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姉が好きすぎる令嬢の憂鬱。〜姉の婚約者に口説かれた。どうやら王都の男どもの目は節穴らしい〜  作者: 藍野ナナカ(雇われ悪女1巻6/5)
猿百合令嬢、王都に行く

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(47)節穴ではないらしい


 私はバスケットから別のお菓子を取り出した。

 こちらは普通のフルーツケーキのようだ。ちょっと上品なフルーツ風味は庶民にとっては贅沢なお菓子だけど、この普通さが落ち着く。

 もぐもぐと食べていると、お兄さんがじっと見ていることに気がついた。


「お兄さん、外では食べないんでしょう? これはリグが入っていないから、無理に食べなくていいですよ」

「お前の家の料理人は、菓子作りがうまいようだな」

「そうでしょう! でもこれはあげませんよ。毒かもしれませんから」

「お前が食べているのなら、毒ではないだろう」


 お兄さんはそう言って、私の手をぐっと掴んだ。

 え、ちょっと、それはまさかっ!


「新しいのをあげますから、そっちを食べてください!」

「毒かもしれない」


 お兄さんは私が持っているケーキを食べた。

 私の食べかけなのに!

 しかも全部食べた! ひどい!

 さっきのリグ入りクッキーは自分で食べていたんだから、人の食べかけを奪うのはやめてください!


「これもうまいな」

「そ、それはどうも……でも、あの、やっぱりおかしいと思います」


 お兄さんはやっと手を離してくれたけど、私は何だか疲れてしまった。どうしてか知らないけど、お兄さんの距離感が急におかしくなった気がする。

 ……はっ、まさか……。


「お、お兄さん、まさか、お兄さんも目が節穴になってしまったんですか!」

「節穴?」

「お姉様より私が美人に見える病気です! お姉様と私、どちらが美人と思いますが?!」

「現段階では、オクタヴィア嬢の方が美人だろうな」

「あ、よかった。お兄さんは正常のままだ」


 迷いなく答える顔は相変わらず表情が薄く、水色の目は冷たい。

 でもその冷たさとか愛想のなさに、私は心からほっとした。お兄さんには、なんとか伯爵様とか、ローナ様のお兄様とか、そういう人たちと同じ状態にはなって欲しくなかったから。

 でもその思考が筒抜けだったのか、お兄さんはお茶を飲みながら少し眉をひそめて、面倒くさそうな顔をした。


「お前に魅了された連中と一緒にするな。お前が面白いのは間違いないが。……念のため言っておくが、異界にいたことがあるから、異界のものに興味が向くだけだ」


 あ、なるほど。

 兄さんは魔獣には優しい……いや、優しくはないけど寛大だからね。

 魔獣が猫のふりをして周りに集まっても追い払わないし、あの黒い犬も犬のふりをしている間はそばにいても怒らない。

 なるほど。

 私もその一つか。うんうん、なるほどね。それはそうだよね。しかも私は、成長が遅くて子供みたいな姿だからね!

 ……なのに、なぜ私はがっかりしているんだろう。胸が苦しいなんて、思ってはいけない。

 私は自分の気持ちに無理矢理に蓋をして、ポケットに入れていたものを取り出した。


「ところで、これ、髪についていたんですが」


 手のひらに乗せて差し出したのは、小さな赤い宝石がついた飾りだ。

 多分、馬車の中で髪を整えてもらった後に髪についていたから、お兄さんが付けたんじゃないかと思う。紐に通して髪を結んだところにつけられていたらしい。

 メイドたちは、こんな飾りは所有していないと言っていた。だから、お兄さんのものだ。でも、なぜ私の髪についていたのかがわからない。

 でも、お兄さんはチラリと見ただけで、目を背けてしまった。


「あ、あの?」

「それはもうお前のものだ。そのくらいの飾りなら邪魔にならないだろう」

「それは、全く気にならなかったのですが、でもお姉様はかなり珍しい宝石だと言ってましたよ? ルビーっぽいですけど、これは何ですか?」

「異界の宝石だ」

「えっ」

「だが、宝石としてはそれほど価値はない。どちらかと言えばお守りとしての方が有効だ。先日のように異界の存在が手を出そうとした時に、多少の防壁になるだろう」

「それは、役に立ちますね! でも……」

「できるだけ、毎日身につけておけ」


 お兄さんはそれだけ言って、私の手のひらからつまみ上げた。

 座る位置を変えて、私の背中に回る。振り返ろうとしたら頭を手で抑えられてしまった。痛い。

 でも髪を触る手は相変わらず優しくて、思わず動きを止めている間に、簡単に束ねただけの髪につけたようだ。お兄さんが元の場所に戻ってから手で触ると、冷たい金属と石の感触があった。


「本当にもらっていいんですか?」

「お前は魔道具はあまり好きではないのだろう? ……私の母や姉もそうだった。幸い、私はそういう過敏さはないから本当の苦痛はわからないが、通常の物が苦手なら別の手段を使えばいい」


 お兄さんは、それだけ言って黙ってしまった。

 何となく声をかけ難い雰囲気で、仕方なく私は猫を撫でることにした。

 大きいのに軽い不自然な猫たちは、私に撫でられても嫌がらない。でもお兄さんの方をじっと見ている。


 私は猫をお兄さんの近くに置いてみた。猫のふりをしている魔獣は、するりと私の手に体を擦り付けてからお兄さんの体にくっついた。他の猫たちもぺたりぺたりと体を押し付けていく。

 お兄さんは何も反応しない。目もくれない。でも、いつものように猫たちを押しのけることもしなかった。



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