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18 テディの記憶 

 長いまつ気をぴくりと揺らし、ゆっくりと瞳が開いた。

 ウィリアムは心配そうに顔を覗き込み、驚かせないようにと穏やかに声をかけた。

「おはようございます。痛いところはないですか?」

 だんだんと覚醒していく意識の中で、ぼんやりとした記憶が呼び戻される

 溢れ出す光、人々の悲鳴、自分の姿を見ては恐怖に慄き、逃げ惑う人々・・・・・。

「ああ・・・ああああ・・・・!」

 圧倒的な力の中で怪我をして蹲る人々、床に横たわる絶命した女性。

「大丈夫、大丈夫ですよー」

 魔法使いは、記憶のフラッシュバックに混乱する小さな男の子を優しく抱きしめた。

 その体は、温かい。

「ぼくは・・・ぼくは・・・」

 思い出そうとするも、何かが記憶を塞ぐようにして、頭の中が真っ白になる。

「ぼくは・・・・だれなの・・・・・?」

 ウィリアムの魔法は、加護の力をもつ獅子を人間に戻すことには成功したものの、事件以前のその者の記憶を全て奪っていた。

 



 記憶を失くしたことが判明した後、見舞いに訪れたエドワード=カイゼンは仮の名を付けた。

「記憶を取り戻すまで、其方は名を、テオドールと名乗るがよい」

 与えられた名はテオドール、通称テディ。

 テディは、化け物じみた自分が、この世に存在してもいい印をもらえたような気がした。

「この者の名前はウィリアム。私が信頼する魔法使いだ。其方を救った、頼れる男だ」

 エドワードはそう言ったが、テディの目に映るウィリアムはくたびれ、どこか自信がなさそうに見えた。けれど、

(とてもやさしそう・・・・・)

 それからは、一日の時間のほとんどをウィリアムと過ごした。ウィリアムはいつも難しそうな本を読んでいたり、何かを書いたりしていた。そして、時々、思い付いたように魔法陣を描いては、テディに試していた。

 最初は誰かをまた傷付けるのではないかと恐怖した獣化も、ウィリアムとなら平気になっていった。そして、テディは四つ足で風を切って駆け回る楽しさを覚えた。

 獣化は楽しみなことになり、だんだんとテディは明るくなっていった。 

 ウィリアムが楽しそうに全力で遊んでくれるからだ。

 魔法陣のおかげで、力が解放されても人を傷付けることはなかったし、ウィリアムやエドワード王、そしてキャロライン王妃も、テディが人間でも獅子でも、変わらず可愛がってくれた。

 テディはエドワード王から、獅子に変身できることは誰にも話してはいけないと教えられた。テディも恐ろしい自分の姿を他の誰にも知られたくはなかったから、すぐに了承した。

 テディは、それが自分に向けられたものだと、よく分かっていた。

 ウィリアムの魔法陣は一進一退しながら、進化を遂げていった。

 そして、ウィリアムとの生活が2年ほど続いた頃、テディの記憶は突然プツリと途切れた。




「それでね、さむさむーってしてたのに、あつあつーってなっててね、ぼく、びっくりしたの」

 ユリアは実に根気強く、テディの話に耳を傾けた。

 テディの語彙の少なさを想像で補いながら、なんとか自分なりに理解しようとするが、幼児のふわふわした話から事実を探り出すのは、なかなかに難しいことだった。

 要するに、冬にテディとしての意識は一旦途切れ、次に意識を取り戻したときには、夏だったということだろうか。

 だとすればその期間に、一体何があったのだろう。

「テディ、私を助けてくれた日のことは覚えているの?」

「うーん、あのときはねー、なんだかゾワっとしたの。背中とか、うでのところにボコボコができてねー」

 鳥肌が立った、ということだろうか。

「何もしていないのに、体がふわあってなってね、気がついたらあそこにいたの」

(うーん、分からん・・・)

「じゃあ、テディもなぜあそこにいたのかは分からないのね」

「うん。おねえちゃん、おなわでぐるぐるでね、ゆかにころがっていたの。ぼく、また、ぼくの力でおねえちゃんがたおれたんだと思って、こわかった・・・」

 うつむいたテディの手を、ユリアはそっと握りしめた。

「私を助けてくれて、ありがとう、テディ」

 ユリアはそう言って微笑む。

「あのね、ふしぎなんだよ!おねえちゃんが笑うとね、なんだか大きいネコさんになったときみたいな気持ちになるの」

 獅子は大きいネコではないが、ユリアは否定しなかった。

「どういう気持ちなの?」

「なんか、ここがね、ふわああってなる」

 テディは胸の辺りを押さえて、嬉しそうに笑った。

 ユリアも胸が温かくなる。

「そうだ、テディに言おうと思っていたの」

 テディはこてんと首を傾ける。

「なあに?」

「私はねテディの可愛い耳もふさふさの尻尾も、ぜーんぶ大好きだわ」

 ユリアは心からそう思った。

(世の中にこれ以上可愛い子はいないわ)

「ぼくね、ぼく・・・おねえちゃんのことが世界で一番すき!」

 こぼれそうほど大きな瞳を潤ませて、テディはユリアに抱きついた。

 ピンと立った耳と喜びに揺れる尻尾がユリアの視界に入る。

(何この可愛い生き物!か〜わ〜い〜い〜!!)


 ウィリアムの補足情報が欲しいところだったが、ユリアが次にウィリアムに会うことができたのは、シャウジャミアンの友好大使との交流パーティーであった。

 





 


 

 



 


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