気にはなる。しかし、今はそれどころではない。どうにかこの縄を解いて、この状況から逃げ出したいところだ。

 ユリアが考えあぐねていると、テディが近寄ってきて、ユリアの後ろに回った。

「テディ?」

 テディはユリアを拘束している縄を解こうとした。

 しかし大人の力で固く結ばれた縄は、幼児の力ではびくともしない。

「う・・・なわ、ほどけな・・・」

 それでも、小さな柔らかい手で縄を解こうと、何度も手が白くなるほど力を入れるが、緩む気配もない。

 テディは悲しくなってきて、次第に瞳に涙が溢れてくる。

「う・・・う・・・・うわーん」

 ユリアの力になりたいのに、無力な自分が悲しい。

 テディは声を上げて泣いた。

 そして、その感情に呼応したように、光は強くなっていく。

「テディ!?」 

 光は急激に膨れ上がり、ユリアの視界を白く染める。膨張した光はその存在を示した。

  

 



 



 


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