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17 亡きあなたを貴方を思う

 四大侯爵家の一つ、ザフィール侯爵家の一角には、大きな人物画が飾られた部屋があった。当主のキール=ザフィール侯爵と掃除目的の侍女以外は入ることが許されていない特別な部屋。

 ザフィール侯爵は定期的にこの部屋を訪れ、絵を眺める。

 額縁の中で微笑んでいる女性は、柔らかそうな金髪に緑色の眼をしている美しい人だ。

 甘く可愛らしい、一途な思いをまっすぐに語る少女の美しさを、キールは生涯忘れないだろう。

ーーーーキールには夢がないですわ。

 拗ねたようにいう少女は、自覚なく男を魅了する。

 自分ではない男を思い、キラキラと瞳を輝かせながら夢を語る少女。

 その思いが自分に向けられることは永遠にない。

 絵の中の美しい人が年を取ることがないように・・・・・。

「もうすぐです」

 ザフィール侯爵は一人呟いた。絵の女性に、囁きかけるように。

「必ず、貴方の願いを叶えてみせる」

 長い年月をかけて、計画をしてきた。

 そのための楔はすでに打ってある。

 あとは、そのときがくるのをただ待つのみだ。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ユリアは寝室に帰り、眠っているテディの様子をのぞきこんだ。

 心地良い寝息が聞こえ、その表情は穏やかだ。

 泣いた時に目を擦ったのだろう、未だ瞼が腫れぼったい。

 テディの不安を想像し、ユリアは胸がギュッと締め付けられた。

 布団から出ている手は柔らかく、小さい。

 こんな小さなテディの命を、誰かが害そうとした。

 不可抗力とはいえ、周りの人を傷つけた記憶は簡単に消えることはないだろう。

「こんな可愛い耳と尻尾、嫌いになるわけがないわ」

 いや、むしろテディの可愛さが割増されているのではないか。

 柔らかそうな耳。

 さっきまでゆらゆらと揺れていた尻尾も、今は力を失くし、くったりとしている。

 ふわふわの耳を触りたい衝動にかられたが、さすがに勝手に触るのは変態じみているか、とユリアは耐え忍んだ。

 ウィリアムの話を聞いても、まだ、よく分からないことがある。

 セシリア王立学園からの帰路での襲撃の記憶ははっきりしないところが多い。侯爵家だけでなく、騎士団も調査に当たってくれているというが、成果は上がっていない。

 囚われていた部屋の中で発光していたテディ。幼い彼は、一体どうやって現れたのだろう。そしてなぜ、ユリアを救ってくれたのだろう。

 ウィリアムが迎えに来たことで、すぐにお別れになるのでは、と危ぶんだが、ウィリアムの話では、当分は侯爵家でテディを保護してほしいとのことだった。

 あの後、ウィリアムは侯爵家には泊まらず、魔法陣を使って王宮へ向かった。

(魔法使いってなんでもありなのね)

 便利なものだ。応接室にいたはずのウィリアムは美しい魔法陣を描いたかと思うと、一瞬で消えていなくなったのである。

 おそらく、テディの獣化について知られたことを、エドワード王に報告に行ったのだろう。

 テディが目を覚ましたら、これまでの話をゆっくり聞いてみたいと思いながら、ユリアはしばらくの間、安らかなその寝顔を眺めていた。

 

 

 

 

 

 



 

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