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転星記  作者: 自分革命
第1章 世界騒乱編
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4話 俺たちは暴れん坊


 初めての模擬戦を、見事初勝利に飾ったショウヤたち。

 ボロボロになってへばるミキトを即席治療室へと運ぶ一行。

 一瞬で退院したミキトへ、見舞いのメロンを創り出し渡すショウヤ。

 混乱するミキトを連れて、訓練場へと戻る。


 「しかし、よく粘ったな!ミキト。」

 「そうね。あんな熟練の()()()なんて見たことないわよ。」

 「…」


 敵3人を食い止めたミキトを素直にほめるショウヤ。

 あんな訓練生がいてたまるか!と文句をいうサヤ。

 相変わらず無口で何もしゃべらないが、どこか嬉しそうな表情のカリン。


 「カリンが笑ってる!?」

 

 と驚くミキト。

 しかし、ミキトがそんなこと言ったせいで、カリンはいつも通りの無表情になってしまった。

 

 「ちょっとミキト!あんまりこの子をからかわないで!」

 「えっ…からかってないんだけどなぁ」

 

 と、素直に驚いただけなのに、酷い扱いをうけて、さすがの彼も肩を落とす。

 

 「まあでも、わかるよ。カリンが最後に超能力を使ってくれたおかげで俺たち当てたもんな!」

 「えっ!?やっぱり使ったのか…その瞬間を見たかったなぁ…」


 こっちの方がよほど応えたのか。

 さらに肩を落とすミキト。

 その様子に味を占めたのか、サヤが続けて言う。


 「カリンちゃんすごかったもんね?あんな迫力のあるカリンを見れなかったなんて、あんたも不幸よね。」

 

 と挑発するサヤ。

 

 「サヤにからかわれるなんて…俺もとうとう運が尽きたな。」


 と嘆くミキト。

 そんな二人の様子に、笑みを浮かべるカリン。

 しかし、ホントに変わったな、彼女。

 たかが20分程度の模擬戦で自分を変えることが出来るとは…

 見直した。それと同時に尊敬する。

 俺が今までできなかったことを数10分で出来るようにしてみせたのだから。


 訓練場に戻って、待機室で休憩していると、先ほど戦った30代後半くらいの男たちに声を掛けられる。

 

 「よう、小僧ども!さっきの戦い見事だったぞ!」


 と大きな声でほめられる。

 そうだろう?とミキトが胸をはって堂々と誇る。

 にしても、この人たちは何者なのだろう。

 連携や対応のスピードが異常だった。

 敵ながらあっぱれと言える。


 「あの、あなたたちは元々自衛隊か何かだったんですか?」

 

 普通に知りたかったので聞いてみる。

 ちなみに、慣れない目上の相手には、知らぬうちに敬語を使う。

 すると、リーダー格の男が答える。


 「そうさ。俺は沖野(おきの) 道次(みちつぐ)。元々自衛隊に所属してた。そこじゃあ、陸軍中佐をしていたが、引き抜かれて、な。」

 「どうりで手強かったわけだ。」

 「そうか。手強かったか!それは光栄だ。」

 

 と嬉しそうに話す。

 そこで割って入るように他の3人も各自、自己紹介をした。

 海兵や警視庁で務めていた者、そして空手の師範代までいた。

 いや、ホントよく勝てたな。

 奇跡だろ。


 「にしても、敵ながらすごい勝利だったな。最初の動きは焦ったな。うちの識道の使い手をどうやって出し抜いたんだ?」

 「俺です。あ、俺の名前は御王(みおう) 勝彌(しょうや)です。」

 「君が?」

 「はい」


 しばらく沈黙が続く。

 あれ、前にもミキトたちにこんな反応されたな。

 すると、サヤが沈黙を破る。


 「そうなんですよ!ありえないでしょう?一瞬で皆さんのいる場所をすべて的確に当てたんですよ?」

 「本当に、そんなことが出来るのか?」


 元警視庁出身が驚きを隠せず聞いてくる。


 「できますよ。結構珍しいみたいですけどね…」

 「いやはや、たまげた!」

 「恐ろしく優秀な子がいたもんだ!」


 と、わざとらしく大声で笑う。

 はー、しょうがない。ちょっと見せてやるか。

 と目をつぶり、ついでに目隠しをする。

 感覚を研ぎ澄ませる。

 すると、視界は藍色になり、建物や物、人の輪郭の身が白い線となって見える世界に変わる。

 待機室の外側。

 自身の半径50メートル強くらいの範囲が見える。

 見えるというより、感じる。

 それを一気に前方へ集中するように意識する。

 すると、およそ前方、80メートル前後の範囲まで視界が広がる。


 「この待機室の外側。右手前のドアの向こう側の訓練場に審査員が見える。」


 そう言うと、急いで男たちは右手前のドアを開ける。 

 そして俺は、続けて言う。

 

 「審査員は70メートル先までで全部で6人見える。訓練場の外壁に立ち、模擬戦の様子を観察している。」


 周りがどよめく感じが、この世界の感覚でも伝わってくる。


 「正面左側に2人。手前が男性で、奥側が女性。正面右側は、手前2人が女性で奥の1人が男性だ。」


 もうちょっとやっておくか。


 「ついでに、そこの壁際のロッカー、俺から見て左から2番目のロッカーの中にバッグがあって、その中にお菓子が大量に詰め込まれてる。」

 

 言い終えると、待機室は静まり返っていた。

 全員が俺の方を見ている。

 と、一人が動き出して、さっき言ったロッカーの中身を見ようとする。

 

 「おい、勝手に開けるなって!教官に怒られるぞ!」

 

 と注意されるが、その男は興奮が抑えられないといった表情で注意を聞かず、ロッカー内のバッグを取り出す。


 「行くぞ…」


 と言って、恐る恐るバッグの中身を覗く。

 

 「え…」

 「まじかよ」

 「嘘だろ」


 と言った声が聞こえ始める。

 その中には大量のお菓子の詰め合わせが入っていた。

 まあ、知ってたけどね。

 それでも周囲の人たちは皆、その光景に唖然としている。


 「どうかな?」

 

 と、俺をあざ笑ったおっさん共に見せつける。


 「い、いやすまなかった。本当にできるなんて…」 

 「あ、ありえないだろ…」


 どうだ、見たか。

 人をすぐに馬鹿にするような奴はこうなるんだぞ。と言わんばかりの表情をする俺。

 とここで、隣の休憩室の扉がバンッと開く。


 「貴様ら何を騒いでいる!ここは待機室で、くつろぐ場所じゃ…」


 と、教官の視線が、お菓子の一杯入ったバッグに移る。


 「この、それは…」


 バッグを開けた男が何とも気まずい表情をする。


 「はぁ、開けてしまったか。」

 「はい?」

 「それは貴様らに今日の褒美として与えるつもりの物だったのだ。」


 うわっいけないことした。

 せっかく教官が俺たちのために要してくれたサプライズをぶっ壊してしまった。


 「すみません。俺のせいです。」


 素直に謝った。

 怒られるのは嫌だが、人の好意を台無しにするのは、とても嫌な気持ちだったから。


 「ん…お前は。御王(みおう) 勝彌(しょうや)か?」

 

 なんで、俺のこと知ってるの?初対面のはずだけど。

 いや、集合場所での説明の時に一回会ってるか。

 あれを「会った」に含めるかはあれだが。


 「貴様のことは五里(ごり)大佐から聞いている。なんでも、戦技を使いこなし、新しい戦技まで身に付けたというじゃないか。」

 「ああ、ゴリラ大佐の知り合いでしたか。」

 「むっ!」

 「ひっ!五里大佐のお知り合いでしたか。あはは…」


 めっちゃにらまれた。怖えー。


 「五里大佐とは長い付き合いだからな。お前のことを彼はよく話していた。」

 「俺のことを?」

 「そうだ。戦技だけでなく、戦闘スキルが常人を超える逸材だと。」

 「えぇー。」


 ここにきて、めっちゃ褒められてる。

 正直ほめられすぎて実感わかない。


 「恐れ入ります!」

 「うむ。期待しているぞ。」

 「はい!」


 おお、彼女はかなり厳しそうだが、いい人だ。

 

 「それと、このバッグを勝手に取って開けたのは見過ごせない。後で罰を受けてもらう。」

 「うっ」


 やっぱ怖い。

 泣きそうだ。

 どんな罰を受けるのだろう。

 痛いのだけはやめてくれ!ああ、先が思いやられる。

 すると、俺の肩に手がポンッと乗せられる。

 

 「どんまい!天才君っ!」

 「ミキトてめえ!」

 「おっともう次の模擬戦だぞ。さっさと準備しろ。」

  

 この野郎。他人事だからって調子に乗りやがって。

 俺はあの教官が、怖くて怖くてしかたがないんだ!

 ああ、なんだか母を思い出す。

 背筋がぞっとする。


 「どんな罰受けるのかな…おれ。」

 「なあ、ショウヤ君?」

 「なんだよ。またからかいに来たの…」


 ミキトらへんが、しつこくからかいに来たのだと思って見てみると、そこには教官のバッグを漁った男っだった。

 

 「いや、そんなんじゃないけど。謝りに来たんだ。本当だったらボクだけ罰を受けるはずだったのに…」

 「え?あ、いや。あれは俺が漁ったようなもんだから気にするな。」

 「そう?一応謝っておくよ。」

 「そ、そうか。」


 律儀な奴だなー。

 確かにコイツも悪いと言えば悪いか。

 共犯だし、お互い様だ。

 

 「それにしても、君の戦技すごいな!あれどうやったの?1キロ先まで見えたりするのかな?」

 「いや、そこまでは無理だろ…」

 「そうなのかー」


 なんかすごい熱量を感じる。 

 マニアかなんかか?

 男の子だったら誰しもそういうの憧れるよな。

 アニメや漫画で見る必殺技的なやつ。うんうん、分かるよー。


 「ま、1キロってことはないけど、昨日測ったら100メートルまで見れたんだ!」

 「ふーん、そんなに見えるんだ。」

 

 なんか急に冷めた態度だな。

 悪かったな100メートル先しか見えなくて。

 

 と、準備開始の合図が鳴る。

 そうして、今度は暴徒として模擬戦の準備をするのであった---


 やべえ、作戦の内容頭に入ってねえ。

 なんだっけか。

 

 「な、なあカリン。今こんなこと聞くのは、なんだけど。作戦なんだっけ?」


 いっけね!俺としたことが作戦忘れちまったぜ。

 という感じのテンションで聞いてみる。

 

 「…」


 はぁ、まだ無理か。

 二人どっか行っちまったしな。

 どうしよ、これで負けでもしたら…はぁ。

 と落ち込んでいると、


 「…ばれろ」

 「え?」

 「暴れろ、だよ」

 

 え?何それ。

 ていうか喋った!

 その声は弱弱しくて、とても可愛らしい声だったが、言ってることは過激だった。


 「暴れろって、作戦はどうすんの…」

 「暴徒は好き勝手暴れるんだって…ミキトさんが言ってた。」

 

 どうやら聞き間違いじゃないらしい。

 まあ、あいつらしいと言えばらしいかな。

 そんな考え聞き入れたのか?あのサヤが?

 

 「サヤはなんて?」

 「知らないって…」

 「そ、そうなのか…はは」


 そうなるわな。

 あの、チームワークが大事だの、礼儀が大事なの言ってるお嬢様が聞き入れるはずないよな。

 多分、ミキトとサヤは別行動だな。

 どこをふらついているのか知らんが。


 「カリンはどうするんだ?」

 「…」


 こちらも予想内。

 彼女が自ら敵の前に立ってオラつく姿なんて想像できない。

 っていうか、カリン置いてどこに行きやがった、あいつら。

 結局サヤも勝手なやつなんだよなぁ。

 仕方ない。


 「カリン。俺の近くにいろ。俺は識道で遠くの敵を把握できるから、万が一にも相手から襲われることはないよ。」

 「それと、戦闘が始まったら、俺のそばを離れないようにな。」

 「…うん。」


 さてと、方針?も決まったところで、開始の合図が鳴る。

 戦いの開始の合図とともに、奥で爆発が起こる。

  

 もう始まってしまった。

 急いで、二人で向かう。

 すると、目の前に2人現れた。

 相手は、え?というような驚きと同様が隠せない様子。それもそうだろう。

 屋内戦闘を想定した模擬戦のはずなのに、外でいきなり仕掛けられるんだもん。

 そういう意味では奇襲作戦大成功だな。

 悪く言えばただのやけくそだ。

 と、そんなことはさておき、目の前には敵がいる。

 

 「カリン。後ろに下がって。」

  ・・・

 「あれ?」

 

 後ろを振り返ると、遠くの建物の陰からこちらを覗いていた。

 

 「早っ…」


 と、油断していると正面から、いきなり敵の片方が突撃してきた。

  

 「ヒュッ」

 「おっと」


 突き出された拳を軽く躱し、距離を取る。


 「なんであれが避けられるんだ。」

 「落ち着け、あいつは待機所で問題を起こした奴だ。」

 「あいつかっ!」


 いや、なんかめっちゃ不名誉な覚えられ方してるんだけど。

 しかも、本人の前で問題を起こしただとか、あいつかって。

 俺はあんなの望んでない。

 降りかかった火の粉だ。

 

 「くそ、今日はついてない。せっかくの初陣戦勝利でいい気分だったのに…」

 「はぁ?なに言ってん---」

 「全員処刑してやる!」

 「なっ!」


 二人は戦慄したような顔をする。

 一方俺は、教官に怒られ呼び出し喰らうわ、チームメイトは勝手な行動するわ、知らん奴に問題児呼ばわりされるわで、怒りと悲しみの絶頂である。



 全身の体表、脳みその神血を覚醒させる。

 それと同時に手に刃のない鉄刀を出現させる。

 そして、刀を下段右構えで敵へと進む。

 対する敵二人は、最初に突っ込んできた方が前衛に、俺を問題児扱いした奴が後衛にポジションをとる。

 身構える両者。

 そして、俺が5メートル付近まで近寄った時、前衛の男が飛んだ。

 先ほどと比べ者にならないスピードで飛び、先ほどよりも更なるスピードで拳を放つ。


 「カンッ」


 と甲高い轟音の後、2者は一瞬の静止する。

 ゆっくりと過ぎていくその()()

 1秒にも1分にも感じる静寂。 


 片方の者の右腕がぐにゃり、とぶら下がる。 

 そして、静寂の時が終わる。

 

 「ぐあああっ!!!」


 血すら出ずに異様な方向へとぶら下がる右腕。

 本人はあまりの激痛に食いしばった唇を噛み切る。


 その右腕は、刃の無い鉄刀を持った黒髪の少年によって折られたのだ。

 

 折られた本人は何が起きたか理解できてない。

 傍から見ていたはずの、男も何が起こったのか理解できなかった。


 しかし、男の腕が折れている理由を、少年は知っている。

 豪速で突き出された腕に合わせて、刀を一瞬で振り、刀身を当てただけだ、と言うことを。

 

 「ふざけんな!てめえ。」


 腕を折られた男が少年に再び、襲い掛かろうとする。

 しかし、何故か地面へと倒れる。

 一瞬の後、足に激痛が走る。

 いつの間にか、両足がひしゃげているのである。

 激痛の後、彼は気絶した。


 その様子を驚愕の表情で見ていた、もうひとりの男。

 彼は、少年に立ち向かえない。

 否、立ち向かったのである。

 一瞬で少年の間合いへと飛んだ男の攻撃とほぼ同時に、弾丸を飛ばしたのである。

 彼は指で弾いたものを弾丸に変える能力を持っている。

 しかし、その弾丸は少年に届くことなく、叩き落される。


 これが、少年「御王(ミオウ) 勝彌(ショウヤ)」の本気。

 これが、纏道(てんどう)駆道(くどう)識道(しきどう)洞道(どうどう)を同時に使いこなすことが出来る彼の実力である。


 弾丸を飛ばした男は両手を上げ、降参した。

 そこで、模擬戦終了の合図が鳴り響く。


 勝者:暴徒チーム。

 

 

 

 

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