『精霊の森』
「精霊の、森?」
「妖精じゃなくて?」
奥に進むにつれて、だんだん霧が濃くなっていき、やがてアルドラの声が聞こえなくなって、姿も見えなくなった。
「この霧、魔力が含まれてる…しかも、私を引き離すようにして移動してる」
霧が晴れ、視界が良くなった頃には、さおきたちは一面が緑色に広がる草原にいた。
「一旦止めてください!」
馬車の運転手に止めてもらい、その場でほうきに乗って上空に上がるウィク。辺りを見ても一面が草原だった。
「ウィク、降りてきて。今からこの空間消すから」
「空間を消すの?つまりここは作り物の場所?」
馬車から降りて、ウィクの真下に立つアミリエ。ウィクもアミリエの指示に従って、降りた後馬車の中に戻った。
「破壊」
白い魔力の塊が放たれ、再び世界が真っ白になる。ウィクが馬車の窓を閉めた後、結界らしきものが割れて散る音だけは全員はっきりと聞こえた。
「ほんとだ…」
馬車の窓を開けると、さっきの緑に染まった草原はどこに行ったのかと言わんばかりに森林の中にいた。
「僕の結界を見破るなんて、大したもんだね。この結界を張り替えるのも数百年ぶりだし、いっか」
目の前に現れたのはーー
「うさぎ?」
うさぎだった。
「長老はいる?私のこと知ってるはずだから」
「ふーん、何年?」
「それはおまかせする。とりあえず、会わせて。それと、これ以上やりあうつもりなら、この森全部飛ぶよ?」
少し脅し気味に、アミリエが一言一言を重々しく言う。そのうさぎも観念したのか、アミリエだけを長老とやらの居場所につれていった。
「すぐに戻るからちょっと待ってて。あと、いろいろ手続きとかしてくるから」
「わかったわ」
ウィクにそう伝えると、うさぎが作り出した空間に入って行った。
「あなたが今の守護者?の割には随分と若い気がするけど…」
その空間を歩きながら、うさぎに話かける。
「それはそうと君、一体何者?精霊の年齢がわかる人間なんて、いないはずなんだけど…」
「まあ、そのうちわかる。ただ、驚かないこと。いい?」
やがて、出口が見え、外に出ると、座っている白く長いひげを伸ばした、年老いた精霊がいた。
「久しぶりね、ウェリンド。何年ぶり?」
「ちょっ!長老にそんな口聞くとどうなるか…」
うさぎの精霊が今すぐに謝れと言っているが、謝るつもりなど微塵もないアミリエ。それどころか、非常に堂々としていた。
「この声は、やはり…!」
急に立ち上がる長老に、驚いたうさぎの精霊が、目を大きくしていた。
「やはり…もう会えないかと思っておりましたが、私の運は尽きていなかったようですな。アミリエ姫よ」
「だから、姫っていう呼び方やめてって昔から言ってるでしょ。なんか恥ずかしいの…」
「そうはいきません。あなた様は偉大なる悪魔族の姫であらせられるのですから、もし、我々がそのようにお呼びした場合、悪魔王がなにを言うか…」
「あの父はもうこの世にはいない。だからいいでしょ?」
「逆に私があの世で王に祟られるではありませんか」
「ふふ。それもそうね」
軽く笑って、楽しそうに長老と話すアミリエ。それはまるで本題を忘れているようだった。それを見ていたうさぎが、
「あの…本題忘れてません?」
言われると、アミリエが両手を合わせて、
「そうだった!今、結構な数の人間がこの森に入ってきてると思うんだけど、今晩だけ泊めてくれない?なにも用意しなくていい。全部あっちにやらせるから」
「いいですけど、決して今の環境を壊さないことと、この魔力濃度を変えないことを約束してください」
「わかった。よく注意させておく。でも、よくここまで魔力濃度を高められたわね。昔は、この10分の1くらいじゃなかった?」
ウェリンドが再びイスに座って、大きく息を吐いた。
「そうですな。険しい道のりでした。おかげて、今は精霊が非常に暮らしやすくなって、古参である我らの肩の荷もやっと降りたわけです」
「そうそう、人間には精霊って言う名称で通してるの?あなたたち妖精でしょ?」
「それは、人間たちが精霊と親しかったからでございます。なので我ら、姿を顕現できる者は上位精霊として人間に伝えております」
「でも、妖精族ってことで人間に話せばよくない?」
「そうはいかないのです。人間の、学者?とやらになにを言われるか…」
わかったように頷き、その場を後にするアミリエ。
「じゃあ、またここを出るときに顔を出しにくるから」
「私も、こうして姫が元気にしておられる姿が見れてよかったの一言でございます。お気をつけて」
アミリエが手を振ると、再びさっき通った空間を通ってウィクたちがいる場所へと戻った。
「あの…」
さっきから、うさぎの精霊がずっとなにか言いたそうだったのをずっと堪えているのが見えていたため、アミリエはなにも言わない。
「なんで生きてるんですか?」
「はい?」
想像もしていなかった質問に、少し戸惑うアミリエ。それでも、笑って答えた。
「私はね、封印されてたの。だから生きてる。それと、今でも魔界に行けばたくさん悪魔がいると思う」
「魔界なんてあるんですか?そりゃあ知らなかったです」
「あと、私に対しては普段通りでいい。本当に畏まってもらったらこっちが困るから」
「でも…」
長老がいる。さっきの言葉遣いのことから推測するに、ウェリンドは些細なところまできちんと精霊を管理しているのだろう。その証拠に、
「いいのよ。ウェリンドが見てるから。しかも音まで聞こえるなんて、大したものね」
「え!?」
辺りを見回すうさぎの精霊。監視されていることに気づいていなかったのか、隅々まで探し始めた。
「こっちきて」
右手を差し出すと、うさぎの精霊がそこに立つ。すると、アミリエがその精霊を優しく撫でるようにしてはらうと、小さなチップみたいな物が落ちてくる。
「これ。技術が本当に進歩したよね…」
「嘘でしょ…」
そのチップを持ち上げるうさぎの精霊。いろいろ物色してから、捨ててしまった。
「おーい!早くーー!」
いつのまにか、出口がすぐそばまで見えていた。ウィクが馬車から降りて、アミリエのことを呼んでいた。
こんな夜遅くに申し訳ないです…




