2 可愛い男の子1
ユリアは現在、「文化的行事部」という組織に所属し、力を注いでいる。
学園内で文化的な活動を円滑に行うためのサポートをする部であり、生徒会と人気を二分する組織である。
ちなみに、現在の生徒会長はアレクシスだ。入学してすぐにアレクシスが生徒会に所属したため、ユリアは近付こうとも思わなかった。
そう、今となっては、ユリアはパーティーでもない限り、アレクシスとの接触を避けていた。
仕方なく関わらなくてはならない時は、むしろ憂鬱だった。気持ちが一喜一憂するのが分かりきっていたからだ。
どれだけそっけない態度を取られたとしても、ユリアはアレクシスを嫌いにはなれなかった。仲のいい友達ができても、かっこいいと思う友達はいても、「好き」だと、相手を恋しく思うような相手はできなかった。
どうあっても、このままいいけば卒業後はアレクシスと結婚する。
たとえ一生片思いだとしても・・・・・・。
「ユリア様、夏季休暇までもうすぐですわね。」
親しげに話しかけてきたのは、同じ文化的行事部で活動しているミラー伯爵令嬢である。気の強い彼女は、最初はユリアに対して、「負けなくてよ」とライバルのように挑んできたが、奮闘の甲斐あってか、今ではとても良い友好関係を築いている。
「ええ、これが私たちの最後の夏季休暇になるかと思うと、感慨深いものがあるわね。」
セリシア王立学園には、夏季と冬季に1ヶ月の年長期休業期間がある。この自由期間をどう使うかは学生次第であるが、貴族は実家に帰省して過ごすものがほとんどだ。
その間に、卒業後の進路のことについて実家と話合いをしたり、婚約者と逢瀬をしたりするのだ。
卒業後、第一王子であるアレクシスは立太子され、王太子となる。その後に、結婚式が行われるため、立太子の披露パーティーに加え、結婚式典から披露宴と、大忙しの予定が組まれている。
夏季休暇は、そんなユリアがゆったりとした気持ちで過ごすことのできる貴重な時間だった。
「ユリア様とこんな風に過ごすことができる時間が刻一刻と減っているのかと思うと、私、寂しいですわ。」
「気が早いわよ。」
二人は目を合わせて微笑んだ。
学園生活は本当に充実している。これまでユリアが前を向き続けてこられたのは、友達が支えてくれたからだ。
今後、王宮ではどういう立場に立たされるかっは分からない。
アレクシスの寵愛を受けられないのだとすると、王室がすぐにアレクシスに側室を娶る可能性もユリアは考えていた。
そうなった時、頼れるのはシュマルフ侯爵家の家族と友達である。
学園で友達に支えられながら、自分らしくあり続けることができたユリアは、結婚後もそうありたいとただそれだけを考えていたのだ。
アレクシスと恋愛ができなくても、家族にはなれるかもしれない。女として愛されないかもしれない未来がどれほど孤独なものになるかを想像すると、震えるほど恐ろしい。それでも、前を向いて生きて行きたかった。
今まで目を背けてきたけれど、夏季休暇にはアレクシスと話がしたいと考えている。
幼い頃は仲が良かったのだ。アレクシスはユリアが婚約者に決まったことを確かに喜んでくれていた。
恥ずかしがり屋のアレクシスが照れながら伝えてくれた、あの宝物のようなキラキラした時間を、ユリアは決して忘れることはないだろう。あれが嘘だったなんて思えない。
だとしたら、アレクシスは一体なぜ、ユリアをああも避けるようになったのだろう。
何かしたのだろうかと考えはするが、ユリアに思い当たることはなかった。
だからこそ、この夏季休暇には話をして、はっきりとアレクシスの話が聞きたいのだ。ユリアの何かが気にいらないのか、それとも、問題はアレクシスの方にあり、ユリア以外に思う人ができたのか・・・・・。
考えたくはなかったから、考えないようにしてきた。
けれど、このまま結婚するのは、あまりにも苦しすぎる。
政略上のことがあるから結婚を取り止めることはできないにしても、それならそれで、真実を知った上で、二人の関係を築いていきたかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「痛い」
縄で縛られた腕と背中が痛くて意識を取り戻した。
目を開けても薄暗く、視界ははっきりとはしなかった。
ユリアは両腕ごとぐるぐる巻きに縛られて、身動きが取れなかった。身を起こすことさえ難しいが、身体を捩り、なんとか横を向くことができた。
すると、
「光ってる・・・・・・」
柔らかい優しい光が、ほんのりと彼を包んでいた。
「ひっ・・・く・・・ん」
(泣いているの?)
「お、おねちゃ・・・・おきたの・・・?う、うえっ・・・く・・・」
それは、まだ3、4歳程度に見える、小さな小さな男の子だった。




