19 シャウジャミアン王国
フォンターク王国はボルガシオ大陸の東南部にあり、東部と南部は海に面している。国土には豊かな河川が枝分かれ上に伸びているため大地は肥沃し、農作物に恵まれていた。また、北部の国境沿いには山脈が連なり、森林、鉱物などの資源も豊かだった。
国土面積の割に恵まれすぎだと言っても過言ではない。そしてそれらは全て、大精霊リオネルの恩恵だと言われている。
一方、隣国のシャウジャミアン国内の食糧事情は、穏やかではなかった。
元々、フォンターク王国西側には多数の小国家が乱立しており、互いに対立を繰り返していた。
しかし、知略に優れた現在のシャウジャミアン国王が小国家統一を宣言し、実際に策略と武力で統一を成し遂げたのである。とはいえ、その内実は他民族の寄せ集めだ。今はシャウジャミジャン王の独裁政治に従っているが、王家が弱みを見せれば、いつ内乱に発展してもおかしくない。
ようやく統一された王国を、安定させていきたい。
そのためには、フォンターク王国との友好関係を築き、技術を学び、土地を肥やし、国民が飢えない政治をおこなっていかなければならない。
今回の訪問は、そのための支援を受けるためのものである。
「・・・というのが、建前だな」
男は目を細め、ほくそ笑んだ。
男には欲しいものがある。
欲しいなら、手に入れる。
それが真の権力者たるものだろう。
そう、たとえどんな手を使ったとしても、だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
久しぶりに参加する王宮でのパーティー。
ユリアの侍女たちは張り切った。
それはもう、もてる技術の全てを駆使して、ユリアを着飾った。
ドレスは、艶のある青い下生地の上に銀糸の刺繍を入れた美しいレースを何層にも重ねたものだ。華やかなレースの合間から透けて見える青は優しく、ユリアによく似合っていた。
「きっとアレクシス殿下にお褒めいただけますよ」
と太鼓判を押される。
屋敷の者は、今日のパーティーのパートナーをアレクシスだと思っているが、
(本当の相手は泥人形なんだけどね・・・・・)
アレクシスの変わり身の隣に立ち、シャウジャミアンの友好大使団や自国の貴族にボロが出ないようにサポートするのが、ユリアの本当の参加目的だ。
責任の重い役割に、果たして無事に終われるだろうか、と気が気ではない。
泥人形を使った変わり身は、昔から王族を守るために時折使われてきた魔法らしい。
その元々のサイズは、なんと手の平程度の大きさのもので、魔法陣の上に置き、魔力を込めることで人間化するのだそうだ。しかし、アレクシスの変わり身のように、身近に接してもバレないほどの精巧なものはそうそうできないという。ウィリアムの繊細かつ緻密な魔法陣だからこそ、成せる技だというのだ。
(ウィリアムさん、本当なんでもありだなー)
あんなに何も出来なさそうな感じなのに・・・と失礼なことを考えてしまい、ユリアは笑いそうになる表情を無理矢理引き締めた。
今日は王妃からウィリアムも警護に参加すると聞いている。
いつも同じ魔塔の服を着ているが、、同じものを繰り返し着ているのだろう、その服はいつもよれよれで、くたびれている。しかし、さすがに今日は違うだろう。
(ちょっと楽しみだな)
四大公爵家の一家紋としてシュマルフ侯爵夫妻、次期侯爵としてセドリックも招待を受けている。テディは、存在を公表していないため、今日はエセルバートやメルたちとお留守番・・・のはずだったのだが、エドワード王から王宮に連れてくるように、と通達があった。パーティーに参加する訳ではないが、テディも王宮ようにおめかしをしている。それがとてつもなく可愛い。
(絶対、お父様が用意したのだわ、あの衣装・・・めちゃくちゃ似合っていたもの)
父に同じ匂いを感じるユリアは、次は自分が衣装を用意して見せる、と意気込む。
件の耳と尻尾は、テディが寝ている綺麗さっぱり姿を消していた。
いつものテディにホッとしつつも、どこか残念に思う。
(もったいないわよね・・・あんなに可愛いのに)
「お嬢様、そろそろ出発のお時間でございます」
時間を告げに来たメルに礼を言い、ユリアは立ち上がり、呟いた。
「負けないわ」
ようやく、アレクシスの真実を知ることができるだから。




