24 魔石
グレイ=アッシュべル騎士団長は、現在42歳。
全ての騎士の頂点に立ち、王宮を護る要だと評される彼だが、顔を見て初対面の子どもに泣かれることが悩みだという。
現在も、彼は小さな王子様に振り回されている。
厳格な彼を知る侍従や騎士は、笑わないように必死だ。
「グレイ、あれなあに?」
好奇心旺盛なディーンは、母の言いつけを守り、大きくて頼もしいグレイとギュッと手を繋いで移動する。
「?」
「あれ、あのキラキラしてるやつ」
ディーンが指差すその先にあるのは、手に取りやすい軽食や小さなケーキが乗っているテーブルだ。
しかし、その指先を向ける位置は低い。
(まさか・・・・・)
身長が低いディーンだからこそ気付くテーブルの下。
グレイは勢いよくテーブルクロスをめくる。
そこにあったのは、赤黒く光る魔石だった。
「馬鹿な・・・・・」
グレイは背中に汗が伝うのを感じた。
広間においては開場の直前に調べて、問題はなかったはずだった。
気付かれなかったと思うが、入場の際にはウィリアムが招待された貴族たちの魔力に異常がないかを調べていた。
あのウィリアムに気付かれないように魔石を持ち込むことなど、できるのだろうか。
しかし、後から持ち込んだのが、入場客ではなく王宮側の人間だとしたら?
怪しいと陛下から監視を指示されたラクルード=メナスは、騎士団が魔塔を訪れる前に姿を消していた。
魔石の窃盗に置いて、おそらくラクルードは黒だ。
今日の王宮に現れるようなことがあれば、護衛に当たっている騎士たちからグレイに連絡が入るはずだ。持ち込んだのがラクルードとは考えにくい。
今はそれよりも、この魔石が何のために持ち込まれているのか、だ。
今すぐ陛下に知らせ、パーティーを取りやめるべきか。
「殿下、失礼します」
「え?」
グレイはディーンを抱え、ウィリアムの元へ向かった。
ディーンは目線が高くなり、喜んでいる。
「わー!たかーい!」
(怖いと泣く様な方でなくてよかった)
その昔、アレクシスに同じようなことをして、大泣きされた上に、その後グレイがいると隠れられるほどに拒絶された過去は、一種のトラウマだった。
ウィリアムは広間のすぐ隣の部屋にいる。
「ウィリアム、今すぐに来てくれ」
ノックもせずに開けた扉の向こう側では、四つん這いのウィリアムに馬乗りになったテディが楽しそうに笑っていた。
「グレイ様、何かあったんですか?」
「質問は後だ、とりあえず来てくれ」
グレイは、王国一の魔法使いも王国一の騎士も、子どもには決して敵わないのだと理解する。
「リー様どこかにいくの?」
「テディ様を他の人に預けるのは不安ですからね、一緒に行きましょう」
ウィリアムは一瞬で何かの魔法陣を描く。
「完全には無理ですが、気付かれにくくなる認識阻害の魔法ですよ」
広間に入るとすぐに、ウィリアムは異様な魔力を感じ取った。
「これは・・・」
ただの魔力ではない。
ウィリアムは膨大な量の魔力が、今にも溢れ出しそうにピンと張り詰めているような緊張感を感じた。
咄嗟に、テディとディーンに高度な防御魔法をかける。
「魔石は一つではないですね」
ウィリアムが感じ取った魔石は全部で4つ。
「見つけて、回収しましょう」
「私はとりあえずこのことを陛下に知らせてくる」
何かが仕組まれている可能性がある以上、パーティーは中断せざる得ないだろう。
そこに、
「おや、これはこれは、騎士団長と筆頭魔法使い殿ではないですか」
何やら貫禄のある貴族に、ゆったりと声をかける。
「ザフィール侯爵様」
グレイは突然の四大侯爵家の当主に、咄嗟に礼をとる。
ウィリアムは不思議思った。
「なぜ、ぼくに気付いたのですか?」
「なぜ、と言われましても、あなたのことは存じ上げておりますよ」
「ぼくは、自分に認識阻害の魔法をかけています」
ウィリアムはパーティーに参加したくなかった。だから、見つかりにくいように認識阻害の魔法をテディと自分とにかけたのだ。
それなのにこの目の前の偉そうな貴族は、ウィリアムの存在に気付いた。
「ぼくに気付くことができるのは、よほど魔力が強いか、ぼくを探そうとしている者だけです」
その言葉に、ザフィールは暗い笑みを浮かべた。
「もう遅い」
ーーーー突然の爆発音に、貴族たちは悲鳴を上げる。
「陛下!」
グレイはディーンを抱えたまま、恐ろしいスピードで国王の元へ向かう。
「あなたは・・・」
ウィリアムは目の前に対峙するこの男が、この騒動の仕掛け人だと確信した。
「人の心は移ろいやすく、脆いものですね。心の隙を付けば、誰でも闇に落とすことができる」
ウィリアムは魔方陣を描き、目の前の男を捕獲しようとしたが、弾かれる。
「!?」
「嫉妬というのは恐ろしいものですね」
ザフィールは楽しそうに笑い、ウィリアムに背を向けた。




