016
2004年、10月20日。
あれから一週間が、あっという間に過ぎた。
葵との猫探しは、結果的に彼女の誤解を解くことに成功した。
成功したが、モヤモヤはまだ戻っていた。
猫の髭が、抜かれていたタチの悪い悪戯だ。
それと、霊園に気絶した全部で五匹の猫。
いたずらにしては、目覚めのいいものでは無い。
心の中で思いつつも平日の水曜日に俺は学校……ではなく国道沿いのファストフード店に姿があった。
平日昼間なので、学生の姿は少ない。客層のほとんどが主婦か社会人だ。
二階の席に、俺は制服を着てこの店内にここにいた。俺一人ではないが。
「サボり、いいのかよ?」
「いいのよ、今日ぐらいは」
俺の前には、葵だ。
金髪ポニーテールのJKは、何くわぬ顔で店の中にいた。
無論紺のブレザーに、スカートとどこからどう見ても鳴本高校の生徒に見える格好で。
店内の時計は午後1:03、学校では授業が行われている時間帯だ。
制服を着た俺と、葵がテーブルを囲んでジュースを飲んでいた。
「大体、こうやって二人で一緒にいるとデートみたいじゃ無い」
「デートなの?」俺が聞く。
「違うから!」
自分で言って、自分で強く否定してきた葵。
それでも、葵がやたらと周囲を少し気にしていた。
「葵は、見た目通りのキャラなんだな」
「あははっ、それな!」
「分かっている場合か、中間試験が来週だぞ」
「いいの、いいの。アオイは天才だし。前回の期末、クラスで4位よ」
葵がそういうと、説得力があった。
見た目はギャルでも、頭はいいようだ。
葵は勉強ができそうには、とても見えないが。
「勉強もできるギャルは、なんかズルくね?」
「ちゃんと勉強しているし、ガトも戻ってきたし」
「ガトは大丈夫か?」
「当たり前でしょ、獣医に行かせたわよ。
視力は戻らないし、髭もしばらく生えてこないけど。
それにガトは、聖也の代わりだし」
「聖也の代わり?」濁した言葉を、俺は聞き逃さなかった。
「あっ、えと……そうよ」
「なあ、葵」
「何?」
「葵は聖也のことが好きなのか?最近は、聖也に怒ってこないし」
「うん、聖也はああ見えていい奴だから」
金髪ポニーの葵は、少し照れた顔を見せていた。
切り返すように、葵が今度は俺に言い返してきた。
「学原、そういえば、どうしてアオイを名前で呼ぶの?」
「え、あ……それは……」
「まあ、いいんだけどね。
アオイも出羽っていう名字、よく出羽って言われるし。
それなら、『葵』って言われた方が、アオイはいいかなって。
別に呼び方を、アオイはあまりこだわらないし」
葵は、名前で呼ばれることに慣れていた。
というか、俺も葵の名字を久しぶりに聞いた。
だけど、俺はダメ元である事を尋ねた。
「なあ、葵」やっぱりなんかしっくりくる、この呼び方。
「なーに?」
「葵は『ユメッチ』を知っているか?」
その言葉を聞いて、眉をひそめる葵。
この『ユメッチ』と言う単語に対し、葵は明らかに不満の顔を見せてきた。
「その話、しつこいわよ」
「どうしても聞きたいから」
「何度聞いても、アオイの口から出したくない!」
「嫌いなのか?」俺の問いに、これだけは肯定した。
そのあと、葵は一方的に手を叩いた。
「はいはい、その話は終わり終わり。
とりあえず、アオイはシェイク飲むから」葵は、シェイクを飲んでいた。
『ユメッチ』の事は、葵から聞き出すことは難しい。
切り出そうとしても、いつも彼女から一方的に打ち切られてしまう。
「そんなことより、いずり……やっぱり葵」
「何?」聞きながらも、ポテトをかわいく食べる葵。
「何で学校をサボってまで、俺をここに呼んだ?」
「あー、それか……あんたは聖也とつるんでいるんでしょ」
「つるんでいるわけじゃ無いけど……まあ、そうかな」
「そんなあなたに、アオイの相談があるのよ。学原、聞いてくれる?」
葵は急にしんみりした顔で、俺に言ってきた。
声のトーンも、下がっていた葵を俺も真剣に見ていた。