プロローグ 再会
人々は願った、それは世の為、人の為、そして未来のために。
神は云った「お前たちの願いは叶うだろう」と。
時は西暦2100年。人口90億人を超える人類を抱える地球に新たな時代が訪れる----
「--続いてのニュースです。昨日3月4日夕方の5時ごろ、海上保安庁は八丈島付近の太平洋上空30km地点に突如現れた謎の光る2つの物体を観測したとのことで--
「--突如として太平洋上空に轟音と共に現れた2つの光る物体は1時間ほどかけて待機中の水上艦艇へ落下していったとのことです。」
「世間では、あの光る物体のことについて説明しろと--」
「--あれは神そのものだ」
ある日、それは突如現れた。
太平洋上空に光る物体が2つ。
それらは、とてつもない光と熱を放った後、海上の船へと浮かぶように降りて来た。
海面に浮かぶ軍艦へ降りて来たそれらは、船上の大勢の人々の注目を浴びながら人々へ手を差し伸べる。
その日、人類は初めて「神」と接触した------
-----「ん、ここは…俺は確か--」
ふと気づくと俺は知らない場所にいた。
その場所は、真っ白な空間の中に世界各地の写真がバラバラに散らかったような、奇妙な世界であった。
「なんか不思議な場所だな、さすがに夢…だよな」
その空間は現実でないことはわかる。
が、不思議と本当にこの場所が存在しているような気がした。
「こんにちはっ!」
いきなり背後から声を掛けられる。
ビクッ!と体が反応し、ゆっくり振り向くと、巨人が中腰になってこちらをのぞき込むシルエットが目に映った。
光が巨人の背後から差し込んでいる感じになっており、逆光で顔がはっきり見えない。
「なんだっ!?あんたは…」
俺の目に映るそいつは、シルエットだけしか分からなかったが、明らかに普通の人間より随分と大きい人外の化け物だった。
だけど、そんな見た目とは違って陽気な雰囲気を醸し出すその巨人は、俺に何か悪さをするようには思えなかった。
っていうか…この巨人を見て、なんとなく懐かしい感じがした。
見たのは勿論初めてなんだが、まあいい。
とりあえず、夢だろうが何者か聞いてみることにする。
「驚かせてごめんね。どうしても伝えたいことがあって、君の夢に干渉したんだ。」
「夢にカンショウ?」
何言ってんだコイツ。
まあ、夢だから訳わかんない事だってたくさん起きるだろう。
いったい俺はなんでこんな夢を見ているんだろうな。
夢って確か、その人の深層心理だったりする、とか聞いたことあるけど…
そこらへんはよくわからんけど、一応話を合わせておくか。
「あ、えーっと、俺の名前は勝彌。御王 勝彌だ。」
「お前は、名前なんて言うの?」
夢ってのはとりあえず話を合わせてたら、勝手に話が進んでいくもんだから、テキトーに話しかけてみる。
「表現が難しいけど…君たちからはカミとばれてるみたいだね。」
「…へぇ」
カミ?
みんな、俺はとうとう神と話せるようになったみたいだ!
ってことは、ここは神の国で、もしかしたら俺に神のスカウトが来たのかもしれない。
なんてな。
所詮はただの夢。俺が見てるアホな幻想にすぎないんだ…
言っとくけど俺はアホじゃないからな!
「へー、カミね。なんてカミ様なの?すごい存在なんだろね。人の夢にも勝手に出てこれるんだもんね。」
と、じと目でカミを名乗る巨人を見つめながら、馬鹿にしたように口に出す。
「全く信じてないね。まぁ、しょうがないけど。そういえば、名乗ってなかったね。僕の名前はレ…≪アダム≫だよ。」
アダム。
小学生の俺でも聞いたことぐらいある名前が出て来た。
アダム…禁断の果実を食って、神様にイヴって奴と一緒に神の国を追放されたんだっけか。
コイツはどうだか知らないが、そんな大層な名前なんだから、きっと何か罪でも犯したんだろう。
「アダムって…人ん家の木の実でも喰った罪で、ここに追放されたのか?」
「ははは、そんなことしてないよ。でも、罪か…」
陽気な感じの巨人だったが、何か思い出して思い耽たかのように、押し黙ってしまった。
何を思ってるんだろうな。
結局、夢の中だからそんな事考えたってしょうがないだろうけど。
だけど、夢にしては妙にリアルなんだよな…
と、アダムなる巨人が顔をバッと上げて、こちらの方に視線を移す。
「君に、言っておかなきゃいけないことがあるんだ。」
「な、なんだよ急に。」
さっきまでずっと陽気な雰囲気を漂わせていたその巨人は、急に真剣な姿勢で俺にそう云った。
俺は、なぜだかちゃんと聞かなければならない気がした。
巨人の姿がゆっくりと光に飲まれるように消えていく。
と同時に、周囲の景色も光のモヤがかかったように霞んでいく。
「守るんだ、彼女を。」
「彼女?」
「うん。僕は彼女を、彼女の名前をまだ知らない。だけど、君は彼女を守らないといけない。それが、唯一君が生き延びる道だから---」
アダムは最期にその言葉を残し、景色と共に消えていく------
------そして、俺は目が覚めた。
起きた場所はいつも通りの場所だ。
二段ベッドの下の段で、カーテンで隙間を囲うようにして内からも外からも見えないようにしてある俺のベッド。
そして、何故かいつも俺は起きたとき、目が涙であふれている。
俺は3人兄弟の末っ子で、神奈川県の北東部の住宅街に家があり、現在、その家に両親と家族5人で暮らしている。
特に特別な事情もない、どこにでもいる普通の家族だ…とは言えないかもしれない。
別に、10人兄弟で父親が海外旅行で遊びまくって、母は金銭感覚の狂った人で、一家小さなボロ屋敷に住んでいるわけじゃない。
まぁ、金に関してはそこそこあると思う。
父は有名企業の代表取締役だし、兄弟は3人の5人家族だが生計は立ってるし、なんなら懐に余裕もある。
それだけなら、どこにでもある一般的な家庭だ。
それだけなら------
------彼の名は御王 勝彌という。
年齢は、もうすぐで8歳。まだ小学生の子供である。
彼はベッドの上で、ゆっくりとその小さな体を重そうに起こす。
「…」
彼は何も言わず、ただただ気だるそうな顔をして、ぼーっとしている。
ただ、彼の目は涙でいっぱいになっていた。
夢で見たことをぼんやりした頭の中で反芻しながら、自宅の2階から1階のリビングへ移動する。
そこには、母「美典」と父「忠佳」が部屋の中央のテーブルの上の朝食を食べながら椅子に座って談笑し、そのテーブルの端には兄「義晶」が、ちまちまと食事をとっている。
姉の「恵」は生まれつきの障がいを持っており、自分で生活することも、喋ることさえままならない。
ショウヤはリビングで朝食を探していると、
「もう遅い。朝ごはんはなしよ。」
彼の母は、彼に冷たい言葉を吐き捨てる。
彼は特に表情を変えず、歯を磨いて私服に着替えると、学校用のカバンを持って自分の通う学校へと出かける。
家を出ると、たまたまショウヤの家の前を通りかかったクラスメイトの二人に遭遇する。
クラスメイトの「スグル」こと遠藤 傑と、「マッちゃん」こと松川 陽介だ。
ショウヤにはこの二人を知り合い程度にしか見えない。
特別仲が良いわけではないのである。
3人は時々遭遇して一緒に学校へ行くことがある。
その日はその年の子供の間ではやっているゲームの話をしながら登校した。
学校へ着くと教室に入り「おはよう」とクラスメイト達と言葉を交わすショウヤ。
彼は、家の中でこそ寡黙であるが、もともと明るい性格で我の強い子であった。
学校にいる時の彼は、皆の注目の的という感じで、人を笑わせる明るい子の印象を受ける。
しかし彼の心は孤独である。
彼はいつも物事を一人でやる癖があり、淡々と作業をこなす。
自我が芽生える前から親に構ってもらえず、自我の芽生えた後も、親にあれこれ聞いてみても「自分で考えな」と言われ続けてきた。
親を含む周りの人間は、彼が困った時は誰も手を貸さないし、先生に「辛いことがある」と打ち明けても、友達に勇気を出して「手伝ってほしい」といってもまともに取り合ってくれないのである。
放課後になっても、一緒に遊ぼうと誘われない彼。
帰宅途中に兄に出遭い、「帰ったら一緒に遊ぼうぜ」と兄は言い残し、そそくさと先に家へ帰っていく。
帰宅後、木刀を持った兄が玄関で出迎える。
「剣士ごっこだ」と言って、ショウヤにプラスチックの軽い剣のおもちゃを持たせる。
数分後、ショウヤの手にはへし折られたおもちゃの剣。
兄は木刀で弟の頭を叩いて泣かせている。
ショウヤは、逃げるように自分のベッドへ行き、布団を頭から覆って身を守る。
その上から木刀を振り回す兄は、弟に「弱虫!お前なんて生きてる価値無いんだ、死ねよ。」と暴言を浴びせる。
その光景を見ても母は叱らず、特に興味はないといった感じの顔で無視する。
ショウヤの周りには、兄の暴力から救ってくれる人間などいなかった。
逆に、暴力を振ってくる者や罵ってくる者しかいなかったのである。
ショウヤは優しい性格からか、喧嘩になって相手に暴力されても、絶対に手は出さなかった。
それが返って相手を調子づかせて、さらに暴力を振られる。
母には、毎日毎日ぶたれて罵倒されては、泣きじゃくりながら「ごめんなさい、ごめんなさい」を繰り返す。
虐待を受ける理由は様々であるが、母が気に食わないと思ったことがあれば、その都度虐待を受けた。
ある時は、兄からの暴力を受けて辛そうな顔をしていると、そんなツラが気に入らないと殴られたり。
ある時は、歩く母の足に、おもちゃで遊んでいるショウヤがぶつかって、ショウヤが鼻血を出した時、全部お前のせいだと言って、罪や責任を押し付けて、罵倒されて殴られた。
虐待は暴力だけにとどまらず、何度も何度も食事を与えられなかったことや、家の外に一晩中放り出されたことも数え切れないほどあった。
父の方はあまり手を出してこないが、虐待を受けて泣きじゃくるショウヤが全く眼中に無く、在宅中はいつもテレビを見て胡坐をかいている。
ショウヤはたまに、父に泣きついたこともあったが、父はそんな辛そうなショウヤを馬鹿にしたように笑うだけで、気にも留めない。
父は自分の気が向いた時、息子に構ったりするが、子供可愛さに鬱陶しすぎるほど絡んだ結果、息子に拒否されると拳で思いっきり殴ったりする。
障がい者である姉以外全員に、暴力と暴言を受け続ける日々がずっと続いた。
いつしか彼は、自分がいるから家族に迷惑がかかる、自分は生きる価値のない存在なんだと思うようになった。
周りから否定され、自分ですら自己否定する、幼い少年の心は完全につぶれてしまった。
ほぼ植物人間となった彼は、他人と喋ることが出来なくなり、いつ自殺しても可笑しくない程に鬱になった。
まさに、言いたいことも言えないこんな家の中じゃPOISONである。
しかし、彼にはただ一つ。
たった一つの願いがあった。
「もし…もしも、生まれ変わることが出来たら。今度は、皆が望むような人になれますように…」
そんな願いともう一つ、彼の自殺を寸前で止めたモノがあった。
それは、不思議な「夢」のことである。
彼は最近頻繁に、風景の写真がそこら中に散りばめられた白い空間で不思議な巨人と出遭い、そして何かを言いかけられて夢から覚めるのである。
話の内容はほとんど変わらず、アダムにある女性を守ってほしいと頼まれるのである。
しかし、その日は違った------
------場面は変わって、ここは住宅街。
その街並みは街路樹や公園などがたくさん存在し、自然豊かで広々とした良い所である。
そんな街を、7,8歳くらいの歳の美少女が立派な黒い車に乗っていた。
彼女は見た目こそ幼いが、ショートの黒髪と鋭くも大きい、透き通った青い目からは凛々しさと大人っぽさが垣間見える、すこし丸い顔をした和風美人である。
彼女は後部座席の中央に座っており、その両脇に屈強な黒服の男がきれいな姿勢で座っている。
ふと、助手席に目をやると、サングラスをかけた高価なグレーのスーツを纏った白い肌の男が目に映る。
歳は40代後半くらいだろうか。目の横のしわが少し見える。
こちらの視線に気づいたのア、グレースーツの男はバックミラー越しに少女をみて、話し始める。
「君はこういうことに慣れているのかね。すごく落ち着いているみたいだ。」
彼は少女に何か違和感を覚えたのか、何かを探るように尋ねる。
それに対し、彼女は
「まぁ、そんなところです。」
と軽く手短にこたえる。
グレースーツの男は「そうなのか」と軽く笑ってこの会話は短く終わった。
信号が青になり交差点を渡ろうとしたとき、一台のシルバーのワゴン車が少女の乗る車をめがけて疾走してくる。
---ショウヤ視点---
いつも通り、学校への道を一人で歩く。
彼は、宿題を忘れたことに気を落としつつも、授業が始まる前に教室で終わらせればいいか、と気を持ち直す。
考え事をしながら歩いていると、手前の交差点を左から右へ黒い車が通過するのが視界に映る。
ふと、目の前を通り過ぎようとする立派な黒い車へ、右後方から、勢いよく突っ込むシルバーのワゴン車が目に映る。
しかし、誰も止める事など出来るはずもなく、2つの車両は激突する。
車体の右半分が潰れた黒い車の車内に、少女と彼女を守るように庇う血だらけのボディーガードらしき人の姿が見えた。
視線を移すと、突撃してきた車の中から、銃や鈍器を持った武装した男が7人ほど出て来る。
ショウヤはその武装集団が視界に映った瞬間に駆け出した。
武装した男たちの方へ。
彼にとっては考えるまでもなく、そうすることが当たり前だと感じていた。
武装した男が黒い車の方へ銃を向け、発砲する。
発砲したタイミングで、その男の懐まで忍び込むように駆け、男の懐に見えたナイフを一瞬で抜き取り、知らない子供にナイフを取られ、動揺する男の腹に「ドスッ」とナイフをたてねじ込む。
「ッ!なんだこのガキィ…」
と言って男は倒れる。
「やばいッ」
他の男がこちらに銃を向けようとする前に彼は、車へ乗り込みアクセルを思いっきり踏み込み、ハンドルを左へと回す。
「車から離れろ!」
と言う男たちだが、既に遅く、車の左側にいた男2人を巻き込み暴走する。
電柱へとぶつかり止まると、他の男たちがショウヤへと武器を手に持ち、走ってくる。
黒い車に乗っていたグレースーツの男が隙を見て、懐から銃を取り出し、ショウヤへ向かう男を二人仕留めた。
「行くぞ、嬢ちゃん!」
と掛け声を放ち、すぐにその場から逃げだす。
少女はあの少年が気がかりだったが、そうも言ってられず逃げ出した。
残った2人の男たちは、逃げ出した少女たちを優先に追いかけていった。
車で轢いた男たちは意識を失っているのか立ち上がってこない。
ショウヤは額から血を流しながら、道に転がる死体から拳銃を一丁奪う。
自分のふらつく体を無理やり動かし、追っていった男たちへと走らせる。
狭い道の奥、建物の間の薄暗い裏路地で行き止まり、逃げ場を失う男性と少女。
少女を守ろうと、自身の後ろへ庇うグレースーツの男へ切りかかる男2人。
逃げてる途中で弾を切らしたのか、グレースーツの男は、自分の体で少女を隠すようにして襲撃者に立ちはだかる。
しかし、襲撃者は拳銃を発砲し、グレースーツの男は体中に穴が空き、殺されてしまう。
逃げ場を失った少女は、うつむいたまま自身の最期を覚悟し、落ち込んだような表情をしたまま呟く。
「またここで死んでしまうのね。」
諦念を抱く少女へ、容赦なく切りかかろうとする男二人。
「ダンッ」「ダンッ」「ダン」…
男たちの奥から突然、銃声が5,6発鳴り響く。
弾があたったのか、男たちはその場で倒れて動かなくなる。
奥の方から拳銃を手にした少女と同じくらいの年の、頭から血を流している少年が見えた。
「まだ生きてるか?」
銃を片手に持った少年は、拳銃を捨て、男たちの遺体をまたいで、少女へ手を差し伸べて言った。
少女はとても驚いたような、「信じがたい」といったような表情で
「はい…」
と小さく答える。
後に警察がやってきて事情聴取を受けた。
その日は学校へ行かず、病院へ行って4針縫う手術をし終わると、一日中この一件の事情聴取をさせられた。
疲れた。つか、頭痛い。
病院へ怪我の手当をした後、病院の入り口で母が「警察から電話があった。」と言い、彼へ何があったのかと激しく説明を要求する。
母に怯える彼は「銃を持った人たちが人を襲った」そして「その人たちを殺した」ことを伝える。
彼は、説明を続けようと口を開く前に、母に体の方を殴られる。
彼はその場に倒れこみ、泣き崩れた少年に母が罵倒を浴びせる。
病院から退院したショウヤが家に帰宅すると、母は警察から事情を聴かされたようで、
「警察の方から詳しく聞いたわ。あなた話すのが下手なのよ。」
「あなたがうまく喋れなかったから殴られたの。それはのあんたのせい」
そう吐き捨てた。
それから数日、母と口を利かない状況が続き、ある日、黒スーツを着た30代の若く偉そうな人がうちへやってくる。
「ショウヤ君を我々の元で預からせてほしい。」
と、いきなり母に話した。
ショウヤを預からせてもらう代わりに、家族への手当は十分にすると黒スーツの男は言い、母は「お金がいくらか」「この子は私の子」だとかで数日ほどごねた後、父の承諾もあり、しぶしぶ承諾した。
その話し合いにショウヤは「はい」とも「いや」とも言っていない。
そこに彼の意思は介在していなかった。
そうと決まると、ショウヤはすぐにある場所へ連れてこられた。
そこは、巨大な近未来の研究所のような場所で、扉は厳重そうだった。
案内人にこの建物のことを聞いたところによると、軍の研究施設の一つだそうだ。
ここでいったいどんな実験や研究が行われているのやら。
と考えていると、あるプライベートルームと呼ばれる場所へ到着する。
厳重な扉と身体検査を受けた後、豪華な飾りのある大きな部屋へと連れてこられる。
「こ、これから俺はどうなるんですか。」
と俺は恐る恐る聞いてみた、正直、親に捨てられた気分だし、実際捨てられた。
そんな奴が辿る末路なんて…
と思うと、ここで初めて腹から怒りが込み上げてきた。
ここで受ける処遇が気に入らないなら、全員敵に回して暴れまわってやろうかと思えた。
しかし、その考えは数分後には消えていた。
「やあ、また会えたね!今度は現実で!」
陽気な口調でいきなり話かけて来た奴がいた。
この陽気な喋り方で、突然話しかけてくる人物はよく覚えている。
「…インチキ神様!?」
今驚いて口に出してしまった。
別に悪意はないし、からかっているつもりもないが、勝手に自分の中でそう呼んでいたのが、うっかり出てしまった。
「インチキ…まあ、こうして会えることが出来たんだ。結果オーライだ!」
快活な「インチキ神様」通称アダムのいつもの姿がそこにあった。
と、もう一人?の体が大きくも、可憐な印象を受ける女性がいた。
第三の目が額にあり、美しい藍色の瞳をしている。
髪はうっすら青く光り輝いており、着物とは違う感じの藍色の和風っぽい服装をしていた。
いつもの夢の時とちがう。
横にいる巨大な女性がいる事じゃない。
確かにそれもあるが。
今コイツははっきり見えるのだ。
夢の中では逆光で見えず、輪郭もボヤっとしていた。
しかし、今目に見えるそいつの印象は一言で言うと、「猛々しい」。
赤を基調とした魔法使いのローブみたいな民族衣装?を纏っている。
腰には帯のように縄を結んでおり、本当にどこぞの神様みたいだった。
浮世離れしすぎていい例えが見つからない。
それはまだ8歳の子供の頭だからなのかもしれないが。
身長は2メートルなんか優に超えて3メートルはあるんじゃないか?
目の色と髪も真っ赤で、カッと開かれた眼光とシュッとした顔立ちは、さながら「太陽」のようである。
皮膚は日に焼けた感じの小麦っぽい色。
体格は高さのみならず、すごい筋肉を内包している。
コンクリートを豆腐のように潰せそうな筋肉だ。まるで鉄。
もしかして、地震だって腕一本で止めちゃうんじゃないか?
あ、それはないか。
とくだらないことを考えていると
「じゃあ、ショウヤ君。手を前に」
いきなり、案内人の黒スーツの男は手を前に出すように言ってきた。
身構える俺だったが、いつの間にか正面の神らしき「2人」に両手を片方ずつ掴まれてていた。
なぜか身動きが取れず、困惑する。
まるで、金縛りに遭っているかのようであった。
「2人」は表情を変えないが、真剣な表情になったように思えた。
すると突然、手の肉が裂けるようにボロボロになり血があふれ始める。
とてもグロテスクな見た目で、激痛であったが、驚き困惑
した表情がでるだけで、涙一つ出なかった。
いや、表情も固まったままだったかもしれない。
正面に立つ2人も同様に手が裂け、血が出て、俺の手の中に流れ込んでいった。ショウヤは恐怖に支配されたが、それでも体が動かなかった。
すると、「2人」はゆっくりと語り始める
「私はイヴ。そう、ここの方たちに呼ばれております。」
「そして、この世界にはある使命をもってやってきました。」
ゆっくりとした、しかし強かで綺麗な透き通る声が耳に入ってくる。
おお、何だこれ、癒されるわぁとか思っていると、
「そして僕がアダム!僕たちは超能力を与え、人類が世界の崩壊から抗える力を与えるために来たんだ!」
勢いよく陽気に大声でしゃべる「アダム」とやら。
せっかく「イヴ」様のお声に耳が癒されていたのに、とんだ不協和音である。
いつしか、恐怖や痛みはなくなっていた。
どういう現象なんだろ。
途中、「2体」は明らかに驚愕した様子を見せる。
「ありえない。何者なの」と「イヴ」は言った。
次第に血が収まり、手が元通りになると、意識が薄れてその場に倒れる。
薄れていく意識の中、「そう、この子なのね。ほとんど持っていかれたわ。」などと話し、≪アダム≫は最後にこう云った。
「これで君は超能力者の仲間入りだ!おめでとう。そして、君はちゃんと約束を守った。ありがとう!」
「ちゃんと彼女を守ってくれた」
結局、彼女ってなんだ?…誰の事?
ったくふざけ…
と思ったところで意識が途切れる。
こうして俺は超能力を得た。