21 フレディ=カイゼン1
ーーーーーフレディ様、あなたの弟ですよ。
初めて目にした弟は、壊れそうな程小さかった。
カイゼン王家には二人の妃がいる。
正妃であるキャロラインと、側妃であるマリーベル。
生まれたばかりのディーンと名付けられた赤子はキャロラインの子で、マリーベルを母にもつフレディとは腹違いだったが、キャロラインはいつもフレディにも優しかった。
1歳違いの双子の兄と姉は、二人でいるのが心地よいらしく、フレディは何となく疎外感を感じていた。また、サーシャとは違い、出産時、お腹の外に出るのに時間がかかったレオンは生まれつき病弱で、みんなから心配されていた。大人たちはレオンにかかりきりになることが多く、フレディのそばにいるのは兄姉でも両親でもなく、乳母や侍女たちだった。
それでも健康に育っているディーンに、母親は期待を込めて言う。
「あなたには王様になれる可能性があるわ」
病弱なレオンには難しい。女性のサーシャは論外。でもフレディなら・・・・・。
「アレクお兄様は?」
フレディが尋ねると、マリーベルはふわりと笑う。
「そうね、アレクシス様がいたわね」
なぜ笑うのかは分からなかったが、母に期待されていることは、なんとなく誇らしかった。
そして、フレディが8歳の時に弟ディーンが生まれた。
「可愛い・・・・」
小さくて、可愛くて、触ろうと手を伸ばそうとした。
(触ったら壊れちゃうかな・・・)
寸前で怖くなって手を引くと、キャロラインは笑って言った。
「触っても大丈夫よ」
促されて、その柔らかそうな頬に触れる。
「うわあ・・・」
柔らかそう、と思っていたのに、実際の柔らかさに驚いて声を上げた。
そんなフレディに、キャロラインの侍女たちは微笑ましいと温かい目を向ける。
「フレディ様はお兄様だから、この子に優しくしてあげてちょうだいね」
キャロラインは小さなディーンを抱きながら、慈しむように言った。
フレディは、はいと返事をしつつ、宝物のように大事にされている姿を少し羨ましく思った。
フレディが10歳を迎える前に、マリーベルは亡くなった。
病気だったらしいが、何の病気かは知らない。
約半年前に発症したらしく、フレディはそれから母親に会うことができなかった。
遺体になったマリーベルは、痩せ細り、頬がこけ、髪も艶をなくしていた。
あの柔らかく、美しかった母はもういない。
レオンとサーシャとフレディの3人で、棺に縋って泣いた。
棺の蓋を閉められるのが嫌で・・・二度と母親と会えないことを決定付けられてしまうようで、泣きながら「やめて」と叫んだが、大人たちは聞いてはくれなかった。
母親がいなくなっても、お腹は空くし、日常は過ぎていく。
大切なものを失った痛みが少しずつ癒えてきたある日、フレディは見た。
ディーンの部屋に、エドワードとキャロライン、アレクシスが集まっているのを。
以前、キャロラインはいつでもディーンに会いに来ていいと言った。だからその日も、二人で寄り添い合う双子を尻目に、ディーンの部屋を訪ねたのだ。
ディーンは2歳になったばかりで、話すことも歩くこともできるようになって、元気いっぱいだった。
そんなディーンを中心にして、部屋には温かい時間が流れている。
当時、アレクシスはまだ12歳。
エドワード王の髪や瞳の色を受け継ぎ、幼いながらに兄が特別美しい容姿をしていることは、フレディにも分かっていた。王位継承権第一位であるアレクシスは、当然のように周囲に期待され、フレディには守られているように見えた。
アレクシスがいる限り、母が期待していた王座にフレディが着くことはない。
母の願いが叶うことはないのだ。
幼いディーンが部屋の中を楽しげに走り回る。「危ないですよ」と言いながら乳母が追いかけるが、間に合わず転んだ。
キャロラインは立ち上がり、ディーンのそばまで行ってしゃがむ。
「大丈夫ですか、ディーン」
声をかけられて転んだことに気がついたのか、とたんに泣き出した。
「かーさまぁっ!」
起き上がって、母に抱きつく。
キャロラインは「仕方がない子ね」と言いながら、幼い我が子を抱き上げた。エドワードはぐずるディーンに「強い子はいつまでも泣かないものだぞ」と話しかけるが、ディーンにプイとされて、ショックを受けている。
アレクシスはキャロラインの腕に抱かれるディーンの頭をなで、いい子いい子と慰めた。
「仕方がない子」と言われるようなことをしても、みんながディーンを愛している。
(自分で勝手に転んだんじゃないか)
フレディは思った。
乳母が止めるのも聞かず、自分勝手に走り回って、転んで、慰めてくれるからって優しい人に甘えて・・・・自分にはもう、甘い声で名前を呼んでくれる母はいないのに。
(・・・・ずるい・・・・)
あんなにディーンを可愛いと思っていたのに、フレディは悔しくて仕方がなかった。
あの部屋にあった愛情。
温かい空気。
フレディもあれが欲しかった。
そして、寂しさを忙しい父親に告げることもできないまま、フレディはどこか鬱々とした日々を送っていた。
ーーーーアレクシスが毒殺されそうになったのは、その翌年のことだった。




