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JK望月 香美の渦  作者: 葉月 優奈
二話:望月と遊びに行くとするか
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018

その日の夕方、俺はある場所に向かっていた。

学校の裏にある山を登り、人気の無いあの公園に来ていた。

夕日が綺麗だし、見はらしのいい場所から鳴本市内もよく見える場所。

人気のない公園のベンチの上には、やはり赤ん坊がそこにはいた。


「今日は、アオインに呼ばれたのか?」

「ああ、そうだ」

ここには、赤ん坊の望月がいた。

いつも通りの人気の無いベンチの上で、宙に浮いているのが見えた。

今日来ている赤ちゃん服は、黒っぽくて肩が出ていた。赤ちゃん服で、色気でも出しているのだろうか。

その赤ん坊に、俺は毎日報告をすることになっていた。


「で、アオインに話はちゃんとできたのか?」

「ああ、今日……葵の悩みを聞いた」

「ほう、アオインは何を悩んでいた?」

「望月は、何も知らないのか?」

「意外と、アオインは話さないのよ。あの子、ああ見えて繊細だから」

「そういうもんかね?親しいから、相談しにくいのもあるのかもな」

「で、どんな悩み相談なの?恋バナ?」

赤ん坊望月は、興奮しながら聞いてきた。

かわいらしい赤ん坊が、俺に迫ってきた。


「少しだけ、当たっているかな」

「おお、さすがあたし」

「でも、言わない」

「むー、言いなさいよ!」

「プライベートな話だし、いくら赤ん坊相手でも、望月にだけは話したくない」

「……ずるいわよ」ふて腐れた赤ん坊は、背を向けた。


「まあまあ、それでいろいろあって……俺は望月と話をする機会を与えられた」

「アオインが、話をつけてくれたの?」

「まあ、そうだな」

「アオインは、とくに面倒見がいいからね。

性格もいいし、いい子だし、やはりあたしの親友よね」

「そうだな、面倒見がいいのは確かかも」

俺も、葵とちゃんと話をして理解していた。

俺がやりたかったことも、アイツはちゃんと覚えていた。


「それで明日、早速望月と遊びに行く事になったんだ」

「カガミ!」

「ん、なんだそれは?」

「あたしの名前よ、望月 香美」赤ん坊望月が、そっけなく言ってきた。

「え?意味がわかんないけど……」

「明日、あなたに一つの指令を出すから」

「なんだよ?」

「あたしのこと……JKのあたし……望月 香美をちゃんと『カガミ』って名前で呼ぶこと」

「な、なんで急にそんな指示を出すんだ?」

いくら何でも陽キャラでクラスのアイドル『望月 香美』を、名前で呼ぶのには抵抗があった。

特に望月に対しては、キラキラオーラが強い。


いつもクラスで遠くから見ているけど、かわいいし、透明感のある笑顔。

存在感がすさまじく、近寄りがたい眩しさがあった。

彼女が通るだけで、周りが注目するまさにクラスのアイドル。


「でも、アオインは名前で呼ぶでしょ」

「それは……聖也の影響だし」

聖也は、初めから葵のことを名前で呼んでいた。

それが、俺には自然に定着していた。


「あたしも、名前で呼んで欲しい」

「お前は、赤ちゃんだろ」

「赤ちゃんじゃ無い、カガミ……」

「はいはい、分かったから……香美」

「うん、それでいい。って、撫でるなっ!」

赤ちゃんの頭を、誤魔化すように撫でていた俺。

喋る赤ん坊は、すぐにそっぽを向いた。


「とにかく、目的は忘れないように。ユメッチだよな?」

「うん、そう」

「明日、カガミに聞いてみるよ」

「おー、その意気だ。少年よ」

「中身は、圧倒的におっさんだけどな」

すかさず俺は、赤ん坊にツッコミを入れた。

この赤ん坊は、かなり話しやすい。

本当に中身は、クラスのアイドル望月なのだろうか。


「だけど、どうして葵は『ユメッチ』の事を話したがらないんだ?」

「うーん、なんかあるのよね……なんか」

「お前らは、知り合いじゃ無いのか?」

「知り合いよ、あたしと葵……それからユメッチも。

でも、何か大事なことを忘れているのよね。

あたしとユメッチの関係の中で、何か重要なこと……大事なこと」

「それ、思い出せないのか?」

「ばぶぅ」すぐさま誤魔化す、『望月 香美』という赤ん坊。

「……はいはい」脳みそも赤ん坊と言うことか、記憶が呼び出せないのだろうか。

やはり、女子高生望月に直接聞くしかない。


「それにしても、香美はどうしているんだ?」

「あたしのこと?」

「いつもここにいるけど……メシとかどうしているんだ?」

「食べなくても大丈夫よ、あたし」

「ダイエットとかしているのか?」

「ううん、そうじゃない。

多分、この世界の時間軸に……本来ならばこの(・・)あたしは存在しないから。

ほら、学校にはちゃんとJK望月 香美がいるでしょ」

「ああ、そうだな」

「多分、あたしはここを出ることができない。

というか、このベンチの上から出ることができないのよ。

まあ、他の人に見えることも無いみたいだし……お腹もすかないからまるで幽霊ね」

自虐的に、赤ん坊望月は言っていた。

その言葉や顔は、赤ん坊のかわいい笑顔で取り繕われていた。


「お前も、苦労しているんだな」

「平気よ、十七年もこの姿だから」

赤ん坊望月の頭を、俺は再び撫でていた。

赤ん坊望月は、俺に身を委ねるように目をつぶっていた。



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