007
自宅に戻った俺。
2004年当時、両親は生きていた。
十六年後に感染症で死亡する母に、生で会えて涙が出てきた。
感動の再会をしたのち、自分の部屋に戻った。
二階の狭い部屋は、現代の今では使っていない。
俺が大阪に引っ越したときに、ここにある机や本をほとんど持って行った。
だけど、今のこの部屋には机も本棚もタンスも存在していた。
漫画を見て懐かしむ俺。時代を感じさせる漫画のチョイスだ。
懐かしい我が部屋で、俺はそのままベッドへダイブした。
現代でも同じ部屋の広さだけど、二階は物置化していた。
現代の生活環境は、今は完全に一階。そもそも俺以外は、誰も住んでいないから。
高校生の俺は制服を脱がずに、ぼんやりと天井を見上げた。
天井も、十七年前と同じ。
(両親は生きていて、ここは間違いなく十七年前。
それは分かるが、アオイン……葵と話をしろか?
それと、あの赤ん坊……彼女は、『望月 香美』と名乗っていたな)
望月 香美は、クラスのアイドル的人気の女子の名前だ。
俺……高校時代に一度も話をしたこと無かったな。
そう思いながら、俺は自分の生徒手帳を見ていた。
(高校時代の俺はスマホも携帯も持って無かったし、情報を探す方法は限られている)
そんな中でも、生徒手帳に書かれている連絡票を見ていた。
クラスの連絡票が書かれているが、ユメッチ……というか夢の文字が入っている女生徒はいない。
ついでに男の方も見るが、夢藤……これは違うよな。
(ダメか、ユメッチ……分からん)
望月を赤ん坊にした、重要参考人の手がかりはない。
俺の記憶でも、高校時代に女子と話をしたこと無い。
本当に俺の高校時代の思い出は、あまりにも薄っぺらい。
いや、マジで薄い高校生活を送っているとマザマザと思い知らされた。
「まあ、アイツに明日聞けばいいか。聖也なら、いろいろ詳しいかもしれない」
でも、それ以上に引っかかることがあった。
(それにしても、香美はリア充だよな。はあ、羨ましい)
俺は、三十四年間彼女がいない。
童貞も、女の子とちゃんと話をしたこともほとんど無い。
業務連絡ぐらいで、世間話も会話らしいこともしたことが無い。
しかし、高校生の望月には既に彼氏がいた。
相手はあの生徒会長だ、完全に俺は負けているな。
でも……望月は確か……何かあった。
望月に関して、何か大事なことを記憶し忘れているような気がした。
ユメッチ……10月28日……あっ、と俺は声が漏れた。
(あの日、中間試験の後……一人の学生が消えた。
そうだ、その生徒って望月じゃなかったっけ?)
あの頃の俺にとって、望月は雲の上の存在だ。
気にもとめない、外の世界の出来事。何より、あの頃の俺には何の関係もない話だと思っていた。
だけど、いろんな事……いろんな言葉が、きっかけであの頃の記憶が呼び戻された。
そして、それは一つの事件が起っていた。
(望月は、いなくなったんだ。10月28日)
立ち上がって、机に貼ったカレンダーを見ていた。
朝のホームルームで、不道先生が言っていたのを思い出した。
だけど、その後の進展は何も無く三年のクラス替えで忘れ去られてしまった。
無論、進展も無いから気にとめることは無い。
卒業まで、彼女が登校することは二度と無かった。
10月28日まで日付は、今から二週間だ。
この期間に、望月の失踪を止めないといけない。
つまりは失踪が、赤ん坊になってしまったということだろう。
(でも、ハードルがなぁ)
いけている陽キャラと会話をして、情報を得ないといけない。
ソレが、今の陰キャラの俺にとって最大の難関だろう。
(ああ、ダメだな。
今も女の子と話すと、緊張してしまうんだろうな……
でも、それでも女子と話をしないといけないな。はあっ)
気が重そうに、俺は考えていた。
窓から見える、夜でも見えるが俺にだけしか見えない渦。
さっき訪ねたけど、両親もあの渦を見えない。感じることさえできない。
俺はタイムリープしたけど、それは普通では無い世界だ。
「考えても仕方ないか、寝よう」
結論を思いながらも、俺はふてくされるようにベッドの上に倒れていた。
そのまま、疲れた顔で俺は眠りについていた。