6 プロローグ『さおきの独白』
有希がこっちに召喚されてから数日が経った。有希は俺たちに対して前と同じ振る舞いをしているが、果たして本当にそうなのだろうか。
何度も何度も繰り返し考えた。有希は本当に大丈夫なのか。
正直、耐えられるはずがない。自分は自ら望んでこの世界に来たからまだしも、有希は強制的に召喚された身だ。
できることなら、早く有希を元の世界に戻したい。だが、そんな方法はあるのだろうか。少なくとも、前にネメシスに聞いたが、効果的な情報は得られなかった。
有希のことに関する悩みもあるのだが、自分自身を振り返ってみる。
あの日、俺はヤムリエの冒険者ギルドで職業を旅人、に変えた。だが、俺ははたして旅人らしく旅をしているだろうか。
自分でもよくわからなくなってくる。確かに移動はしている。ただ、それはあの妙な階段のせいであり、自分たちでほうきに乗って移動したわけではない。
しかも、ここ数日はリアとネメシスの研究があるため、この精霊の森に滞在することになる。別に研究することも良いし、むしろ長い年月を経てようやく再会できた姉妹なのだ。それくらいはいいだろうと思うし、ウィクも物作りをするらしい。
俺は見事にリアたちの実験代になることになったのだが、それと同時に、完成した魔法を習得できるらしいし、まあいいだろう。
ただ、どうしてもやり切れていないことがある。今は頼もしい仲間もいて、こんなにとんでもなく危険だけど、楽しい日々を送れている。
それでも、だ。俺にはまだやり切れていないことがある。それは、勇者なんていう縛られた人生を捨てて、自由になることだ。
たしかに、今は自由奔放に過ごしていると思う。だけど、縛られていた昔の日々となにも変わっていない気がする。
有名な役者の子供だからって、演技の稽古や勉強をさせられて、練習するだけの日々。強制的にやらされて、次第にやる気を失くしていったあの地獄とも思える日々。
そんなとき、ファンタジー物の物語で勇者を演じるときがあった。もちろんすんなり引き受けたのだが、その俺の台本を見て、晴翔が言ったのだ。
「兄ちゃん、この勇者はさ、つらそうだね」
「?」
当時の俺にはまったく理解ができなかった。台本なんて、ただ完璧に覚えて、演じるだけ。内容など、あまりにおかしいものでない限りは気にしたことすらなかった。
「だって、ずっと国の人々のために敵と戦うんでしょ?それってさ、結局勝ったとしても、その国に住む人々の自由が戻ってくるわけでさ、勇者の自由は戻らないじゃん。そしたらさ、ふと思ったんだ。この勇者は、なんで勇者なんてやってるんだろうって」
「国の人々に喜んで欲しかったからじゃないのか」
「でもさ、喜んで欲しいからっていう理由で自分を犠牲にするの?僕はそれは違うと思うな」
「いや、あくまでも物語の話だし。現実の話じゃないし…」
「ぜんぜん物語じゃない!」
晴翔がそのとき、家中に響くほどの大きな声で俺に言ったのを、今でも鮮明に残っている。俺は、急に叫ばれたため、露骨に引いてしまっていた。
「いい!?今のお兄ちゃんは完全にロボットみたいになってるの!なにも考えずに、台本覚えて、演技する!ただそのためのロボットみたいで、なんの自由もなくて、がんじがらめに縛られてる!そう思ったことはない?」
「縛られてる…か」
縛られてる、は言い過ぎだと思った。でも、あながち間違っていないのかもしれない。そもそも、状況が違うし、この勇者と自分を照らし合わせるには無理がある。
その後、俺はこの勇者の役を晴翔の口がふさがらないため渋々、この役を降りた。そのころは、なにも感じなかった。
でも、今は違う。
本当に勇者として第二の人生を送れるようになった。そこから、感じるもの。あのとき、晴翔が言っていることは間違ってはいなかった。あのときの晴翔には感謝をしてもし切れないくらいだ。
もし、俺がこのまま勇者としてこのまま進んで行ったら、どうなっていただろう。晴翔の言う、この世界の顔も知らない人々のために自分の人生を捧げたかもしれない。
それは、俺が望む異世界転生でも、第二の人生でもない。
元の世界で、俺は親に演技という大義名分で縛られてずっとなにも思わず、感じず、機械かのように演技の練習をしてきた。
だから、ここでは自由に自分のしたいこと、やってみたいことをしたい。
そのために、俺は勇者なんてやめて旅をすることにしたんだ。
そして俺は今晩、ここで昔の俺を一番知っている有希を夜遅くに再びあの森の中へ呼び出した。
「先輩、どうしたんですか?こんな夜遅くに」
「いや、ちょっと聞いて欲しいっていうか、相談に乗ってほしいっていうか…」
俺は打ち明けた。勇者をやめた理由、そしてーーー
新章スタートです。
ーーーーここから、運命が大きく動き出す




