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JK望月 香美の渦  作者: 葉月 優奈
一話:よし、もう一度高校生をやり直すか
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003

「なんだ、これは!」

いきなり、俺は叫んだ。

叫んだ後、周りの視界が明るくなった。

俺が落ちた渦はいつの間にか消えて、光が目に飛び込んできた。

視界が開けると、俺は周囲の視線を浴びていた。


学原(がくはら)、何をしている?」

男の声が聞こえた。聞こえた声の主を見た。


声の主を見ると、一人の教師がいた。

四角い顔に、口髭。

茶色のスーツを着た中年男性、俺と年が余り変わらなそうな男だ。


目の前には黒板、現代国語(現国)の授業風景そのものだ。

置かれていた現国の教科書で、記憶が蘇ってきた。

遠い記憶の片隅に、俺は現国教師の名前を思い出した。


「不道先生……だ。懐かしい」

「お前、何を言っている?学原」

「俺は……え?」

見ていた教師、その後に見えた教室。

木の机と、木の椅子。教室の中も生徒と、懐かしき風景。

立ち上がった俺は、驚きながら周囲を見回した。


「学生、鳴本の教室か?ここ」

「何を馬鹿なことを言っている、席に座れ!」

「は、はい」恥ずかしそうな顔で、俺は座った。

気持ちの高ぶりと、周りの周囲の生徒の目。

クスクスと笑う生徒、ここは間違いない。


その後、俺は着ている服を見て納得した。

鳴本高校の制服だ。鏡がないので顔は分からないが、自分の顔を触るとおっさんの俺にある髭がない。

さらには、中年太りの腹も太っていない。この時期は痩せていた。

髪も、綺麗に整えられていた短い黒髪。


(ここは、学校だよな。

俺が昔、通っていた鳴本高校。これは夢なのか?)

頬をつねる、単純に痛い。痛覚はあった。


学校の匂い、空気感も、あのとき俺の高校生の時と全く同じ。

周囲を見回す、やはり俺の変な動きに周囲はざわついて……いなかった。

静かに授業に集中する生徒達、俺もまた周囲を見回していた。


(ああ、あいつもいるな。聖也)

俺は前に座っている親友の姿を見ていた。

黒く長い髪でペタッとしていて、度がきついメガネをかけた親友(ダチ)の『田沼 聖也』。

不道先生の授業で現国だから……今は、高二だと言うことを思い出した。

というより、現国の教科書は高二のモノだ。見るだけで、思い出せるモノなのだな。


(そういえば、高校時代の俺ってやっぱりダメなヤツだったな)

俺は、高校時代はあまりいい思い出はない。

クラスの中では、人気者でも成績が優秀でもない。

何か特別に目立ってもいないし、彼女もいない。

それは三十四年経っても、何も変わっていない。


もっと冷静に考えれば、前で授業をする現国の不道先生。

彼は、三十前半で結婚もして子供もいるので人生の勝ち組なのだろう。

そんな不道先生の授業を、俺はぼんやりと聞きながら現状を確認した。


(ここが、鳴本の教室で、高二、つまりは2年D組の教室だ。

聖也もいて、不動の授業もあって、間違いは無い。

これってつまり、時間移動(タイムリープ)ってやつか?)


今俺の目の前で起っていることは、現実に起ったことだ。

過去に戻って、俺は授業を受けている自分がここにいる。

漫画やアニメのような事が、俺の体で起っているというのか。

なぜ、そうなったのかは分からない。だけど、一つ分かったことがあった。


(ただ、あの赤ん坊は普通じゃないって言うことか)

俺は、教室の周囲を見回す。

しかし、この教室の中に赤ん坊も赤ん坊が発生させた黒い渦(ブラックホール)も見えない。

何の変哲も無い、普通の学校の教室がここにはあった。


(まあ、普通の生活より……学園生活の方が少しマシか)

あのときは、まだ俺は壊れていない。

十八年前ならば両親も生きているし、希望はあるだろう。

神様が俺のクソみたいな人生をやり直していいぞ、と配慮でもしてくれたのだろうといい方向に取っておこう。

もしかしたら二周目の高校生で、三十四年間童貞っていうのは卒業できるかもしれないし。


(よし、もう一度高校生をやり直すか)

俺は希望に満ちた目で、周囲を見回した。


三十人ほどいる教室の中で、一人だけ存在の違う人間がいた。

長い栗色の髪に大きなくりっとした瞳、小さな鼻と口。

モデルのようにかわいい女子が、授業を受けていた。


(こんなかわいい女子、いたっけ?)

頭の記憶の片隅を、彼女を見ながら思い出す。

そして、一つの名前を思い出した。


(そうだ、あいつは望月。クラスメイトで、陽キャラの望月だ)

クラスで有名な望月、俺はその名前を思い出していた。

彼女が出すオーラは、眩しい。神のような、神々しさがあった。


なんだろう、威圧感……じゃない。

違う世界の、違う階級の人間、王族のようなそんな雰囲気だ。

陰キャラの俺には、到底手が出ない。そんな雰囲気を感じさせるほどだ。

それと同時に、ある一つの記憶がリンクした。


(望月……望月……あれ?あの生徒手帳の名字は『望月』だよな)

そうだ、赤ん坊が持っていた手帳の名前は『望月 香美』だ。

偶然の一致ではないと、俺は直感した。

それと同時に、俺は考えていた。


(あれ、望月ってどんな奴だっけ?)

俺は頭の中で、思い出そうとした。


しかし、俺は思い出すことができなかった。

そう、俺は陰キャラ。

クラスの中心で喋る陽キャラの望月とは、全く接点が無かったのだから。



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