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転星記  作者: 自分革命
第1章 世界騒乱編
8/20

7話 人の子

 

 軍事基地に強襲してきた謎の敵襲団。

 そのうちの一人と思われる人物と対峙し、圧倒的な実力差を思い知ったショウヤ。

 敵から逃げるショウヤは、その敵を倒すべく給水場へと辿りつく---


 「どこだっガキ!今すぐ殺してやるっ!」

 

 死に物狂いで俺を探してやがる。

 さっきまでとずいぶん態度が変わってんな。

 とうとう本性を現したってか?

  

 「はあ。にしても、強襲を受けているってのに、外が静かだな。迎撃部隊は動いているのか?」

 

 そう小声でぼやきながら、貯水槽の蛇口にあるモノを仕掛けていく。

 バケモンは血まなこでそこらじゅうを暴れまわってる。

 よし、仕掛けも設置し終えたし、行くか。


 「おい、怪物女!こっちだ。」

 「あ゛ん?ソコにいたか。」 


 大声で怪物を呼び、おびき寄せる。

 うまくいく保証はないが、やるしかないだろう。


 「まてよ!クソガキっ!」

 

 よし、いいぞ。うまく誘導できてる。

 しかし、突然化け物は足を止めてしまう。

 え?どうした。何故今足を止める?


 「アナタ…私をここまで誘導したわね?」

 「っ!」

 

 思わず、なぜわかった?という表情をしてしまった。

 

 「ふふっ。かわいい子ねぇ、何でわかったの?って顔してるわ。」

 「くそっ。」


 さっきのような余裕のある口調に戻ってしまった。

 まさか冷静さを欠いたふりをしていたというのか?あれは演技に見えなかったぞ。

 なんて考えていると、


 「うぶな子ねぇ。さっきの私は本気で怒ってたわよ?痛かったし、私に傷つけるなんて許せないわっ。」

  

 思ったこと全部ばれてる…

 

 「まさかっ!」

 「んん?」

 「おまえ、超能力を二つも持ってるのか!?」

 「へっ?」

 「だって、何も知らないはずなのに俺の罠に気付いたし、俺の思ってること全部言い当てるし…それって、つまり、能力を2つ持ってるってことだっ!!」


 それしかない。

 俺の罠は完璧だった、罠を仕掛けている最中もこっちに気付かれてなかったのに、罠に近づいた瞬間、その存在に気付いた。

 これがもう…それしかないだろう。

 しかし、思いがけない反応が相手から帰って来た。 


 「…っ」

 「な、なんだ!まさか他にも…」

 「アッハハハハハハ!」

 「っ!一体何なんだ。」

 「ハハハハ…げほ、ごほっ。」

 「…あなたほんと最高ね!」


 は?さっきからコイツの様子がおかしい。

 最初あった時からずっとおかしな奴だったが、今はもう狂人と言うほかない。


 「なにがおかしい?」

 「だって、あなたお馬鹿さんなんですもの。」

 「へ?」

 「私は別に超能力をいくつも持ってるわけじゃないのよ?あなたの罠に気付いたのは、今まで隠れ続けてたのに、いきなり私の前に現れたからよ。そのまま逃げ切ればいいのにねぇ。」

 「だったら、俺の思考を読んだのは---」

 「それは、あなたの顔に書いてるからよ。正直な子なのねぇ。」


 罠がバレたのも俺の考えが読まれたのも、全部俺が原因かよ。

 そんなに顔に出てたか、俺。

 顔をぺたぺたと触ってみる。が、特に意味はない。


 「それはそうと--」

 「シュッ、ズドンッ!」


 俺の仕掛けた罠を飛び越えて、怪物が一気に跳躍して俺の目の前に降りる。

 これは、逃れられないな。

 戦慄した俺に、化け物は告げる。


 「私の名は(べに)。対政府組織≪人の子≫の幹部で、コードネームは≪キメラ≫。」

 「人の子、だと?そんな奴らが軍事基地(ここ)に何の用だ!」

 「そんなのあなたには関係ないわぁ。それに、あなたはもう戦いからは逃げられないし、相手が名乗ったら、自分も名乗るのが礼儀ってものよ?」

 「…」


 もう、戦闘は避けられない。

 この紅って女は、俺より力も超能力者としても格上だ。

 あとには…引けないっ!!

 覚悟を決め、戦技をフル稼働して、拳を握る。

 ドンッと左足を前に構え、己が何者か相手に告げる。


 「俺の名は御王(ミオウ) 勝彌(ショウヤ)、超能力者特殊鎮圧部隊っ訓練兵!階級は二等兵!」

 「ふふっ、本当に素直でいい子ねっ!」

 「ブンッ」


 巨腕から繰り出される圧倒的なスピードとパワーで周囲の建物を壊し、地面をえぐる。

 俺は駆道でそのスピードより上のスピードでかわす。

 しかし、相手の腕は六本あり、足は四足獣。

 同時多数の攻撃に、強靭な脚による即座の追撃。

 俺はよけきれずに、後方へ吹っ飛ばされる。

 地面に激突し、体中が激痛に見舞われる。

 それでも、血を吐けども立ち上がり、拳を構える。

 

 「まだ立てるのねぇ。あなたの戦技、確かに特別なようね。」

 「ここで…」

 「?」

 「ここで、死んでたまるかっ!俺はあの日決めたんだ。そして誓った、これからは自分のやりたいように生きると!」

 「っ!!」


 チャリン、と身に付けていた俺のネックレスがぶら下がる。

 ネックレスに下げられた、逆十字のペンダントが光る---

 



 ---2108年5月。

 俺は超能力者(エスパー)になった。

 

 これは、俺が超能力者鎮圧部隊に入隊したころの話である。


  

 目が覚めると俺はベッドの上に横たわっていた。

 起きたときには、もう涙は流れていなかった。

 バッと起き上がって、あたりを見渡してみると、どこかの病室にいるようだった。

 周囲に人の姿は見えず、窓からは赤く染まる夕日が差し込んでいた。


「ここは、どこだ…。俺は、怪しい施設に連れてかれて…そこにあの二人がいて---」

 

 そして、アダムとイヴに血を渡され、アダムは俺に言った。

 ---「君はちゃんと約束を守った。ありがとう!」


 「ちゃんと()()()()を守ってくれた」」--

  

 そこから記憶がない。

 いろいろと疑問が残った。

 彼らの血が俺の手に流れ込んできた、グロテスクなあの描写。

 思い出すと吐きそうになる。

 アダムは最後に言った言葉、「あの少女」って誰だ。

 あの子か?

 俺が暴徒たちを殺したあの日の---

 と、思い出している途中で、扉がガラっと開く。

 静かな病室に扉が開く音が響く。

 そして、誰かが入ってくる。


 「やあ、気付いたかいショウヤ君。」

 

 話しかけてきた一人の男は、俺をあの施設に連れていき、「アダム」と「イヴ」のもとへ案内した黒スーツの男だった。

 

 「ここは、どこ…ですか?俺は。俺の体は…」

 「ここは、日本の軍事基地の病棟だよ。君の体は今までのモノとは違う。君は今、超能力者になったんだ。」

 「超能力者…」


 そういって、自分の手を見てみる。

 特に変わったような感じはしないし、いきなり「君は超能力者だ」、とか言われても実感がわかない。

 

 「あれから2日、君は眠っていた。そして、今日は()()()だかわかるかい?」

 「…いや、わからない。」

 「今日は、5月23日。君の誕生日だ!おめでとう。これは、ささやかな私からのプレゼントだ。」

 「…」


 男は懐から、一つの小包を俺に渡した。

 中を開け手に取ってみると、それは、銀色の()()()のペンダントが下がったネックレスだった。 


 「これは?」

 「君が、これからも自分の意思で自分の事を決められるように。そういう願いが込められてる。」

 「自分の意思…」


 母に捨てられてから、俺は俺のやりたいように生きると、そう決めた。

 あの日、俺は死んだ。

 そして生まれ変わった。

 もう、他人に決められることなく、自分の意思で()()()、と---


 

---(べに)視点


 自分のやりたいように生きるんだと、目の前の少年…ショウヤは叫び、決死の覚悟をした顔をしていた。

 何か様子がおかしいわねぇ。

 この子が叫んだ瞬間、周囲の景気が歪んだ気がしたのよね。

 それと同時にとてつもない圧が私にのしかかった感じ…いや、これは…

 出遭ったときから疲労困憊のようだったし、この怪我で立ってるのがおかしいくらいだわぁ。

 この子に今、何かが起きている。としか言いようがないわねえ。

 とても嫌な予感がするわ---



---ショウヤ視点


 俺の頭の中には、生きてやる!俺の意思が踏みねじられるなんて赦せない!

 という思いしかなかった。

 ここで、コイツ(紅)を倒し、生きて帰るんだ。

 生きて仲間たちと…ミキトやサヤ、カリンにゴリラのおっさんたちと笑って過ごす日々を!

 

 「バンッ」


 俺の周囲が急に音を立てて弾けた。

 地面が窪み、風がながれた。

 なにが起こったのか知らないが、この時の俺はそんなこと気にする余裕はなかった。

 今度は構えは取らず、めいいっぱい足を踏み込んで、そして紅にむかって跳躍した。

 ダンッという衝撃音を背後に残し、一気に距離を詰める。

 

 「うあ゛あ゛っ!」

 「グシャッ!」

 「っ!!」


 紅の顔面目掛けて思いっきり振り抜いた拳は、とっさにガードした3本の腕を異様な方向に捻じ曲げ、相手の後方へ、ちぎれて吹っ飛んで行った。

 ガシャンと窓へ腕が飛んで行く。


 「なん---」

 

 続けざまに、後ろへ勢いをつけた左足を紅の胴体に叩き込む。

 ドスッという鈍い音を立てて、後方へ吹っ飛ぶ紅。

 紅の吹っ飛んだ跡は建物の壁ごと崩壊しており、粉塵が舞っていた。

 地面へ音を立てず降りた俺の前方、がれきの中から()()は現れる。


 「…あぁー」

 

 と、うめき声をあげながら近づいてくる紅。

 生やした六本腕は左半分がちぎれ、胴体部分は異常な窪みの跡を残し、全身から血がだくだくと流れている。


 「あなたぁ…はあっそれはっ、反則じゃないの?」

 「もう、こんなところで全力を出すことになるなんて、ね゛っ!」


 そう言うと、彼女の体が再び変化し、スライムのようになってから生まれ変わる。

 そして、今度は異形ではなく人型へと変貌する。

 形は女性のシルエットだが、見た目は外骨格の鎧のようなものを纏っている。

 鎧の隙間からは発達した筋肉のようなものが見え、明らかに体術特化な容姿だ。


 「千変万化、傲慢の混成獣(キメラゲール)…」

 「ショウヤ、あなたに死ねない理由があるように、あたしにだってあるのよ。」

 「…」

 「行くわよ…」


 そこからの戦闘はさらに苛烈な戦闘となった。

 肉弾戦となり、互いに殴り合い血を吐きながら、それでも負けんと殴り返す。

 

 紅の装甲は固く、ショットガンやライフルでも傷つくことがないほどである。

 しかし、今の彼女の装甲は一部が剥がれ、砕かれ肉が見え血が出ている。

 対するショウヤも、体はボロボロで、拳の肉が裂け、骨の一部が見えるほどだ。

 そして、両者は弾かれるように、距離を取る。

 二人は拳をさらに固め、深く体を落とし、構える。 

 スッとそこから、二人の姿が消えたのち、怒号が空間に響く。


 「うあ゛あ゛あ゛ぁーー!!」

 「はぁあああ!!」

 「ガキンッ!!」


 両者の拳が重なり、鋭い金属音と衝撃音が混じり、周囲の窓ガラスが吹き飛ぶ。

 ズドンと、反発し合ったボールのようにそれぞれ後方へ吹っ飛び、がれきの中へ盛大に突っ込む。


 「…」


 先ほどの轟音から、今度はシンと静寂にあたりが包まれる。

 と、ガタガタと音が一方のがれきから聞こえ、出て来る影があった。

 それは---


 「…勝負あっ---」

 「ドス」

 

 現れたのは紅の方だった。

 力尽きたようにその場に倒れこんで、地面に手をついている。

 右腕が無くなっており、全身ボロボロである。

 ショウヤの方は、がれきに埋もれて仰向けに上半身部分が出ている。

 しかし、ショウヤの左腕はどう見ても原型をとどめていなかった。


 「うっ…今、ケリをつけるわ。」


 とぼとぼ体を引きずるように、ショウヤの方へ歩み寄る紅。

 

 「ここで殺さなきゃ、危険…だわ。」

 「ドゴゴゴ」

 「…!?」


 ショウヤにとどめを刺そうとする紅の上空をヘリコプターが飛び交う。

 そして、彼女にライトが当てられる。

 

 「そんな…」

 「ストン」

 

 上空のヘリから、黒い影が下りて来て、紅へ向かって歩き出す。

 それは、ヘリの光の下へ照らし出されていく。


 「よお、”キメラ”。随分とボロボロじゃねえか。随分暴れまわったようだが、もうお終いだ。」

 「…っ!エスパー隊の、”鬼人”!こんな状態で対面しなきゃいけないなんてねえ。私もここまでなのかしら…」


 降りて来た人物は、超能力者特殊鎮圧部隊の”鬼人”と呼ばれる人物であった。

 その男は特殊な黒い装備で身を覆ているが、その身が内包する筋肉を隠し切れず、誰が見ても屈強な体をした軍人であった。

 しかし、ヘリの逆光で顔は見えない。

 

 「観念しろ--」

 「それは、待って貰おうか。」


 と、鬼人なる者が言いかけたとき、どこからか声が聞こえてくる。

 しかし、鬼人はその声の主がいる方を暗闇の中見据えていた。

 視線の先は、がれきが散らかる建物の上に、全身黒い専用トレーニングウェアを纏った目隠しの大男に向けられていた。

 

 「お前は…」

 「ねえねえ、この人返してもらうよ!」

 「…!?」


 いつの間にか、紅のそばにまで、フードを深々とかぶった白髪の少年が歩いていた。

 明らかに異質の気を放つ二人に、身構える鬼人。

 構えたと同時に鬼人に向かって、白髪の少年は言った。

 

 「今ここで君とやる気はないよ!今回の目的は、ある程度達成したし、帰らせてもらうね!」

 「貴様、逃げられると思っているのか?」

 「よしなよ!せっかく見逃すって言ってるんだから、自分でも気づいてるでしょ?やったら負けるって。」

 「…」

 

 そういう少年に、何も言い返さない鬼人なる者。


 「それに、君の後ろの少年を早く手当してあげなよ。すごいよね!紅をこんなにボロボロにしちゃって!君なんかよりよっぽどそっちの子と戦ってみたいな!」

 

 と、背後のがれきに埋まる血まみれの少年を見やる。

 

 「それじゃあ、運が良ければまた会えるかもね!ばいばーい!」

 「なっ!待て!」


 フッと一瞬で音を立てず、姿を消してしまった少年。

 さっきまでいたはずの黒い巨人も、いつの間にか消えていた。


 「少年!」

  

 と、鬼人はショウヤの下へ急いで駆けよる。

 そして、がれきをどけて少年の体を見て戦慄する。


 右手はあるが、拳から骨が見えており、左腕はぐちゃぐちゃで辛うじてくっついている状況。

 足はがれきに潰され、血まみれでどうなっているか分からない。

 胴体も顔も血まみれで、擦り傷、打撲…数えたらきりがないほど重症だった。


 「医療班急げ!一刻を争う危険な状態だ!至急手当を。」

 「…あ、あ」

 「なっ!まだ生きがあるのか!?」

 「…れは、俺は生き…る」


 少年はそう言って、電池が切れたロボットのように気を失った。

 その様子に驚愕しつつも、心の中で賞賛する鬼人。

 

 

 こうして、入間第2特殊軍事基地襲撃事件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

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