27 獅子の咆哮
逃げ惑う人々、耳をつん裂くような悲鳴。
光の暴発、獅子の咆哮。
床に倒れる侍女は、もう起き上がることはないーーーーー。
混沌とした広間の中で、大好きなユリアが倒れれている。
目に映る現実が、テディの古い記憶を呼び覚ます。
自分がだれなのか、ここがどこなのか・・・頭が混乱して分からなくなっていく。
「ああ・・・あ・・・・」
毒を飲んだ時の痛みや苦しみが蘇るような気がした。
テディの体が発光し、次第に大きくなっていく。
そして、青白い光は小さな体を苦しみから救おうと、獅子に変化させていった。
「テディ様!」
ウィリアムがその名を呼んでも、もはやテディの耳には届かない。
「テディ!?」
ユリアは体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
ユリアが誘拐された時も、テディは光を放っていた。
しかし、今目の前で繰り広げられるあまりにも非現実的なその光景に、ユリアは呆然と立ち尽くす。
完全に獅子へと変化したテディは、理性を失くしているように見えた。
「ひっ・・・化け物・・・・・!」
自分より大きな獅子を目の前にして、ラクルードが背を向けて逃げようとする。
獅子は軽々と、ラクルードに飛びかかった。
「うわあ!!」
ラクルードは獅子の前足で背中を押さえ付けられ、身動きが取れなくなる。
懐に隠していた赤黒い魔石が、ゴロンと転がった。
「や・・やめてくれ・・・・・」
ラクルードの首元に獅子の顔が近付き、毛の先が肌に触れる。
あまりの恐ろしさに、ラクルードはウィリアムに助けを求めた。
「ウィリアム、た、助けて・・・助けてくれ・・・・・!!」
涙を流しながら、、自分が力を示したかった相手に助けを懇願する。
ウィリアムは咄嗟に捕獲の魔法陣を作成し、獅子へと放つ。
テディに人を傷付けさせたくなかったのだ。
しかし、獅子から放たれる光の力は、容易く魔法陣を弾き飛ばす。
攻撃を仕掛けられた獅子は、もう一度大きく咆哮した。
大広間に響きわたる獅子の声に、まだ避難しきれていない多くの人々が恐怖した。
響き渡る悲鳴。
大切な人を傷付た目の前の男への憎しみが抑えられない。
獅子は凄まじい光の力を体から放出しようとした。
ーーーーぼくをきらわないで・・・・・。
テディが泣いている。
人を傷付けることを、恐れていたテディ。
獣の自分を嫌わないで欲しいと、泣いていた。
いつもユリアを癒してくれた、可愛くて仕方がないテディが、獅子の中で泣いている。
人を傷付けたくなんかないって、泣いている。
「テディ・・・・・」
白光が広がるその中心に、ユリアは勢いよく飛び込んだ。
どうなるかなんて考えてはいられない。
ユリアのことが世界一好きだと、笑って言ってくれた大事なテディ。
可愛い彼を、これ以上傷付けたくなどないのだ。
獅子の大きな体躯に思い切り抱きつく。
「テディ、テディ、ねえ、テディ・・・・・」
獅子がどこか戸惑ったように大人しくなる。
「どんな姿をしたあなたも、私は大好き」
だから、と希う。
「優しいあなたに戻って・・・」
激情にかられて、憎しみに支配されてはいけない。
過去に縛られないでほしい。
あの二人で過ごした日々は、何ものにも代え難い、幸福な時間だったのだからーーーーー。
白光は美しいうす緑に色を変え、膨張する。
広間にいた周囲の人々は、その光を浴びて眠るように意識を失っていった。
離れるものかとユリアは必死に腕に力を込めたが、やがて意識は薄れ、目を開けていることができなくなった。
目を閉じる瞬間、目の前にぼんやりと見えたのは、ユリアがずっと恋い慕ってきた、銀髪の美しいアレクシスの姿だった。




