8話 対策会議 前編
???「…君。ショ…君。ショウヤ君、よかった気が付いたみたいだね。」
俺「…お前は、」
目が覚めると、見覚えのある景色と人物が視界に映った。
そこは、どこまでも真っ白な世界で、そこら中に世界中の至る場所の写真が散りばめられているみたいな場所。
その人物は、真っ赤な髪と瞳と筋肉質のたくましい体を持った大男。
そう、ここは俺が"アダム"と初めて会った場所だ。
そして、話しかけて来た目の前の人物は"アダム"だ。
???「アダムだよ、覚えてる?」
俺「またお前か。」
???「またって…相変わらず酷いなぁ。」
"神様"の癖に、あんまり威厳がないというか、なめられやすい性格は健在のようだ。
しかし…なんか、前に見たアダムはすごくゴツくて巨大な体だった。
今でも、その見た目は変わらないんだけど、前より心なしか小さくなったように見える。
それに、ここの風景の写真も前より、もっと増えてる気がする。
俺「にしても、何なんだここは…。ここの風景、写真増えてないか?それとお前、少し小さくなったか?」
アダム「君は相変わらず勘が鋭いね。ここはね、僕と超能力者たちを繋ぐ空間であり、写真は彼らの"魂"、つまり心を表してるんだ。その写真が増える度、僕は少しづつ削られて小さくなっていくんだ。」
俺「何それ、言ってる意味が分かんない。魂って何だよ。削られるって、俺に超能力を渡した時も自分の体を削ってたって事か。何でそんなことしてんだ?」
アダム「説明が難しいねー。ごめんね、今は時間があまり無いから詳しくは、また今度言うよ。」
俺「…そうかよ。じゃあ、なんで俺がここに呼ばれたのかだけ教えろよ。なんか目的あんだろ?」
そうだ、前回も何か言うために、この場所に来させられた。
今回も何か一言伝えるために、よこしたに違いない。
ただ、またわけわからん伝言を伝えられて、面倒が増えるのは嫌なんだけどな。
アダム「別にないよ?」
俺「え?」
アダム「ていうか、僕呼んでないし。」
俺「え、だって…え?」
アダム「え?」
…
微妙な空気が流れる。
両方とも話が嚙み合って無くて、話が止まる。
俺「だって、前に「君に会いにここに来た」とか言ってたよな?」
アダム「ああー、言ったけど今回は違うよ。僕は元からずっとここにいたんだよ。別に呼んでないし、君が急にここに来たんだよ。」
俺「え何、その別に呼んでないけど、何か用?みたいな空気。腹立つわぁ。」
アダム「だって呼んでないし。」
俺「…」
相変わらず掴みどころがない奴だ。
本人は揶揄ってるつもり無いかもしれないけど、そこがまた煽りのレベルを引き上げている。
何とも憎たらしい。
アダム「あ、もうそろそろ帰るみたいだね。じゃあね。」
フワッ
俺「な、なんだ?体がフワッとしたぞ?」
アダム「じゃあね。」
俺「おい待て!お前にまだ聞きたいことがあんだよ、ってちょっと。アダムぅぅぅ!」
アダム「じゃあね…」
俺の意識は唐突に失われていき、ふわふわした感覚だけが体に残る。
くそ、何のために俺はここに来たんだ。
何一つ聞けてねえぞ…お前…
俺の意識は完全に途切れ、目の前が真っ暗になる------
2110年10月。先月一週間前に起きた、入間第2特殊軍事基地襲撃事件から日本防衛省超能力者対策本部、通称≪日超≫は、対策会議を開いていた。
「この一件での被害は甚大だ。基地内の施設があちこち破壊されとる。」
「それだけじゃない。あそこは一般には秘密にしてある情報が多い。情報漏洩されれば、我々の首が飛びかねない。」
「それに、今回≪人の子≫の襲撃を許したことで、民衆からの信用はがた落ち。世間からは野次を飛ばされる始末ときた。」
「ドンッ!そんな事を話しに来たのではないだろう!今は、次の襲撃に備えて対策を---」
「対策ってねえ、基地周辺内部に厳重なレーダーと遠隔起動迎撃機があったのに、それをスルーして突破されちゃ対策のしようがないでしょう。」
「だからと言って、奴らを野放しするというのか!?」
「そんなこと言ってないでしょう!ただ、今は対策の方法を新たに考える必要があるという…」
「もういい。」
「…」
「今回の奇襲で包囲網を突破され、訓練生及び教官を数人殺害された。しかし、奴らの目的であったであろう武器の回収は防いだ。」
「それは例の…」
「そうだ。今回、参考人として来てもらっている。入ってくれ!」
すると、会議室の両扉がガチャンと音を立てて開く。
扉の向こうから、黒髪の少年が中へ入ってくる。
少年は全身包帯だらけで、とても気まずそうな顔をしている。
そして、一人の役人が告げる。
「紹介しよう。今回、敵の兵器奪取を防いだ立役者の御王 勝彌隊員だ。」
「…」
---ショウヤ視点
あれから2週間が経った。
全身の傷はほぼ回復し、取れかかっていた腕や潰れた手足も元通りに戻っている。
まだ包帯も取れず、ちょっと怪我が残ったりしてるが、大して目立たない。
一体どんな治療法だ?奇跡に近いだろ、あんな状態からここまで再生するなんて。
まあ、そこらへんはよくわからないが、治療してくれた方々に感謝だな。
そう思いつつ、朝食を食べようとすると、
「バタンッ」
「ビクッ」
急に病室のドアが勢いよく開き、びっくりしてしまう。
「ショウヤ君いるか!ああ、君だね?ちょっと話がしたいんだが…」
「え?」
「ちょっと、そこのあなた。ここは病室よ!静かになさい。」
「す、すみませんでした…」
急に入ってきて、うるさくしたスーツ姿の男に看護師さんが鬼の形相で睨みつける。
そして、スーツの男は悪いことをして説教された犬のように、しょんぼりしていた。
「ところで、何の用ですか?」
「はい。と、その前に自己紹介を---
そういって、身分証明書を渡してきた。
防衛省 審議官 須藤 伸也。
って防衛省のお偉いさんかよ!?
彼には失礼だが、とても頭の回る感じの人には見えない。
いや、案外見かけによらないかもな。
ゴリラ大佐だってああ見えて大佐の座に就いているし、周囲からの信頼も厚い。
そして、熱い。
軍とか、そういう関係のって暑っ苦しい人が多いのかもしれない。
「私は須藤!今日は、”日超”の対策会議に出席するよう、言伝を預かっている!」
「え?」
「防衛大臣から、対策会議に先月の事件の参考人として、君を連れてくるようにとのお達しだ。」
日超の対策会議に出席しろだと!?しかも、防衛大臣から直々に?
でも、そういえば鬼瓦教官に罰を受けた帰りに、「貴様の戦技がらみで、近いうちに上層部から面会を求められるだろう--」とか言われたっけか。
上層部っていうか防衛省のトップじゃんか。
戦技についてと言ってたけど、今回は基地の襲撃事件に関することだろうな。
「そ、そうなんですね。会議はいつ始まるんですか?」
「今から約1時間後だな。」
「い、1時間!?急すぎるって!それに、俺は今こんな状態だし…」
「いや!心配ご無用。既に運ぶ準備は出来ている!」
そういって彼は、病室の扉の向こうへ手で指し示す。
そこには、いつの間にか車椅子が用意してあった。
「さあ!乗るんだ!」
「い、いやぁ…」
「大丈夫、心配ないっ。車を外に用意してあるから、すぐにでも向かえる。さあ!」
「おぉっ!?」
俺は車いすを押すボディガードらしき屈強な男に抱えられ、そのまま車椅子に乗せられる。
なんでいつもこの手の人はこうも強引なのだろうか。
こういう手合いが一番苦手かもしれん。
人の話聞かないし、強引だし。
俺のささやかな抵抗も虚しく、外へ用意してあった黒い高級車へ強制的に乗せられる。
車内に車椅子ごと入れられた俺は、そのまま車で運ばれていく。
車の中、俺はあの事件で起きた後の事が気がかりでしょうがなかった。
入院中は医者と看護師だけとしか会っておらず、あの日の出来事もニュースで見た情報しか知らない。
不幸中の幸いで、その事件で亡くなったに人物の中に、俺の知ってる人はいなかった。
ただ、報道では事故として処理されており、死者やけが人などの情報もすべて報道されているとは限らない。
なので、目覚めてからというもの、心中とても穏やかではなかった。
「あの、須藤さん。」
「なにかな?」
「あの襲撃事件の死亡した人や、けが人って、報道されているだけですかね…」
「亡くなった人の中に、だれか知り合いが?」
「いいえ、いませんでしたが、あの事件は事故として処理されていますし、すべて報道されているわけではないでしょうし。」
「ああ、確かにそうだね。あの一件は武器庫の爆発が原因だと報じられていて、被害は公開されている情報より甚大だ。」
「あの…具体的にどれだけの被害があったんですか?やつらの狙いは武器庫だったようですが。」
奴らの狙いは1つだけとは限らないが、武器庫の武器や特殊兵器を狙っていたのは確かだろう。
「そのことに関しては、守秘義務が課せられていてね…あの場にいたほんの一部の人間しか情報を知ってないし、知ることは許されていない。」
「そう…ですか。言えないってことですね。」
なんとなく分かっていた。
なにせ、奴と戦った俺ですら、軍内部の情報から隔離させられていたのだから。
入院している間は、軍人専用のサイトの情報にアクセスできなかった。
幹部と戦った事もおそらく軍の中で伏せられていることだろう。
時と段階を踏まえなければ、容易には話せない、何か重大な事があったのだろう。
「ただ…奴らの狙いは他にもあった。とだけ言わせてもらおう。」
「そう、ですか。ありがとうございます。」
車内での短い会話を終え、俺は”日超”の対策会議に緊急招集されるのであった。---
---紹介しよう。今回、敵の兵器奪取を防いだ立役者の御王 勝彌隊員だ。」
「…」
そして、今に至る。
左腕は包帯ぐるぐるで、車椅子に乗せられ、おまけに着替える時間も貰えなかったので、患者用の服のままである。
俺は今、こんな格好で防衛省トップの面々が揃う会議に出ている。
さっき俺を紹介したのは、月影 樹防衛大臣だ。
その他にも、事務次官や官房長など、錚々たる面子が集まっている。
場違い感やべえ…
そんな様子に、哀れみを覚えたのか、会議内のメンバーが全員戸惑いと、痛々しそうな目線を向けて来る。
「…」
案の定、みんな黙ってしまった。
これ俺のせいか?
こんな恥ずかしい格好で、一介の訓練生がお偉いさん方の会議に出席させられるなんて、不幸にも程があるだろ。
静まってしまったこの場を仕切り直すように、防衛大臣のおっさんが話し始める。
「い、以前にも話した、齢10歳にして纏道と識道を習得し、あらたな戦技を生み出したという少年が彼だ。そして、今回、反政府組織≪人の子≫の幹部である、千変万化の紅こと、キメラを相手に互角に戦ったという。」
「…」
本当なら、「彼が?そうなのか」とか「すごいな。まだ10歳だというのに」とか言われて、俺も胸を張って堂々とすべきところなのだろう。
しかし、締まらないな。
防衛大臣のおっさんの、力のこもった紹介も虚しく、みんな俺を見て不安そうな顔をしている。
「そ、それはいいんですが…その、彼は、大丈夫なんですか?」
「見たところ相当重症なんだが。」
やっぱり心配に思うだろう。
それに、全身包帯だらけなのがとてもシュールだ。
ツッコミどころが多いが、重要な会議の最中なので、どう言ったモノか悩みどころだ。
と顔に出ている。
「…。それは確かに、彼には申し訳ないが、今回は事が事だ。可哀そうだからと言ってられない。」
「まあ、そうでしょうね。」
「うむ…」
さっきから俺に変な注目が集まりすぎて、会議が進まないようだ。
俺は悪くないぞ。あくまで強制的に連れて来られたんだから。
と、この場の空気を換えるように、さらに大臣のおっさんが仕切り直す。
「さあ、本題に入ろう。今回、彼にこの会議に出向いてもらったわけは主に戦技についてだ。須藤君。」
「はい!これより私が説明させていただきます。まずは、皆様のお手元の資料25ページをお開きください。」
そういうと、俺が来る前に元々手元にあった資料とやらを、各々手に取る。
あれが、政府の機密情報ってやつだな?
なんかワクワクするな。映画で見たよこういうの。
裏で暗躍する政府が黒幕で、会議らしき場面で、ふふふと下卑た笑いをする大臣たち…
これから何が語られるというのか。
「今回の≪人の子≫の襲撃は、超能力を駆使して行われたものでありました。おそらく、瞬間移動かワープといった能力でしょう。どういう条件かは知りませんが、敵は基地外周のレーダーに引っかかることなく、突然基地内に現れました。」
「確か最初の出現では、北門入口付近だったな。」
「はい。奴らのワープによる出現回数は3回。最初がその北門入口付近。次に、西門近くの食糧格納庫。そして、男子寮付近の教官休憩室です。」
「!?」
教官休憩室?そういえば、敵は鬼瓦教官に化けてた…いや、鬼瓦教官がやつ本人だったかもしれない。
そうなると、バッグ漁った奴はあの後どうなったんだ。
他の奴らは…ミキトは、サヤは、カリンは…どうなった?
そう考えると、いろいろな不安や疑念が浮かんでくる。
「ショウヤ君は、襲撃後のことは何も聞かされていないんだったね。あの日、君が鬼瓦教官だと思って叱りを受けていたのは、敵の幹部”キメラ”だったんだ。」
「…そう、でしたか。」
いつから成りすましていたのか全く分からなかったが、多分、その休憩室に連れていかれたタイミングのどこかで入れ替わったんだろう。
俺は全く気付かなかったし、疑いもしなかった。
もし、奴がその気だったらその時、奴に殺されていたかもしれない。
そう思うとゾッとする。
しかし、さらにゾッとする言葉を聞くことになる。
「鬼瓦教官は無事だったよ。気絶させられ、午後に模擬戦を行った訓練場の待機室に縛って閉じ込められていた。命に別状はない。」
「そうでしたか…でも、もう一人は大丈夫なんですか?」
「そのことなんだが…」
俺の不安そうな表情を察したのか、須藤さんは言いづらそうにしている。
まさか、殺されてしまったのか?俺と同じ罪を被ったせいで…
…俺が、巻き込んだ、のか?
そう思っていると、予想外の言葉が須藤さんの口から出て来る。
「彼も奴らの一員で、幹部だったんだ。奴のコードネームは≪ジェイル≫。本名、倉敷 悼磁。超能力は、周囲の鉄を自由自在に操ることが出来る能力だ。」
「は?」
嘘だろ?あいつが?
名前なんて知らないけど、あんな卑屈そうで弱そうなあいつがか?
でも、どうやって他の隊員や教官にバレずにいたんだ?
紅は他人の姿も変えられるのか。
なにがなにやら分からない。
「奴が敵の幹部って言うなら、どうやって基地内の人たちの目をくらませていたんだ?」
「ジェイルは、3年前に行方不明だった幹部の一人だったんだ。顔や素性が割れていなったせいで、敵に潜入を許してしまった。」
「なっ!」
そう言うと須藤さんは気を落としたかのように、うつむいてしまう。
会議に集まっているメンバーも皆、同じような表情をしている。
「つまり、敵のスパイが潜り込んでいたわけですね。」
「そうだ。申し訳ない。奴を隊員として入れてしまったこちらの不手際だ。」
「それって、つまり、俺は…あの場で、敵の幹部二人と!!」
考えるだけで恐ろしい。
なぜ殺されなかったのかが不思議だ。
教官のカバンを漁った事を口実に、あの休憩室で実行の準備をするつもりだったと。
そして、俺は逆に巻き込まれたわけか。
でも…
「でも、何で俺は殺されなかったんでしょうか。奴らが敵なら、俺は計画の障害になるでしょう。」
「そう、それなんだ。奴らは君を仲間にしようとするなら、あの場で襲って眠らせてしまえばいい…」
「でも、それをしなかった。」
「…いや、出来なかったのではないか?」
この話し合いに、横から大臣のおっさんが入って来た。
「と、言いますと?」
「ミオウ隊員は特殊な戦技、洞道を持っている。おそらく、敵もこのことをどうやってか知っていたんだろう。」
「そして、下手に手を出せなかった、と?」
なんだ、奴らビビってたのか?
幹部と言えど、案外小心者なのかもしれない。
あんな実力持っておきながら、大人二人でガキ1人にビビるなんて。
「案外、ノミの心臓なんですかね。」
「いや、違うだろう。」
「?」
「五里大佐から聞いたよ。君はかなり特別な存在だが、自分自身に全く自覚がない、と。」
「自覚がない…」
自覚がないって言うよりは、ゴリラの大佐が何も俺に言ってくれないから、そんなこと一切分からないんだよなぁ。
まあ、前回の模擬戦闘訓練で俺がそれなりに強いってことはわかったけど。
相手は訓練生だったが。
「それより、私が特別とは、やはり戦技の事でしょうか。」
例の大佐にこの間聞いたばかりだが、俺は戦技を習得する才能があるらしい。
また、新しい戦技も生み出した。
と言っても、熟練の兵士や敵の幹部の上位くらいなら、気付かぬうちに使ってそうだ。
「それもあるが、神血が異常な程濃いんだ。」
「濃い?」
「そうだ。一般的な大人隊員の約10%前後が神血で出来ている。超能力者によって内包量は変わってくるが、多くても体の構成割合が20%を切ることは無い。一部の例外を除いてな。」
「神血が多いことが特別なんですか?」
「ああ、特別だ。多ければ多いほど、優れた超能力を持っている傾向がある。その者の中には、死者を蘇らせる能力や、時間すら操る能力まで持つ者もいる。」
なにそのチート能力。
アニメや漫画に出て来る、ラスボス級が使いそうな能力じゃん。
でも、神血が多い奴が強いってことは、本人の努力はあんま関係ないのかな?
だとしたら、俺たち訓練生の日々の訓練が虚しくなるなぁ。
「ちなみに、人が持てる神血の量には限りがある。」
「どれくらいなんですか?」
「20%を超えると即死する。すぐに死ななかったとしても、近いうちに死亡する。」
力を得ようとすればする程、リスクを伴うってことか。
そりゃそうだよな。
同じ血液型の超能力者の神血を移植したり、輸血すれば簡単に強くなれるだろうしな。
ていうか、能力者同士で移植できるのかな?
ま、今はどうでもいいか。
「じゃあ、俺の体にある神血の割合って…」
「ああ…君の体内の神血の割合は…」
「80%だ」