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転星記  作者: 自分革命
第1章 世界騒乱編
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1話 入隊後の生活

 西暦2100年にやってきた「アダム」、「イヴ」と呼ばれる2体の神と日本の自衛隊が接触した。


 日本政府は、世界の混乱を避けるために「アダム」と「イヴ」の存在を国民から隠し、各国の主要政府(米、英、露、中など)と情報を秘密裏に共有した。

 2体の神は日本語をしゃべることが出来た。

 なまりなのか、表現の仕方が独特であったが、意思の疎通は問題なく行えた。

 また、ある死刑囚を試験体として「力」とやらを与えさせたところ、その試験体の男は超能力に目覚めた。

 その男は指を振るだけで周囲に風を起こし、地面や壁を切れるほどの力を手に入れた。

 しかし、「アダム」「イヴ」が渡せる力は限られているらしい。

 各主要国政府は、100人ほど各国から人材を厳選して能力を与えることを合意する。

 これが、各国に超能力者が出現していった起源である。


 超能力者の中には、「体から火を出す者」や「物体のもつエネルギーを操る者」、さらには、「時間をも操る者」までいたという。

 彼らは「エスパー」と呼ばれ、新人類の誕生とされた。



 西暦2102年から混乱は訪れた。

 一部の能力者が徒党を組み、世界各地で暴動を起こし始めたのである。

 組織された能力者集団。通称「人の子」。

 彼らの能力行使により、世界各地で甚大な被害が発生し、世界恐慌が起きるのも時間の問題となった。

 各国政府はこれに対し、互いに暴徒鎮圧のために「他国への武力行使しない」という条件付きの条約の下、超能力者軍。通称「神の子」を作り始めた。

 こうして、軍の下で訓練された「神の子」により、暴徒は瞬く間に鎮静化されていった。

 しかし、能力者の増加は止められず、一進一退の攻防が続いていく。

 

 そんな混乱の世。

 西暦2110年、少年「御王ミオウ 勝彌ショウヤ」は10歳にして、超能力者特殊鎮圧部隊「神の子」へ入隊することとなる---


 

 「ぐわっ!?」


 黒髪の少年が地面へ激しく倒れる。

 少年は地面へ尻もちをついたまま苦しそうな表情で見上げる。

 少年の前には、丸刈りの屈強な男が腕を組んで仁王立ちしていた。


 「おいおい、この程度でへばってたら命がいくつあっても足りねぇぞ。ショウヤ!」


 そう、この地面に尻もちをつき、情けない表情をしている黒髪の少年こそ「御王(ミオウ) 勝彌(ショウヤ)」である。

 彼は、「アダム」と「イヴ」に超能力を与えられた後、軍に入隊させられたのである。

 入隊から2年、厳しい訓練を課せられた。


 「はぁはぁ、あんたが手加減を知らなさ過ぎるんだよ!…ゴリラのおっさん。」


 不満が爆発したように文句を言う。

 

 「ははは、俺が強すぎたかっ!しかし、俺は手加減してるし、ゴリラのおっさんじゃない。」

 「超能力者特殊鎮圧部隊の隊長を務める、五里ゴリ 真司シンジ大佐だ。」

  

 相変わらずの熱血漢で声がでかい。

 この、大佐こと五里(ゴリ) 真司(シンジ)は、このエスパー部隊の現隊長を務めるリーダーであり、俺の教官だ。

 いや、教官と言うより師匠と言った方が近い。

 他の隊員からは鬼教官と呼ばれているおっさんだけど、俺にとってはおせっかい焼きの親戚のおじさん的なイメージだ。

 戦闘訓練は厳しいが、それ以外のときはとても優しい人だ。それ以外は、ね。

 

 「ゴリラの大佐は、なんでいつも俺に厳しいんだ?」

  

 本人は悪口を言ってるつもりはない。

 ただ、直感的にそう呼びやすかったからそう呼んだのだ。

 

 「ゴリラって…いや、もういい。俺がお前に厳しくするのはな、ショウヤ。お前に才能があるからだ。」


 と、それらしいことを真顔で言う大佐。

 

 才能かー、確かに他の隊員と比べて座学の成績は良い方だけど、そんなに秀でてるわけじゃなし、むしろ俺より優秀な奴なんてざらにいる。

 体力だってそんなに多いわけじゃないし、筋力も微妙だ。

 ていうか、普通に厳しくしてた自覚あったんかい。

 

 「才能なら皆持ってますよ。俺は平凡でしょう。」


 らしくもない敬語をつかって皮肉を言う。

 俺はほんとに平凡な人間だと思う。

 今まで自分で何かを決めて行動することが出来なかったのだから。

 意志の弱い、どこにでもいる子供なんだ。

 しかし、ゴリラ大佐はそんなこと微塵も思っていないという表情で話しを続ける。

 

 「確かに隊員は皆、それぞれ才能を持っている。しかし、ショウヤ、お前は突出している。平凡などではない。」


 大佐はいつもの大声ではなく、淡々と静かに話し続けた。

 

 「俺のどこが突出してるんだ?」


  本当に疑問に思う。


 「まず、戦闘(バトル)センスだ。お前は今、()()をどれだけ使えている?」


 戦技(せんぎ)、それは神に血肉を分け与えられた者のみが使用できる技で、自身の体を通常より硬化させる纏道(てんどう)と、周囲の空間を第6感?みたいなので把握することが可能になる識道(しきどう)がある。

 俺は一応、どちらも使える。

 まあ後は、自身の身体能力を上げたり、敵の動きをなんとなく読んだりは出来る感じかな。

 でも正直、全部使っても格段に強くなるわけじゃない。

 超能力を使っていないとはいえ、ゴリラ大佐に手加減されて余裕でボコられてるわけだしな。


 「まあ、纏道と識道は使える。」


 だから、何なんだ。

 その程度誰でも出来るのだろう。


 「それだけじゃないだろう。俺との戦闘訓練でお前が使ったやつだ。」


 え、違うの?

 んーなんかあったかな。ひょっとして、あれのことかな。


 「使ったことと言えば、身体能力をちょっとあげたり、相手の動きをなんとなく読むくらいだけど--」

 「それだ」


 ん?どれだ?

 俺が今言ったやつはそこまで使えるモノじゃないぞ。

 

 「ショウヤが使った技は今まで誰も使ったことがない。纏道や識道を極めて言った者はいたが、そんなことが出来たやつは今まで一人もいない!」

  

 え!?初耳なんだけど。

 ていうか、俺がこの技使い始めたの入隊してから3か月くらいの時だよね?

 なんで黙ってたのこのおっさん!

 

 「それ、初耳なんだけど!この技使ってからもうすぐ2年経つんだけど!」

 「ガハハ、すまん!すまん!しかし、その駆道(くどう)洞道(どうどう)は今までに例がなかったし、ショウヤの超能力によるものなのかなと思ったからな。」


 本当に大事な事話さないなぁ、この人。 

 って今なんて?


 「クドウ?ドウドウ?ってなんすか。」

 「お前の使った技の名前だ。技名はこの俺が考えておいてやった!」

 

 俺が初耳の言葉を聞くと、待ってましたと言わんばかりに「フンッ」と自慢げに鼻を鳴らして答える。

 まさか、今まで黙ってたのって、技名が思いつかなかったからじゃないだろうな!?

 

 「大佐…技名決め兼ねて今まで黙ってたわけじゃないですよね?」

 

 大方そうだろうと思ったが、一応聞いてみる。


 「やっ…いや、そんなわけないだろう!今まで黙ってたのは戦技なのかショウヤの超能力なのか分からなかったからだ。確かに、ちょっと技名に悩んだりはしたが、決して名前を決め兼ねて黙ってたわけじゃないぞ!」

 

 そうは言っても、冷や汗をかきながら目が泳いでいる。

 ほんと大佐って人は…。

 どこまでもまっすぐで、愚直で、嘘つくのが下手くそだ。

 ジト目で大佐を見ていると、彼は話しを続ける。

 

 「それはさておき、お前は超能力を得てから僅か3か月程度で戦技を4つも体得している。それは、異常なほどの才能だ。簡単にできる事じゃない。」

 

 勝手に話を戻した大佐は真面目に語り始めた。


 「そういうことなら…まあ、凄いことなのかもな。でも、その駆道ってやつも洞道ってやつも、纏道や識道と大して変わらないぞ。理解できれば誰でも出来るんじゃないか?」

 

 拳道も洞道も、結局やることは纏道とかと同じだ。

 体内の神の能力因子。通称「神血(しんけつ)」を覚醒させて、戦技を使う。

 神血を覚醒させると、超能力を使うことが出来るようになる。

 発動には、各々の能力に合わせて発動を意識すれば勝手に出て来る。

 火を出す能力だったら手から火が出てくるイメージをし、水を生み出す能力だったら目の前に水が溜まっていくイメージをする。という感じだ。

 神血には覚醒度があり、戦技を使う時は特定の部位の覚醒度を上げることで扱える。

 纏道は、全身の体表の神血をめいいっぱい覚醒させることで体表が物理攻撃に強くなる。

 識道は、脳全体の神血を覚醒させ、触覚に近い感覚を研ぎ澄ませることで、壁の向こう側が見えたり、周辺の空間を把握できるようになる。

 俺の使った駆道は、全身の筋肉の伸びた瞬間に合わせて神血を一瞬で覚醒させる。

 洞道は、識道とほぼ変わらない。脳全体の神血を覚醒させ、相手の動きを注視するだけでできるようになる。


 と、言う感じだ。 


 「む。そうなのか?しかし、前にお前に説明してもらったが全然できないぞ。」

 「筋肉の伸び縮に合わせて覚醒させるのが難しいし、まず一瞬で覚醒させることが出来ない。」


 と、隠れてずっと鍛錬してましたと告げる大佐。

 

 「え?まあでも人によって得意不得意あるじゃん。ゴリラ大佐は纏道を極めた達人だろ?」


 他のエスパーはどうなのか知らないけど、出来る人は出来ると思う。

 知らないだけで、理論は簡単だから少し練習すれば行けるはず。


 「ゴリラではないっ!!他の隊員にもやってもらったが、誰もできなかったぞ。」

 

 まじかよ!?俺、本当に天才なのでは?

 

 「それって凄いよな!?俺、才能あったのか。」

 「だから言っただろう。ショウヤには才能があるって。」

 「やべーな!俺、()()になるかもな!」

 「そうだな!お前はまだまだだが、これから訓練でもっと強くなれるぞ!」

 「おっしゃ、そうと分かれば訓練だ!ゴリラ大佐!次は何をすればいい?」


 思わずテンションが上がってしまった。

 思えば人生でほめられたことってあんまりない。

 初めて人に才能を認めてもらったんだ。

 よし、これからもっと頑張るぞー!

 

 「よし、その調子だ。まずは、あそこにある重りを持って、車の荷台まで運ぶんだ!」

 「分かったぜ大佐!うぉぉぉーー!!!」


 大佐の指示の通りに、重りを運んでいく。 

 しっかし、この重り色んなバリエーションがあるんだな。

 基本は自分の体をすっぽり入れられてしまうほどの大きなバッグだが、銀色や茶色のケースもあったり、あんまり重くない細長いアタッシュケースだったりと実にバリエーション豊富な訓練だ。


 「しかし大佐。この重り、色んな種類があるんだな!軽いのまであるが、これは訓練になるのか?」

 「ああ、なるとも。重りによって運び方や入れる力が違うだろう?」

 「そうやって体が慣れなくすることで集中力をアップさせるのだ!」

 「どうだ?体が疲れて来ているだろう。」


 大佐は決まったことを言うように饒舌になる。

 そして、ハハハと作り笑いをしながらショウヤが()()を運ぶ様子を見ている。


 1時間ほどで荷台がいっぱいになり、重量運搬の訓練を終える。

 ショウヤは汗だくで今にも死にそうな表情でゼェーゼェー言って壁にもたれかかる。

 

 「やったぞ…ゴリラ大佐。」

 「よくやった。荷運びご苦労!さ、もう夕食の時間になる。帰るぞ。」

 「え?今なんか言っ--」

 「夕食の時間だ!早く来るんだ。」


 今なんか荷運びが何とか言ってなかったか?

 まあいいや、疲れたし帰ろう。

 

 ショウヤは、大佐の荷運びをやらされていたことに気付かず、そのまま二人で基地へと帰っていったのである。


 

 基地に帰った後、食堂へと赴くショウヤ。

 配備されているトレイと食器をとり、スープやご飯を皿の上に盛っていく。

 食堂の端の一席に座ろうとする。


 「おーい!ショウヤ、こっち来いよー!」

 「ちょっと静かにしなさいよ!また注意されるじゃない。」

 「…」


 と、大声で俺を呼ぶ声がする。

 それを止めるように言う小声がぼそっと聞こえてくる。

 声のした方向を向くと、食堂の中央の席に座る男女3人が見える。

 俺の知ってる奴らだ。

 

 「よう、相変わらず仲いいな、ミキトとサヤは。」


 大声で俺を呼んだ少年「ミキト」こと「篠宮(しのみや) 幹人(みきと)」は、入隊して3年目になる俺の先輩だ。

 無神経でぶっきらぼうな性格をしており、黒髪の短髪で、身長は172cmの平凡顔のどこにでもいそうな少年である。

 しかし、見た目と違って、彼は現在15歳で曹長である。


 一方、「サヤ」こと「九条(くじょう) 沙耶(さや)」はミキトとは対照的で、ちょっと神経質で恥ずかしがり屋な性格をしている。

 イギリス人とのクウォーターで、若干顔立ちが外国人っぽく、身長160cm、茶髪の少女である。

 彼女は14歳で上等兵になった。


 「おいおい、冗談きついぜ、この出来損ないと誰が仲いいって?」

 「それはこっちのセリフ。あんたみたいな粗野な奴と私が仲良くなることなんてありえないわ」

 「…」

 

 相変わらず、仲のいいようで。

 この「…」を繰り返し沈黙を保っている、ロングの黒髪の少女は、「赤花(あかばな) 夏鈴(かりん)」。

 話しかけても頷くか反応しない、表情も訓練の時に辛そうな顔をする以外に変わらない、ロボットのような少女だ。

 身長は140mと小柄で体力が少なく、その立ち振る舞いから、周りからは気味悪がられている。

 たしか、彼女は俺と同じ10歳だったはず。

 嫌な境遇にでも遭ったんだろうな。なんとなくわかる気がする。

 人と関わりたくない気持ちは。

 もっとも彼女は人が嫌いなのかは知らないが。

 と、考えているとミキトが話しかけてくる。

 

 「それよりお前、またゴリラ教官にボコボコにされたのか?」

 「ああ、あの人手加減知らないんだ本当に。」

 「だろうな、でも気に入られてよかったじゃん。」


 こいつわざと言ってやがるな。

 今は疲れてるからか、何とも思わないが。


 「いい迷惑だよ。」

 「っは、違いねえ!」

 「ちょっとここで大佐の悪口はやめなさいよね!」

 「なんだよいいじゃねえか。」

 「…」

 

 と、4人でいつも通りの会話をしつつ夕食が終わると、順番で風呂へ入って布団に入る。

 寮で8~10畳の一部屋に、4人が生活する。

 生活すると言っても、トイレはなく、就寝だけに使用するので十分なスペースである。

 また、2段ベッドの横に2段の机が合体している珍しいベッドを使っており、ベッドの足を延ばす方の柵だけがなく、そこから足を床におろして椅子代わりにして、机で何らかの作業ができる一風変わった代物だ。

 

 1就寝時間になり、寮内の消灯と共にベッドで眠りにつく。

 こうして1日が終わる。







 予備知識

 挿絵(By みてみん)


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