22 フレディ=カイゼン2
王宮でアレクシスが毒殺されそうになったということをフレディが知ったのは、事件から1週間以上経った日のことだった。
「ねえ、メアリはどこに行ったの?」
最近見かけない乳母を不思議に思い、フレディは侍女に訪ねた。この質問をするのは初めてではない。数日前にも他の侍女に聞いたのだが、はぐらかして、答えてはもらえなかったのだ。
侍女はピタリ、と動きを止めて言った。
「メアリ様はご両親が体調を崩されたから、ご自宅の方に下がられたのですよ」
「え・・・・・」
いくら緊急時とは言え、フレディに何も言わず1週間も連絡がないままなんてことがあるだろうか、とフレディは不審に思った。
「元気になったら帰ってくる?」
「さあ、どうでしょうね」
私には分かりかねます、と侍女は寂しそうに言った。
メアリは元々、母の生家である伯爵家からついてきた侍女だった。
伯爵家から王宮について来てくれたメアリをマリーベルは心から信頼していたが、メアリは結婚を機に、里に下がっていた。しかし、出産した息子を不慮の事故で亡くしてしまったメアリは情緒不安的になり、結婚相手ともうまくいかなくなった。そのことを知ったマリーベルが、ぜひフレディの乳母になってくれと頼み、離縁して王宮へ帰ってきたのだ。
それ以来、メアリは息子のようにフレディを大切に育てた。
マリーベルが亡くなった時に、兄妹の中でも孤立しがちなフレディを支えようと、ずっと側にいて励まし続けたのもメアリだ。
父親にもうまく甘えられなくなってしまったフレディが、唯一頼れる相手だった。
周りが自分にメアリについての何かを隠そうとしていると感じていた頃、フレディは四大侯爵の一人である、キーフ=ザフィール侯爵に会った。
「私はお母様とは学園の同級生だったのですよ」
侯爵は懐かしむように言った。
フレディが母の話をしてほしいとせがむと、侯爵は次々にマリーベルとの思い出を話した。
その昔、エドワードの祖父とマリーベルの祖母はセシリア王立学園で出会い、恋仲になった。しかし当時、二人にはそれぞれの家が決めた婚約者がいたため、結ばれなかったという。
当時苦かった記憶は、時が立ち、初恋のいい思い出という形に姿を変えた。
エドワードの祖父は、自分たちの孫同士を結婚させたいと考え、提案した。伯爵家が王家からの申し入れを断るはずもなく、書面で契約するにまで至った。
両親からその話を聞いたマリーベルは、エドワード王を運命の相手だと思ったのだという。
しかし、エドワードが運命だと感じた相手は、マリーベルではなく、キャロラインだった。
マリーベルのことも嫌いなわけではない。それならば、身分の高いミーディア侯爵家のキャロラインを正妃にし、伯爵家のマリーベルを側妃として迎え入れれば何の問題もないではないか、というのが王家の出した結論だった。
幼い頃からエドワードに憧れ、恋焦がれていたマリーベルの心中は複雑だったという。
そしてエドワードを一途に思うマリーベルに、キーフは片思いしていた。
「『2番目の妻として王家に嫁ぐよりも、1番に愛される侯爵家の妻になるのはどうだい』って、私は真剣に彼女にプロポーズをしたんだがね」
ーーーーいやよ、私はエドワード様を愛しているのだもの。何番目だって構わないわ。
「いやぁ、見事なまでの一途さに、凝りもせずまた惚れ込んでしまってね」
とザフィール侯爵は楽しそうに語った。
「彼女は私の天使だった・・・・・おっと、今の話、私の奥方には内緒にしておくれよ」
と冗談のように付け足す。
フレディは母をこんなふうに思ってくれる相手がいたことに驚き、嬉しかった。
エドワード王がマリーベルよりもキャロラインを優先していることは、幼いフレディにも分かっていたからだ。
「マリーベル様がお亡くなりになったと聞いた時には、信じられなかったよ」
母の死を悲しんでくれる人が、家族以外にもいるのだと知り、フレディ慰められるような気がした。
「それに今度はメアリまで・・・・」
ザフィール侯爵の言葉に、体が固まる。
「メアリ?」
「まさか、知らないのですか?メアリは殿下の乳母だったのでは?」
「・・・・知らない」
フレディはギュッと拳を握りしめる。
「ぼくには誰も・・・何も教えてくれないんだ・・・・・」
マリーベルが亡くなった時もそうだった、なぜ、どうして死ななくてはならなかったのか。どういう病気で亡くなったのか、なぜ会ってはいけなかったのか。
まだ子どもだからと言って、フレディを真実から遠ざけようとする。
「おかわいそうにフレディ殿下、私でよければ力になりますぞ」
フレディに寄り添った言葉をくれるザフィール侯爵は、実の父親よりも信頼できる人に思えた。




