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20 ファビル=シャウジャミアン

 フォンターク王国の貴族たちが和やかに談笑している中、中央の扉から入ってきた十人の友好使節団は、国王夫妻の元まで列を成して歩き、サッと跪いた。その統率のとれた動きに、広間がシンと静まり返る。

 そしてフォンタークの貴族にはあまりいない野生味の溢れる大使の精悍な外見に、数人の貴族女性たちが興奮に頬を染めた。

「大精霊リオネルの祝福を受けしエドワード=カイゼン陛下に、ファビル=シャウジャミアンが拝謁いたします。父王の命により、使節団を代表し、友好大使を務めさせていただいております」

 会場中に、やや低音のその声がゆっくりと響き渡る。

「今回こちらの訪問を心よく受け入れてくだったこと、恐悦至極にございます。こちらはシャウジャミアンに伝わる伝統的な製法で作られたサメスという織物。どうかお納めください」

「ファビル王太子よ、長旅ご苦労であった。我が国は貴国の発展に助力することを決定した。今回の訪問では、我が国の産業、政策について存分に学ばれるがよかろう」

 大国の威厳を感じさせるようなエドワード王の言葉に、使節団は頭を垂れた。

「ありがたき幸せでございます」 

 鮮烈な印象を与えた訪問の挨拶は和やかに終わり、会場には穏やかな音楽が流れ始める。

 それが合図であったのだろう側面の壁に張り付いていた給仕係が、使節団に飲み物を勧め、国王夫妻はなるべく多くの人と交流をもつために王座から移動した。控えていた侍従たちも使節団の荷物を移動するために一斉に動き出し、会場の雰囲気が一気に砕けたものへと変わる。

 しばらくすると、自然と国王夫妻へ挨拶をしようと並ぶ列ができた。

 今日は王家の面々も勢揃いで、実に華々しい。

 第一王子アレクシスと、その婚約者のユリア侯爵令嬢。

 第二王子レオンとその双子で第一王女のサーシャ。

 第三者王子フレディと第四王子ディーンだ。

 年若い彼らは美しく、王族ならではの雰囲気を纏っている。

 その中でも特に抜きん出て美しいのが第一王子アレクシスだ。隣に婚約者がいても、思わず見惚れてしまうほどの美しさである。

 挨拶に訪れる貴族女性には、既婚未婚に限らず、ユリアを恨めしそうに見るものがいた。

 そんな視線を浴びるたびに、ユリアは複雑な心境になる。

「あなたたちはもう少し他の方と交流をしていらっしゃい」

 王妃の言葉にアレクシス以外の子どもたちは頷き、既知の貴族に挨拶へ行こうとそれぞれに移動していった。

 第四王子ディーン以外は全員がセシリア王立学園の生徒だ。招待された貴族の中には学業を共にしているものもいる。

「ディーンはアッシュベル卿と一緒に行動するのよ。わがままを言ってはぐれてはいけません」

 そう言って王妃はまだ7才のディーン王子の頬を愛おしそうに撫でた。

「はい、お母様」

 そんなディーン王子を見て、ユリアは思う。

(か・・・可愛い・・・・・!)

「アッシュベル卿、ディーンをお願いね。何かおいしいものでも食べさせてあげて」

「はっ」

 騎士団長グレイ=アッシュベルは騎士然とした返答をし、ディーンと手を繋いで食べ物の場所へ移動していった。がっしりとした大きな体躯の団長と小さなディーン王子の二人が手を繋ぐ姿は何とも言えない可愛らしさがある。

 キャロラインの実子はアレクシスとディーン王子の二人だ。恥ずかしがり屋でシャイだったアレクシスの幼いころに比べて、ディーン王子には末っ子にありがちなわんぱくさや器用さが感じられた。当然二人は似ているのだが、それともう一人。

(あれ?テディにも似てる・・・・?)

 髪や瞳の色は違うけれど、ディーン王子とテディは似ている。

(まさかテディ、国王夫妻の隠し子じゃないでしょうね・・・)

 一瞬そう思ったが、幼い頃から王妃教育を受けてきたユリアは王妃と対面することも多く、妊娠していたのはディーン王子を出産した時だけだと振り返る。

 テディは今()()()4歳。ユリアがセシリア王立学園に入学する前に出産しているならば気付くはずだから、そんなことはありない。

 しかし、こう似ているのだから、何らかの血のつながりはあるのかもしれないと、一人納得した。

 パーティーが始まる前にテディを国王夫妻に紹介しに行ったとき、まるで祖父母のような接し方だったのを思い出す。その姿はテディにデレデレのマグリッドを彷彿とさせた。

(普段は威厳あるお二人なのに・・・)

 みんな猫をかぶって生活しているのだということを、ユリアは実感するのであった。

 テディは今別室でウィリアムと共に過ごしている。

 ウィリアムは高名な魔法使いだが、平民出身のため、パーティーのマナーなどは知らない。幼い頃から王宮に仕えているのだから覚えればいいだけなのだが、興味も時間もなかったのだという。

 緊張するのが嫌だという本人の希望もあり、護衛としてはいるが別室待機で、パーティーには参加しないとのことだ。それでも万が一には姿を現さないといけないため、念の為の正装をしていた。

(完全に衣装に着られていたなあ)

 後でもう一度見たい、と思いながら、ユリアは笑顔を貼り付けたようにしてアレクシスの隣に立っていた。

 次期王太子として紹介するという体で、アレクシスだけは国王夫妻の隣に残っている。

 自国の貴族の挨拶があらかた終わったところで、シャウジャミアンの使節団の数人がやってきて、アレクシスの外見を美しいと褒め称えていた。

 ユリアはその隣で侯爵令嬢らしく笑みを貼り付けていたのだが・・・・・。

「本当に美しい、ユリア=シュマルフ侯爵令嬢様」

 突然に自分の名を挙げられて、内心戸惑ったが、顔には出さないようにした。

「ありがとうございます。勿体無いお言葉です」

「ファビル殿、この令嬢はアレクシスの婚約者だ。そのお姿で魅了しないようにしてくだされ」

 女性の容姿を誉めるのは貴族の嗜みではあるが、ユリアはファビルから向けられる視線に、どこか嫌なものを感じた。

「アレクシス殿下は令嬢のどこがお好きなのですか」

 無邪気を装って、ファビルは尋ねる。

 その目は、まるでアレクシスが偽物だと知っているかのようだ。

 ユリアはドクドクと心臓が脈打つのを感じたが、恥じらうように言った。

「そのようなこと、恥ずかしいですわ」

「ふふ、アレクシスはこの通りシャイな子ですから、そのようなことは二人きりの時ではないと親にも話さないですわ」

 何も言わないアレクシスを、いつものことだというように王妃が笑って見せる。

(王妃様、さすがだわ・・・・・)

 その時、宰相のギャレットがスッと近付き、エドワード王に耳打ちをした。

 エドワード王は短く頷き、アレクシスとユリアを見る。

「アレクシス、ユリア嬢、シュマルフ侯爵が二人に紹介したい人がいるらしい。行ってくるがよい」

 打ち合わせ通り、避難の合図だ。

 これ以上は危険だと判断した際の緊急措置である。

「まあ、お父様が?」

「分かりました。申し訳ないがファビル殿、私とユリアは一旦失礼させていただきます」

 アレクシスは澱むことなく微笑みながら礼をした。

 ファビルは一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに悠然と笑い返した。

「何、一日は長い。また後ほどお話を聞かせてください」

 ユリアはその場を去る簡単なカーテシーをして、腕を組み直してアレクシスと見つめ合うようにしながらファビルに背を向けた。その背中に、刺さるような視線を感じながら・・・・・。


 

 


 







 

 

 


 






 


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