5プロローグ『不思議な階段』
いつものようにほうきに乗って、空を飛びながら移動していたある日のこと。
空から下の方を見下ろしていた有希が変な場所を発見したらしく、俺たちは一旦そこに降りることになった。
「絶対に降りてはいけない場所だろ…」
「ですよね…」
森の中になぜかある階段。見た感じ、下に降りる感じになっており、非常に錆びされている。長い間使われなかったことがすぐにわかる階段だ。
「どうする?行く?」
珍しく、リアが俺の肩にぶら下げていた腕を下ろし、自分で歩き始めた。
「試しに行ってみようよ!最悪の場合、瞬間移動で帰ってくればいいし」
リアとウィクが行く気になっている。正直、危ない気がするが、魔法もある。
「行ってみるか。でも、危なくなったらすぐに戻るぞ」
「わかった」「りょーかい!」
俺たちが階段を降り始めたとき、大きな衝撃波が俺たち3人を吹き飛ばした。
その間、有希はというと、近くに立てられていた立札を見ていた。
「これ、二人一組で降りなきゃいけないみたいです。それで、今の衝撃波が起きたのだと思います」
「それ早く言ってくれ…」
おかげで服が汚れたじゃないか。
汚れをはたきつつ俺とリア、ウィクと有希に分かれて降りることになった。同時に降りるときは10段離れていればいいというルールまで決められている。
「これ、誰がなんのために作ったんだろうな…」
「さあ…」
俺とリアが先に降りる。一段一段慎重に降りていくがなにも起きない。むしろそれの方がありがたいのだが、後から降りてくる有希たちが心配だ。
何段降りたかすらわからないとき、突然問題が現れた。それは、
【1+1=?】
「は?」
あまりにも簡単な問題で唖然としてしまった。俺は後ろを向いて思いっきり叫ぶ。
「おぉぉーーーい!有希ー今俺がいるところからすっげぇ簡単な算数の問題出てくるから解けよー!」
俺の声が階段の壁に響いて大きく木霊する。聞こえなくても問題はないだろうが、一応伝えておいても問題ないだろう。
「さて。答えは2」
余裕そうに俺が次の段に足を運ぼうとしたときに、再び衝撃波が俺に襲いかかる。
「おいおいまじかよ…」
2以外にありえない。だとしたらこの階段を作った人は大バカということになる。
2じゃないとなると、こちらも頭を捻らないといけなくなるわけだが、その答えはもう一人の口から安易に飛び出した。
「田んぼの”田”」
【正解!!】
「はい?」
「さおき。よく見て。あの問題のところ」
そう言って、リアが問題の表示されている場所の左端の場所を指差した。
「ん?」
目を凝らす。すると、文字が反対になっているが、確かに”田”と書かれていた。
「この階段作ったやつに蹴り入れたいのは俺だけか?」
「ううん。私も、なんで”2”じゃないのかなって思ってる」
そんなこんなで、ここから先も答えがなぜか本当の答えじゃない計算問題が大量に出題され、それを全てリアが解ききった。
「はぁ〜。疲れた。俺たち、だいたい何段降りたんだ?100段くらいはある?」
「ジャスト100段。ウィクと有希さんも今91段目のところにいる」
「とりあえず、出るか」
「うん!」
この階段はずっと下りだったため、どこかの地下室にでも着くのだろうと予想していた2人を裏切り、さおきたちはなぜか地上に出た。
「うそ…」
「まじかよ…」
唖然として、目を見開くさおきとアミリエ。ウィクと有希も出た瞬間に同じ反応をするのではなかろうか。
「おまえたち!何者だ!なぜここにいる!」
後ろから槍を持った男が俺たちに槍を向けている。出たばかりで気を抜いていたせいで接近されていた。
ひとまず、両手をあげる。
「後ろに仲間いるからもうちょっと待ってくれ。」
「後ろ?何を言っている!ここはなにもない荒れた陸地だ!」
「「!?」」
「あなた、この階段が見えないの?」
「階段?そんなものはどこにもないぞ」
俺とリアは驚きに顔を見合わせる。その後、すぐに有希とウィクも出てきた。
「はぁ〜。疲れたぁ〜。ってさおきくんとリエちゃんどういう状況!?」
「そいつらが仲間か」
「ああ」
俺がウィクと有希に目で手をあげろとサインを送ると、2人とも両手をあげた。
「よし!ついてきてもらう!文句は言わせん!」
「ああ」
軽く応答すると、俺たちはその男についていった。本当はこんなやつ、さっさと気絶でもさせて旅の続きをしたいのだが、ここがどこかすらよくわからない。
現在地を特定するにはある程度の時間が必要だ。だったら、まだ近くの住人にでも聞いた方が早いと判断した次第である。
男につれて行かれた場所は、テントがあるところだった。そこで数名の騎士らしき武装とした人と、その中央に女騎士だろうか。が座っていた。
「すいません。この者たちはこの辺りをうろついていた者です。どういたしますか?」
さっきの威勢のいい声とは裏腹に、すごく声の高さが低かった。
「なあ、ここってどこなんだ?俺たち、さっきも言ったと思うけどあの階段から来たんだ。せめてここがどこかくらいは教えてくれよ」
「おまえ!アルドラ様にどういう口の聞き方だ!」
「よいよい。こやつら、ただ者ではないようじゃしの」
そろって顔を見合わせる俺たち。まだ俺たちの方を見てすらいないのに、俺たちがただ者じゃないと判断できる騎士だ。
(こいつも、ただ者じゃないな…)
内心、そう呟くさおき。面倒なことは避けたいため、一刻も早くこの場から抜け出したい。だが、こんなやつがいるとできるはずのことができなくなってくるかもしれない。
「私はエルドラド王国騎士団の副団長が一人、アルドラじゃ。ところでお主ら、魔力量が半端じゃないのぉ。その溢れんばかりの魔力がこっちにまで漂ってくるわい…」
そう言って、アルドラが俺たちの方を向いた。座っているイスのせいで体型までは確認できないが、顔だけで見れば普通に美人である。
「俺はさおきだ。ところで、ここは一体どこなのか教えてくれ。俺たちが階段を下ってここまできたのは事実なんだ」
「そうじゃのぉ…」
そうアルドラが呟きながら地図を俺たちに見せてきた。
「解け。こやつらに戦意は微塵もない」
俺たちに向かれていた槍が降ろされる。
「はっ。承知しました」
地図を見る。ひとまず、エルドラド王国内にいることは間違いないので、どこでもほぼ問題はないのだが、アルドラの口から出た言葉はそんなさおきたちの想像を絶するものだった。
「ここじゃよ。エルドラド王国の最北端じゃ」
「「「「………」」」」
「お主たち、ここに来る前はどこにいたんじゃ?」
真顔で、なんの感情のこもっていない声でさおきが答える。
「この、ヤムリエってところだ…」
周りの騎士どころか、アルドラまでもが、「本当なのか!?」と問い返してくる。俺はそれに頷いた。
「それだと、本当に不思議じゃのぉ。ヤムリエはエルドラドの最南端じゃ。それが、一気に最北端まで来るとはのぉ…」
テーブルに5つのティーカップが置かれ、俺たちの分の紅茶とイスが用意された。アルドラが気を利かせてくれたのだろう。
「それじゃ、お主らの力を見込んで、一つ頼み事でもやってもらおうかの」
「頼み事?」
「そうじゃ。うまくいけば、私のエルドラド王国騎士団副団長の名にかけて、お主らを無事にエルドラドの中心の都市まで送ることを約束しようぞ」
「あ、移動手段には困ってないんで」
「なに!?そうじゃな…」
「まず、内容を教えてくれ。内容次第では引き受けないかもだからな」
頭を抱えていたアルドラがテーブルに置いてあったティーカップを右手に取り、それを少し飲んでから、改めるように咳払いをして、話し始めた。
「内容はシンプル。お主らに魔物討伐を頼みたい」
同時にウィク、有希、アミリエの視線がさおきに集まる。さおきは、判断は自分に任せると解釈した。
「そうだな、別に」
俺の言葉を遮るようにアルドラが再び続ける。
「その数、数万は下らんじゃろう…」
「……は?」
その数にさおきが唖然とする。どうせ2、3匹の魔物だと思っていたさおきにとって無理もない。
「じゃあ、こうしよう。私たちが魔物を倒すから、このエルドラドって国の中心部に私たちが行ったときに、案内してほしい」
アミリエが言うと、アルドラが再びティーカップを手に取って、残っていた紅茶を飲み干した。
「これで交渉成立じゃな。一応妾がなぜお主らにこんなことを頼むのかは、討伐に出ればわかるじゃろ」
さおきも、ティーカップにたっぷり入っていた紅茶を一気に飲み干したのだった。




