011
放課後、俺の姿は学校の裏にある寺に向かっていた。
鳴本高校の裏には、大きな山がある。
山といっても標高三百メートルの低い山で、雑木林。
その山を少し上がった先に、寺があった。
由緒正しい寺だけど、かなり寂れていた。
人は住んでいるが、自然が豊かというか田舎の寺。
木造の本堂は、かなり趣があって……暗いときに来ると怖い程だ。
奥には、霊園に続く道も見えていた。
聖也の情報だと、寺で散歩をしてそこでいなくなったという。
10月になって、夕日が沈むのは早くなった。
影が濃くなった寺の境内を、俺は探していた。
「この辺りで、いなくなったのか?」
「ガトはよく、迷子になるとここに訪れるから」
「なんかあるのか?」
「ここでガトとは、出会ったから」
聖也は、寺の本堂の軒下を覗き込んでいた。
後ろから、俺は聖也のことを見ていた。
「ここに、捨てられたんだ」
「捨て猫か?」
「一緒に拾ったから、小五の時」
初めて知った、聖也と葵の関係。
この記憶は、俺のどこにも存在しない。
全く新しい、聖也と葵の……隠された記憶。
覗き込んだ軒下には、勿論猫の姿は無かった。
「聖也は葵と、もしかして仲がいい?」
「冗談を言わないで、一切仲良くないから。
ただ単に家が近所で、両親が親しいだけだよ」
聖也は、やはり否定した。
否定したけど、聖也と葵の関係性は強いのが分かった。
幼い頃から家族で付き合いもあれば、自然と相手のことを理解するだろう。
「もしかして、喧嘩をしているとか?」
「ば、馬鹿言わないでよ。そんなこと……ない」
否定が、弱いしたどたどしい。これは、俺もはっきりと分かった。
近くの草むらを探しながら、後ろにいる聖也に話をしていた。
「喧嘩するほど、仲がいいからな」
「ちょっと……ね」申し訳なさそうに、モジモジする聖也。
「多分、俺が会う前からじゃ無いか?」
「どうしてわかるの?」
「そりゃあ、なんとなく……」
聖也と俺が出会ったのは、高二だ。
つまり出会って、十ヶ月ほどしか経っていない。
でも現在からタイムリープした俺は、聖也と長い付き合いがあるのだ。
高校卒業してからも、地元に戻ったらよく遊ぶ唯一の親友だからそれなりに、聖也を理解していた。
嘘をつくときの癖も、誤魔化す癖も現在の経験から、熟知していた。
「そうだね、涼真は聞きたいの?」
「聞きたいよ、友達だろ」
それは俺の本意だけでは無い、葵のことを知る機会だ。
というか、葵の情報に関して名前以外何も知らない。
「葵と僕は、小三から小五まで付き合ったことがある。
付き合ったのは、漫画の影響。
葵が当時ハマっていた少女漫画で、葵から付き合おうって言ってきた。
ボクも、その当時同じ漫画を見ていたので興味本位で葵と付き合った」
「うわ、マジか!」
聖也が、隠れリア充か。
俺なんか、三十四年間一度もそんなイベント無かったぞ。
聖也に対して、俺の見る目が一気に変わったぞ。
「で、どこまでいった?」
「いろいろデートしたよ。無論、葵が引っ張っていったけど」
「うん」
「で、別れた」
「どうして?」
「向こうから、別れを切り出してきたから。
遊びみたいなモノだったからね、漫画のような恋愛がしたい。
葵って、見た目通りのミーハーだから」
「そうだよな、そんな感じはする」
見た目もギャルっぽいし、明るいけど、見た目通り飽きやすそうだ。
「他の男に乗り換えたのか?」
「葵は変なことを言っていたな。僕が葵を捨てたとか」
「そんなことあったのか?」
「いや、ない。無いけど……」
「ん?」何か、思い当たる節がある聖也。
言葉に詰まった聖也に、俺は言葉を待っていた。
それから数秒後、聖也は口を開いていた。