5話 緊急事態
模擬戦第2回目。
俺たち4人は今回、暴徒チームとなった。
そして見事、敵である鎮圧部隊を蹴散らしてやった。
圧倒的な勝利。
しかも初めての模擬戦で2連勝だ。
こう、やったぜ!って感じではしゃぐ
…はずなんだが。
「…」
模擬戦終了後。
俺たちは4人集まって待機室に来た。
しかし、しばらくたっても誰もしゃべらない。
ミキトはふて腐れてるし、サヤは頬を膨らませてそっぽを向いている。
カリンはこの状況が気まずいのか、下を向いてうつむいている。
「な、なあ、今回の作戦。うまくいったよなー?なんで皆して黙ってるんだ?」
「…」
この空気に耐えられずに、俺は「今回も勝利だ!いい戦いだったな。」という感じで話し始める。
が、誰も返事しない。
と思ったら、ミキトが席から立って、俺の方に寄って来た。
「ミ、ミキト!お前の作戦めちゃくちゃだったけど、うまくいっ---」
「フガッ」
いきなり頭を殴られた。
「い、痛えな!なにすんだ!」
「なにすんだ!じゃねえよ!せっかくの俺の見せ場が台無しになったじゃねえか。」
「は?」
沈黙を保っていたサヤが、いきなり割って入ってきた。
「何が、「俺の見せ場」よ!勝手なこと言ってめちゃくちゃして。作戦はどこ行ったの?作戦は!」
そのことで怒って黙ってたのか。
そういえば、ミキトとサヤは作戦会議以降、別行動してたんだっけか。
多分、話し合ってた時に喧嘩でもしたのだろう。
まったく、そんなことでこっちを巻き込まないでほしいな。
「作戦は言っただろう?」
「作戦?あんなのが?」
「知ってるか?暴徒ってのは暴れるんだ。」
「なにそれ?そんなわけ分からないこと言って、ホントは1回戦目の憂さ晴らしのつもりだったんでしょ?」
「うっ…」
どうやらミキトは暴れたかったらしい。
なんでだ?
コイツは、自己顕示欲の塊というわけでも、無策で敵に突っ込むような性質ではない。
第1回戦目で作戦を練ったように、彼は策士タイプである。
「でも、なんであんな作戦?にしたんだ。敵を奇襲するのはいい考えだろうけど、無策で突っ込むなんてミキトらしくないよ。」
「…」
「ミキトはね、ショウヤに嫉妬してるのよ。」
黙っているミキトをよそに、サヤが答える。
嫉妬?ミキトが俺に?
「どういうことだ。」
「ショウヤが皆に注目されて、活躍してたから躍起になったんでしょ。」
と、あざ笑うかのようにサヤはミキトの方を見やる。
どうやら、ミキトは俺にライバル心ってやつを抱いてるみたいだ。
そういえば、彼は現在、訓練生の分際で曹長の階級だったな。
(超能力者鎮圧部隊は特殊で、優秀な成績を修め、その実力が認められれば、例え訓練生でも階級が認められる。
しかも、このエスパー部隊の兵力と超能力の情報は、政府にかなり重宝されている。
ゆえに、自衛隊のように膨大な知恵を頭に叩き込んだり、数年かけて昇級せずに、成績をある程度修めることで昇級できるのだ。)
彼は、優秀な成績を修め、それなりに頑張ってきたのだろう。
そんな自分を、階級も歳も下の俺に追い越されたとでも思ったのか?
「そうなのか?ミキト。」
本人は恥ずかしそうに口ごもる。
そして、しびれを切らしたかのように口にする。
「んだよ!別に嫉妬なんかしてねえよ。ただ、俺もつええって事を、頭だけじゃねえって事を示したかっただけだ。」
「ぷっ」
「はっ!なんだそりゃ。」
「…(クス)」
「なんだ、お前ら!なぜ笑う!」
ミキトは3人に笑われてしまう。
彼はなぜ俺を笑う?と、驚いたように怒る。
「なぜって、そりゃ…」
「ミキト、あんた子供なのよ。」
「なっ」
「ほんとだよ。まったく子供だな。」
「ショウヤ、てめえ…」
と、拳を握ったままこちらを睨んでくる。
彼は俺たちの最年長とは言え、一応子供だ。
まあ、年齢の割にけっこう幼いが。
「っていうかショウヤもショウヤよ。」
「ん?」
「一人で敵二人を一瞬で倒すなんてどうかしてるわ。」
「え、なんで俺まで責められてるの?」
「ミキトがこうなった原因があなただからよ。」
「えー…」
俺はただ、任務を全うしただけなんだけど。
はぁ、なんて理不尽だ。
なんて落ち込んでいると、隣の部屋から教官10人ほど入ってくる。
少ししてから待機室内にチャイムが鳴り響く。
「講評の時間だ!」
教官による、訓練生たちの模擬戦の講評が始まる。
各チームごとに固まって座席へと座り、そこで2人の教官から評価や改善点を指摘される。
今回の戦闘で、課題を見つけて次に活かしましょうってことだな。
そして、俺たちに番が回ってくる。
「では、君たちの講評に入る。」
「…」
全員に緊張が走る。
「まず、一回目の戦闘の評価だが---」
---評価は大体こんな感じだ
第1戦目
ショウヤ隊員の戦技を中心とした立ち回りは堅実で好評価だった。
また、敵の予測外の行動に対し、迅速に対応した、その連携度は非常に高かったとのこと。
ミキト一人への負担が大きくなってしまったことと、相手1人に3人が不覚を取り、分断されてしまったことは改善の落ちがあると。
第2戦目
これは酷かった。
まず、屋内戦闘を模していることを無視するのは、目に余る行為だ、と言われた。
敵に無策で突っ込むことも愚策極まりない。
しかし、敵二人を分断したこと、各々の戦闘力が高く、優秀であったことは好評価だ。
特に俺は褒められた。
敵二人を相手に、怪我無しで叩き伏せたことは賞賛された。
その時、横からミキトに睨まれたが、気にしないでおく。
こんな感じで講評が終わり、例のお菓子が配られる。
皆、自分が次に受ける課業をしに各々教室へ赴く。
俺も課業を受けに、移動しようとする。
が、背後から声を掛けられる。
「おい、どこに行くのだ!貴様には後で罰を受けて貰うと言っただろう。」
「うっ…」
くそう、逃れられなかったか。
ちょっとした出来心だったんです。
許してくだしゃい。
そんな俺の願いは届かず、教官の休憩室へ連れていかれる。
そして、休憩室の中へ行くと、中で一人、既に座っている人物がいた。
バッグを開けてしまった男である。
お前もか、そういえばそうだったな。
一緒に苦しみを分かち合おうじゃないか。
そう思って、教官に言われるままに、一席開けてその男の隣へ座る。
「さて、お前たちは勝手にロッカーの中を探り、私のバッグを漁った。違いないな?」
漁ったって、そんな言い方無いじゃないか。
まあ、でも表現的には間違ってない。
もっとも漁ったのは俺じゃないが。
「…はい」
「なぜそんなことをした?」
「それは---」
待機室の中で起こったことを事細かに話す。
初戦で戦った奴らにからかわれたこと。
いっぱい食わせてやったこと。
ついでに、カバンの中身を当ててやったこと。
「そんな理由で他人のカバンを勝手に漁ったというのか?」
「…返す言葉もございません。」
「はい。」
「まったく。貴様らには教養が足りないようだな。」
そして、スパルタ授業が始まった。
「貴様らには腹筋、腕立て、スクワットをそれぞれ100回してもらう。その間に私が問答をするから答えろ!正しく答えられなかった場合は最初からやり直しだ!」
「えぇー、酷いッ」
「そんな…」
「静かにしろっ!」
シーン
「もちろん、100回終わるまで返さないからな。」
「うっ…」
地獄の問答が始まり、俺は2時間かけて先に終える。
問答に少しでも詰まると最初からやり直しを喰らう。全部だ。
もう、それぞれ500回以上はやってる。
何とかやり終えて、ドタッと床に倒れる。
「よし、貴様。今回のこと、しかと心に焼き付けたな?」
「…は…はい」
「うむ。帰ってよし!」
そうして帰る事を許された俺は、体を引きずるように部屋から出る。
部屋から出ようとする俺に、後ろから声を掛けられる。
ビクッと体を震わせて振り返る。
「そういえば、ショウヤ隊員。貴様の戦技がらみで上層部から、いずれ面会を求められるだろう。」
「いつでも会えるよう心の準備をしておくように。」
「…」
「返事は!」
「はいぃ!」
話を終えて、寮へ向かう。
あの鬼教官やばい。
死ぬかと思ったぜ。
そういえば、まだ彼は残って問答攻めを受けているのだろうか…
いくら超能力者で一般人より身体能力が上だからと言って、あれは人間の所業じゃない。
まさに、鬼教官だ。
実際、彼女の名前は鬼瓦というし。
っと今は夜8時か。
飯と風呂がちょうど終わる時間か。
購買いって、食ったらすぐシャワーだな。
風呂は大浴場とシャワールームがあり、大浴場の方は8時で閉まる。
とりあえず、購買へ行って夕飯買うか…
廊下を歩いてると人混みを見つける。
なんかあったのか?
と、近くに知り合いの元自衛隊の…なんて言ったかな。
あーたしか、
「マキノさん。何かあったのか?」
「あ?ってお前か。じゃなくて、おれは沖野だ!」
「あーそれだ!」
「で、なんでこんなところに人だかりが?」
「で、って…いやぁなんでも、隊員が一人殺されたらしい。」
「らしいって…まじかよ。」
人混みが多すぎて、どこに死体があるのか分からない。
仕方ないなー。
疲れてるけど、気になるし。
よし。
「識道っ!」
ええーとどこだ。
周囲を探るように奥へ奥へと感覚を伸ばしていくと、それはあった。
寮の一室に、太い糸で縫われたように、空中に縫い付けられた人の体の形をしたもの。
糸は壁や天井を貫いて出ていている。
ん?しかし、この糸何か妙だ。
まるで、壁の隙間から生えているようだった。
「お前たち何事だ!」
っと人混みの奥から聞きなれた声が聞こえる。
図体がでかく、筋肉質で丸刈り。
そんな奴はいっぱいいるが、彼の身長は2メートル近くだから、周りより頭一つ分大きい。
我らがゴリラ大佐だ。
「五里大佐!これを見てください!」
周囲の訓練生が敬礼をしながらゴリラ大佐に部屋の中を確認してもらうように言う。
そして、人混みをかき分け、大佐はそれを目視で確認する。
「っ!?なんだこれは…」
「分かりません。同じ部屋のメンバーがドアを開けたところ、こうなっていたと。」
「彼の死の目撃者はいないのか?」
「いません。私が第一発見者であります。」
と状況確認を済ませる。
「全員、直ちにここから離れるんだ!そして、1階の広間へ集合しろ!男子寮の訓練生全員だ!わかったな?」
「了解!」
「了解っ」
ゴリラ大佐は訓練生全員をまずは避難させる。
いざとなれば、自分の身を守れる彼らだろうが、まだ訓練生だ。
彼らは、了解とだけ告げ、急いで他の寮生を集めて、一階へと向かう。
俺は、その場にいたが。
「お前まだっ…ってショウヤか。お前も早く1階へ行け。」
俺に気付いた大佐は俺にも早く行くように促す。
しかしだ。
危険だというなら、尚更俺の目が必要になるだろう。
「俺の目が役に立つはずだ。すぐにでも誰の仕業かあぶりだ---」
「命令だ。今すぐ1回の広間へいけ。」
「…わかった。」
ゴリラ大佐は俺に諭すように、ここから離れろと言う。
こんな大佐の顔は初めてだ。
しかし、冷静でさすがは年の功と言った感じだ。
大佐は伊達ではない。
いつもなら食い下がる俺だが、大佐の顔を見てすぐによした。
「てか、まだ何も食ってないし、風呂にも入れてねえ。あんまりだ。」
今日はほんとにひどい一日だ。
と、廊下を走っていると、サイレンが鳴り始め、アナウンスが入る。
「敵襲。敵襲。基地内の非戦闘員および、職員は指定避難所に直ちに向かうように。繰り返す---」
敵襲だと?この軍事基地にか?
さっきの死体もそいつの仕業なのか?
全く分からないが、今は避難が優先だ---
1階の階段へと行こうと十字路の廊下を通ると、人影が視界の端を横切る。
何か妙だった。
人影は俺の視界の右側およそ20メートル先のT字路を一瞬で通り過ぎた。
俺は怪しんで、その人影を追う。
そして、追った先の角を曲がると、そこには惨殺された死体が落ちていた。