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JK望月 香美の渦  作者: 葉月 優奈
一話:よし、もう一度高校生をやり直すか
14/55

014

細い獣道を進む。

足場の悪い道を、俺は葵と二人で歩いていた。

日が落ちて、辺りはすっかり暗くなっていた。

坂にもなった道を進むと、見えてきたのは霊園だ。


「霊園だな」

「まさか……こっちには、来ていないよね?」不安そうな葵が、聞いてきた。


「さあな」

「さあなって、責任持ちなさいよ!」

なぜか、俺に一方的に怒ってくる葵。

俺は、怒る葵を無視して霊園を歩いていた。


薄暗い霊園には、人はいない。

綺麗な大理石の床に、墓が規則正しく並んで立っていた。

静かで、少し肌寒い秋の霊園。何かが出てきそうな、雰囲気でもあった。


「あのさ、学原……」

「なんだ?」

「あんたは、こんなキャラだっけ?」

「ああ、俺はこれでもやるときはやる男だ」

自信は無いが、今回は現状が現状だ。

今までと同じだと、何も変わらないと経験で分かっていた。

経験で分かっているからこそ、間違った判断はしたくない。

だから、こんなにも積極的になれたのだろう。


「そう……なんだ」どこか弱気な葵。

学校にいるときよりも、とてもしおらしいギャル系の葵。

それでも、俺は周囲を見回していた。


「葵は、携帯電話を持っているか?」

「うん」

「バッテリーは?」

「待って、今見る……78%」

携帯電話を見ている葵に、俺は声をかけた。


「この頃の携帯のライト機能は、あるんだっけ?」

「何を言っているの?」

「ああ、その画面を明かり代わりにして歩けよ。暗いと、猫も探しにくいから」

「あっ、そっか。頭いい、学原」

葵はスマホ画面をロックして、足元を照らしていた。

そんなときだった、墓のある奥の方から音が聞こえた。


「なんか、音がしない?」不安そうな葵の声。

「ああ、聞こえたな。風の音か?」

「ち、違うわよ、馬鹿っ!」

葵が、そのまま背中から俺にしがみつけた。

しがみついていて、前が暗くて見えなくなっていた。


「怖いのか?」

「怖いわけ、ないでしょ!」

それでも葵は明らかに震えていて、怖がっていた。

もしかして、葵は暗いところが苦手じゃ無いのだろうか。


「暗いところ、怖いのか?」

「怖くないわよ、あたしは!」

「叫ぶな、落ち着け!」

「落ち着いて……いやっ!」

葵は再び、俺にしがみついていた。

震えているギャルの葵、怯えている姿がどことなく聖也に似ていた。

葵は思わず、手に持っていた携帯を落としてしまう。


「葵、しっかりしろ!」

振り返った俺は、葵の事を落ち着かせた。

騒いでは、奥にいる何かに気づかれる恐れがあるのだ。


次の瞬間、ガタンと音が聞こえた。

「いやあっ!」

「落ち着け、葵!俺がいるだろ!」

いつの間にか、両肩に手を当てて呼吸を乱す葵を宥めた。


「だって……こわい……暗いし」

「アレは多分、何かが落ちた音だろう。

暗くて静かだから音がよく聞こえるだけだ、心配するな」

「……うん。学原」

「なんだ?」

「あたしを一人にして、絶対に逃げないでね」

「当たり前だ、そんなことをするつもりはない」

葵に声をかけながら、俺は屈んで彼女の落とした携帯電話を拾って手渡していた。

小さく震える葵は、こうやってみるとかわいい。

クラスでは強気で、男を何人もフッている遊び人の女とはとても思えない。


「本当にいい奴だね、学原」

「まあ、な」いい奴と女子から言われて、俺は少し照れていた。

「聖也の言うとおりだ」

「なんか言ったか?」

「ううん、別に。あっ……」

後ろを振り返った葵は、奥の方に何かの塊を見つけた。

携帯電話を持った葵は、塊の方に画面を向けていた。

しかし、ライト機能の無い昔の携帯(ガラケー)だ。

はっきりとこちらから、見ることはできない。


「あそこに……何かあるよ」

「じゃあ、行ってみよう」

「うん」

俺を先頭にし、葵が俺のブレザーの裾を引っ張ったまま塊の方に近づいた。

その塊が、ぼんやりと光る画面が迫ることでやがてはっきりしてきた。


「猫……だ」

それは、霊園の地面にうつ伏せに倒れている猫だった。



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