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勇者なんてやめて旅をすることにした  作者: じゅじゅ
3 召喚災害編
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3エピローグ『選択』

翌日、ちょうどさおきたちの部屋にはベットが4つもあるため(冒険者パーティーへの配慮だと思われる)、それぞれがそれぞれのベットで寝ている…というわけでもなかった。


「……ん…」


昨日、早く寝たせいか、さおきは少し早く目が覚めた。ふとんの中にある左手に何やらやわらかい感触があり、ゆっくりとふとんをめくる。すると、中にはやはり…


「……」


「相変わらずだな。」


リアだ。これで3回連続。


「まさか、これが毎日続くのでは…」


皆を起こさないよう、小さな声で呟く。小さくてかわいらしい両手がさおきの左手を握っていた。

そんな中ふと、気になったことがある。リアは俺の向いている方向と反対の方向に寝ている。リアはどうやって息をしているのだろうか?


「ま、いっか」


と、疑問を打ち消す。さおきがリアをよしよしと撫でて、起き上がる。ベランダにイスに座っている有希がいた。入念にリアにふとんをかぶせて、さおきはパジャマのまま、ベランダへ向かった。


「どうしたんだ?こんな朝早く」


「せ、先輩だって…」


その目は赤くなっていて、顔には、今も涙が流れたであろう場所がまだ少ししか出ていない陽の光に照らされていた。


さおきは有希のそばまで歩み寄り、そのまま冷たいベランダの床に座った。そして、語り始める。


「まあ、俺は必ずこうしろとか言うつもりはない。かと言って、急にやばいことを言い出したらそれはそれで止めるからな」


「いえ、そこじゃないんです」


「…ふぇ?」


今のさおきには見えないが、ベランダに出たときには見えた。テーブルの上にある少なくとも5枚のティッシュをまとめたティッシュの塊。それと目が赤いことから、さおきは泣いていたという推理に至った。でも、それまで違うのか?


「?」


「いえ、確かに泣いてましたけど…」


「なんで泣いてたんだ?」


「……言えない」


「?」


さおきは聞こえなかったフリをするも、内心きちんと聴こえていた。


(言えない?何か悪いことでもあったのか?)


不安が大きくなっていくさおき。それに対して有希はそれどころではなくなっていた。


(どうしよう…本当はただ友達に会えなくなって悲しかっただけなのになんで私、言えないなんて言ったんだろう?…なんか先輩は大ごとになってるって勘違いしてるし…)


((どうすれば…))


言ってしまえば、有希の言い方とさおきの勘違いからこの状況が生まれたのだ。互いが互いに自業自得。


「大丈夫か?」


さおきが立ち上がった。そして有希の目の前に立った。


「あの…ワガママ、言って…いいですか?」


「お、おう…なんでもこい!」


さおきも有希の悲しみが少しでも解けるならと思い、腹を決めてなんでも受け入れることにした。







「じゃあ……あ、あの……私を、だ、抱きしめて…もらっていいですか?」


有希が結構な間を開けて恥ずかしげに言った。実際、言った有希自身が赤面している。それを聞いてさおきも少し頬が赤くなった。


「……よし!なんでもこいって言ったからな」


さおきも当たって砕けろとやる気になる。でも、本当はすごい恥ずかしい。ゆっくりと有希に近づく。その間、互いが互いに赤面しているのを感じ、少し雰囲気が和む。


そして、さおきは両腕を広げ、有希を抱きしめた。同時に、思ったよりも胸の感触が柔らかく、さおきは内心、もう鼻血どころではなく口から吐血していた。


(おいっ!なんでこんなに胸があたるんだよ!さっきまで気にしてなかったけど、昔と比べてすっげぇ育ってるじゃねぇか!)


と、心の中では愚痴をもらしつつ、実際にはちゃんと有希をやさしく抱きしめていた。

そんなさおきに追い撃ちをかけるように有希が逆にさおきをもっと引き寄せる。それによりさおきは今、やさしく抱きしめているようには見えるも、本当は無意識で倒れそうなくらいだ。それをなんとか意識を保ち、我慢する。


「…あの、このまま、もう一つワガママを聞いてくれませんか?」


このまま?今、この状態で?と疑問に思うさおきだったがどちらにせよ、聞かないという選択肢はないので、有希にわかるように頷いた。


「私も、先輩と一緒に旅がしたいです」


はっきりとした口調で言った。さおきにも、そう聞こえた。別に、望んだわけでもない。ただ、できれば一緒に行きたいという意味だった。それをさおきはなんの迷いもなく、


「ああ。歓迎するぜ」


と、未だに有希を抱きしめたまま言った。やがて、離れた。そして、有希が得意気に、


「確かに、先輩ってあったかいですね。リエさんがよく先輩のベットにこっそり入って添い寝する理由もちょっとわかったような気がします」


「!?」


驚きに危うく大声で「なんでだぁーー!」と叫ぶところだった。にしても、どこで知ったのだろうか。少なくとも、さおきからこんな恥ずかしいことを言った覚えはない。


「見てた?」


さおきが問うと、有希は少し申し訳なさげに言った。


「その…一部始終…全部。それと起きてから先輩がリエさんをよしよししているところも」


これ以上は羞恥心が耐えられなくなったのか、さおきは話題を逸らした。


「なあ、そ、そういえばなんで泣いてたんだ?」


有希は「このヘタレ」と、そこでなにやらブツブツと呟いているが、さおきに聞こえないように呟きつつ、答えた。


「友達に会えなくなった悲しみで…」


急にさおきがまた真顔になる。そして、もう一度きいた。


「有希、本当にこの選択でいいんだな?」


「?」


「だから、俺たちと一緒に行くっていう選択だよ」


そういうと、有希は迷わず即答した。


「確かに、急に今まで一緒に過ごしたみんなや、お父さん、お母さんと別れるのは悲しいけど、でも、こういう展開も意外とあつい展開だから!」


急に有希の目が輝きを持ち始めた。それに続けて語り始めた。


「でも、どうせなら異世界召喚よりかは先輩みたいな異世界転生がよかったかなぁ〜。でも、なんか特殊能力欲しかったなぁ〜」


「?」


ここで、さおきは気づいてしまった。あくまで推測だが、まさか…有希、オタク?


今さらだが、さおき自身も転生ボーナスや異世界転生にワクワクしていた。

しかも、現世では小5のときからライトノベルの存在を知り、そこから派生して季節ごとにあるアニメのラインナップは欠かさず見てるし、目星をつけたものや、自分が原作から読んでいるものは毎週見ている。言ってしまえばさおきも一種のオタクなのだ。

だが、さおきは原作のラノベ以外のグッズなどを一度も買ったことがないため、そこが普通のオタクとは違う。でも、立派なオタクと言えよう。


「なあ、有希って……オタク、なのか?」


「はい!グッズとかあまり集めていませんが、アニメなら結構な数の作品を見てきました!先輩よりアニメ見てる自身ありますよ?」


(このやろう…張り合う気か?)


と、さおきもなぜか燃えていた。


「おーし、じゃあ今まで見てきたアニメをお互い挙げていこうじゃないか!」


なぜかどちらが多くアニメを見てきたかという勝負に発展してしまった。


2人がアニメを言いあっているうちに陽は昇り、やがてベランダ、および部屋にも陽光がさす。


「……んん…」


陽光に当たって、目が覚めたウィクはすぐにベランダにいる2人の姿が見えた。それと、なぜか魔力で作られた壁があった。


「ふぁ〜。なにやってるんだか」


と、独り言を呟き、様子を見に行った。


「ハァハァ……やるな、有希。まさかおまえがこんなにアニメを見てきたとは…」


「せ…先輩だって…たくさん見てきてるじゃないですか…先輩もオタクだったなんてビックリですよ…」


と、ウィクからしたら意味のわからないことを言っていた。だが、口論でもなく、ケンカしているわけでもなさそうだったので、ウィクは2人をそのままにした。


「どうやら…ここまでのようだな…」


さおきの方が少なかった。射してきた陽光に目を瞑ってしまった。


「先輩?」


「まあ、とりあえず、これからよろしくな!有希」


「はい!さおきくん!」


「!?」


さおきはまた内心、再び吐血したのだった。


有希はあえて本当の理由を言わなかった。言う時がくる、そのときまで。


これで召喚災害編終了です!

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