009
葵は、警戒心が強い。
少しでも目が合うと、容赦なく睨んできた。
男の視線に敏感な葵は、望月と一緒の時も険しい。
というか、獣のように鋭い。強気な葵の威圧感に、苦労させられた。
おそらく初めて話しかけただろう玄関の会話で、その出会いは最悪だった。
(これが、陰キャラと陽キャラの差か……)
立場の違いを、まざまざと知らされてしまう。
そんな俺が今いるのは、聖也の机の所だ。
いつもの俺は、ここが一番落ち着く。
「次の授業って何か、分かる?」
「ああ、物理だっけ」
「なんか、元気ないな」
「そんなこと無い」
いや、聖也の様子がやはり少しおかしい。俺は直感で分かった。
そういえば、葵とも聖也は知り合いらしい。
詳しくは知らないが、聖也はよく葵の事をネタの洋に扱っていた。
おまけに葵は、聖也と知り合いの俺に対して嫌っていた。
「聖也、なんか、葵と……」
「特にないよ」言葉を遮るように、聖也が言ってきた。
だけど、俺は引き下がれない。今回は、ここで終わるわけにはいかなかった。
「葵とは知り合いか?」
「オナ中で、オナ小なだけ」
「じゃあ、幼なじみか?」
「いや、そこまで親しくない。というか、一番関わりたくない人間だよ。
なんでボクの学校に……しかも同じクラスに……」
ブツブツ言っている聖也は、かなり暗い印象だ。
気持ちは分からないでも無いが、陰キャラをこう見えているのだろう。
「何でそんなことを、聞くの?」
「なんとなくだけど、葵のことが気になって……」
「え、あんなのが好きなの?」
「違うよ」ソレはすぐに否定した。
今の、葵は香美と一緒だ。
ここにいるJKの香美は、ユメッチの謎を知っているかもしれない。
だとしたら、香美に近づく必要があるのだ。
それに、香美を守ることを香美……赤ん坊にも託されたのだから。
「ちなみに、ユメッチって知っているか?」
「何ソレ?」
「ああ、やっぱり知らないか」
予想はしていたが、陰キャラ聖也の正しい反応だ。
少し安心して、ガッカリもした。
「葵の知り合いに、いるかもしれないけど……」
「アイツには、絶対に話をしない方がいい」
嫌がる顔で、首を横に振った聖也。
その後、聖也は申し訳なさそうに一人の男子生徒を指さした。
男子生徒は、髪を茶色に染めてかっこいい顔立ちの男。
俺たちと違い、明らかに陽キャラの男子だ。
紺のブレザーを着崩していて、友達の男子生徒と会話をしていた。
日に焼けていて、爽やかなスポーツマンタイプだ。
女子にもモテそうな、イケメンスポーツマン男子だ。
「アイツって、竹富だっけ?」
「うん、竹富。葵にフラれたの」
「え?マジ?あいつって、葵とよく話をしていた男子だよな」
「葵があっさりフッたみたいだ」
「そうか……葵は彼氏がいるのか?」
「いないよ」聖也は、葵の彼氏のことをなぜか断定していた。
「大体、葵は……彼氏をつくってもすぐに他の男に切り替えるから。
ちゃんとした男子が……」
「悪かったわね」
そんな聖也の方に、近づく一人の女がいた。
教室の中で、少し離れたところから葵が腕を組んでこちらに向かってきた。
葵の放つオーラは、強気で威圧感さえ感じていた。