『一度整理してみましょう』『4人目』
今回はまた2本立てです。
やっぱり信じられない。にわかに信じがたい。俺はまだ、現実を受け止めきれずにいた。
「先輩、なの?」
もう一度問われる。だが、答える側のさおきは頭が真っ白になっていた。正確には、どうして現世にいるはずの後輩が異世界にいるのかと、脳内にはそれしかなった。
「……さおき、さおきー!」
なかなか反応しないからリアがついに少しだけ武力を使った。武力と言っても、今までは頬がツンツンを突いてもダメだったから今度は両手で引っ張って伸ばしているだけだけど。
「……あ、ああ。リア、どうした?」
なんとか意識が戻る。
「ほら」
俺が抱えている有希の方を指差す。早く質問に答えてあげたら?と目が言っていた。目は口ほどに物を言うとはこのことかと理解した。
「……あの、その、君の先輩の名前は?」
一応だ。念のために確認しておく。もし違う人だったらそれはそれで保護してあとで冒険ギルドを通じてなんとかしてもらおうと思う。もし、本当にあいつだったらそれはそれでまた面倒なことにはなるが…
「…さ、さおきって、人です!」
「…」
「おーい!大丈夫ー?」
ウィクも来た。これで全員集まったわけだが…
面倒なことになってしまった。
「あれ?さおきくん、この子、誰?」
「!」
(終わったーーーーーー!)
心の中で叫ぶ。どうするか。これでもう誤魔化すことは無理そうだ。つまり、今俺の手の内にいるこの中学生は、有希で確定と見てよさそうだ。
「やっぱり!先輩なんでしょ!」
逃げ道は完全になくなった。素直に白状するしかない。そう踏み込んだ。
「ああ。俺だ。久しぶりだな。有希。」
有希は満面に笑みを浮かべるも、ここに今なにが起きているのかよくわからないのが2人。
「話は後でする。日が落ちる前に帰ろう。」
いつの間にか青かった空が完全に赤く色づいていた。俺たちはとりあえず冒険者ギルドの部屋に戻った。リアには申し訳ないが2人も乗せて飛ぶとバランスが崩れやすいから自分で飛んでもらった。
その間、俺は2人から具体的な時間はわからないがチラチラと見られた。
(これ、後で説明の仕方を間違えると死ぬやつだ…)
と、ずっとどうやって説明すればいいか、頭の中で考えていたのだった。
勝負の時はやってくる。洞窟の辺りから冒険者ギルドまで戻るのにかかった時間は一段と短く感じた。
そして、俺たちの部屋に着き、なぜか俺は敷いてあったカーペットに正座させられ、ウィクとリアがベットに腰を掛け、足を組んでいた。それに対し、リアは普通にベットに寝転んで足を上下にバタバタさせていた。
「で、なんでこんなことになったの?俺、そんなに悪いことしてないよね?」
それと、俺が今正座させられている主原因である有希はなぜかジト目で俺を見ていた。しかも軽蔑するような感じで。
「いやー、私もなんでこうなったかわからないけど、気分?」
「説教じゃないんだから、普通に話そうぜ。ウィクたちが特別怒るような話でもないし」
「じゃあいいや。立っていいよ。」
「お嬢様気取りなのは変わらないのな」
と、愚痴を吐きつつ、なんとか立ち上がる。それと、知らないうちに不意打ちされてできた背中の傷が完治していた。俺は、後ろにあった2つ目のベットに腰をかけ、有希の隣に座った。
「で、話の内容は?だいたい想像つくけど」
リアもウィクの隣に座った。ちなみに向かい合っている。ここから、俺のある意味、本当の勝負が始まるのだ。
「まあ、その想像で多分間違ってない。今、俺の隣にいるこいつは渡瀬有希。超簡潔に言ってしまうと、俺より一つ年下の後輩だ。」
有希も同時にウィクたちにペコリと頭を下げた。
「つまり、同じ学校だったってこと?」
「まあそういうことだな」
「じゃあなんで…」
ウィクの言葉を遮るようにさおきが続けて話す。
「俺だって今疑問が尽きないほどにある。それは有希も同じだと思う。だからもう一度整理をしておきたいと思ってな。」
そう言ってさおきはポケットに手を突っ込み、飴を一つ取り出した。それをアミリエに差し出す。
「はい、これ。おいしそうだったから。あげる」
「…ありがとう」
リアはそれをなんの疑いもせずに口に含む。そのあと、眠くなったのか、寝てしまった。さおきはその飴をさらに取り出して、近くにあった机においた。
「なんですか?その飴」
今度は有希が聞いてきた。俺は表情を崩さずに答える。
「これか?俺、たまに眠れないときがあるからこれで寝れるようにって。」
「なんでそんなもん持ってるのよ…」
「? 買ったから。」
平然と答える。2人からはさおきが表情を崩さず、よくもまあそんなものを持って平然と言えるものだなと思っているところだが実際、さおきはそれどころじゃなかった。
(やばいやばいやばい!ちょっと怒りを買ってしまったか?いや、リアを眠らせた理由もちゃんとある。ちゃんと話せば問題ないはず!)
と、ずっと2人も表情から機嫌を読み取り、なんとか不機嫌にさせまいとしていた。
「それで、リアを眠らせた理由だがウィク、おまえリアに自分は女神だって話してないだろ。」
「「!?」」
ウィクは図星をつかれたようで、「え、うそ?わかるものなの?」と、小さな声で独り言を言っていた。有希は俺の服をを「ほんとなの?」と言わんばかりにグイグイ引っ張ってくる。
(頼むからちょっとはおとなしくしてくれ…)
「コホン。それはそれとして、なんでリエちゃんを眠らせたの?」
ウィクがまったく咳払いできていない咳払いをして話題を戻す。
「それだよ。リアは魔神だからな。もし、ここでおまえが女神様だって堂々と言ったらどうなると思う?最悪の場合、ここで戦うことになるかもしれないんだぞ?」
ありえない話じゃない。さおきはそれを一番恐れていた。どう考えても天使と悪魔は対立の関係。しかもさおきは本当かどうかはわからないがアミリエの過去をある程度知っている。
そのことも踏まえると、本当ならアミリエかウィクのどちらかはこの話し合いに参加してはいけない。それかウィクがここから退場するかのどちらかの選択をしなくてはならない。だからさおきはこの行動に移ったのだった。
「まあ確かに私も戦うのはいやだから話してないけど…」
「あの…」
さっきからずっと黙り込んでいた有希がさおきとウィクの話に割り込んだ。
「? どうした?有希」
「いや…私、この世界がどこすらわからなくて、もうちょっと説明してほしいなって。」
皆、いろいろと混乱していると思うが有希はその混乱の原点ですらわからない。だからこの2人の話し合いになにもついていけないのだ。
「えっとだな…」
やることが多すぎてどれからすればいいのかわからなくなったさおきが髪を思いっきりわしゃわしゃと掻く。そして開き直ったのか今度は有希に話かけ始めた。
「えっとな、有希。俺も混乱してて変なこと言うかもしれないけど落ち着いて聞いてくれ。」
お互い、緊張でもしているのか、はたまた状況が整理できずに脳がパンクしそうなのか、唾を飲み込む。
「お前はさっき異世界召喚された。」
「はい?」
その返答があまりに想定外なもので、その言葉が返ってきた瞬間、有希は夢でも見ているのではないかと両手で力強く自分の頬を挟んだ。そしてあらゆる方向に伸ばす。
「夢じゃねぇよ」
それを聞いて有希は自分の頬を伸ばすのをやめた。手で掴んでいたところは真っ赤になっていた。
『ふぁぁ〜おはようございます〜』
(!?)
途中でとんでもないやつが割り込んできた。しかもさおきの中にあった厳正な空気を破壊して。
(ちょっ、頼むから割り込むな。お前まで来たら俺の頭が本格的に終わる…)
『しょうがなぁいですね〜今度はどうしたぁんですか?』
寝起き感を尋常じゃないほど出してくる。ったく人がこんなにどうすればいいのか頭を回してるのにいい気味だなぁ!
『ふんふん…そういうことですか』
こいつも独り言。そして意外とデカい!
『まあ頑張ってください。これを上手く説明するのは結構難しいですよ。』
(だからこうして考えてるんだろうが!)
『それでは〜』
また変な茶番に付き合わされた気がする…って、そんなことはおいといて!
『あ、召喚された有希さんを鑑定したので〜』
と言ってあいつはなんか資料を見せてきた。というよりかは俺の脳内に流してきた。なんか強制的に入れられたみたいで少し気持ち悪い。
俺は嫌々その資料をみることにした。内容は簡単。有希のスキルなど。
(えっと…)
【渡瀬有希】
スキル なし 魔力 あなたの2倍以上 その他 めんどくさかったからやりませんでした
おいおい…なんだ、「めんどくさかった」って。今から強制的にでも呼び出したいところだな。
『は〜い。ちゃんと目を覚ましてきましたぁ〜』
(いやお前、絶対目覚めてねぇだろ。)
『まあそんなことは気にしないで。あ、資料ですけど、文句は一切聞きません。』
(こちとら今からおまえに文句言おうとしていたところなんだが?)
さおきが怒っているような雰囲気を作り出しているのにも関わらずあいつは態度を変えずに、
『だって、武力とかそういうの、測定できないほど小さいですもん。この私ですら測定できないんですから、冒険者ギルドでも0になると思いますよ?』
(あぁ〜納得)
と、俺も納得した。有希の力が小さいのは事実。炭酸飲料の開けられない時があるほどだ。
中学生にもなって未だに自分の力でペットボトル開けられない有希以外にいるんかな?と思いながら頑張って開けようとする有希の姿は数回見たことがある。
『それでは〜』
(もう来るなよ)
最後に忠告を残していった。本当に来ないでほしい。
「…さおきくん、さおきくん!」
「あ、ああ。なんだっけ?」
まただ。あいつと長い時間話すと戻ってきたときの意識が戻った感がすごい。まるでさっき死んでたかのようだ。
「私じゃなくて有希さんに!」
そうだ。有希に何が起こっているのか話していたところをあいつが割り込んできたんだった。俺は何事もなかったかのように説明を続ける。
「で、それで文字通りここは異世界だ。」
「う、うそ…」
普通はこうなる。さおきにとってそれは想定範囲内だ。でも、全ては有希が急に訪れた現世の別れに耐えられるかどうか。耐えられなければ冒険者ギルドを通じて帰る方法を探してもらう。
「一応だがな…有希、今から魔法をあげるからそこの窓から外に向かって使ってみろ。」
「う、うん…」
そう言って俺たち3人は窓際に行ってベランダに出た。と言っても強力な魔法を使うわけじゃない。俺はコップを一つ用意する。そのあと、付与で有希に氷の魔法をあげた。
「有希、なにか体に流れてきただろ。」
「はい。なんだろう?この感じ。」
「このコップに入るような氷を作ってみろ。今から。その魔法で。」
「でも、どうやって…」
「簡単だ。このコップに入るくらいの氷をイメージしろ。それで体から湧いてきたその力を使って作る。簡単だろ?」
「了解であります!」
と、有希がいつも通りの敬礼(本人は全く敬ってない)をした。それを見てさおきは胸を撫で下ろした。
(最初はどうなるかと思ってたけど、だんだんいつもの有希に戻りつつある。あと少しだ!)
と、自分を激励した。
「ーーーッ、ーーハァ、ーーーッ、ーーハァ……」
「無理して完璧にする必要はないからな。初めてだから。そんなに緊張するなよ。」
有希は緊張すると深呼吸が止まらなくなる時がある。ただちゃんと魔法を使えるかどうか見るだけだから、できなくても何も言わないのに…
有希が両手を前に出し、俺とウィクの視線が有希の手元に集まる。その結果は…
「こりゃ、まじもんみたいだな…」
コップにジャストフィットとはいかなかったがしっかり氷を作れた。有希に魔力があるのは本当と見ていいだろう。
ちょうど、有希が氷を作り終わってすぐだった。
ギューールルーー
腹から鳴る音。それはまさしく、空腹を示していた。それを鳴らしているのは誰かと言うと、
「先輩、お腹空いたんですか?」
さおきだった。
それを聞いてウィクが時間を確かめる。夕方に帰ってきたせいか、いつのまにか外は真っ暗。時計も6時45分辺りを指していた。
「〜〜んん〜〜」
リアも目が覚める。ウィクは「確かに時間が時間だし…」と、キッチンにいった。それを有希も「なにか手伝いましょうか?」と言って戻る。一瞬でベランダにはさおきだけになってしまった。
そこに起きたばかりのリアがやってきた。イスを探すも、なかったせいかさっきさおきが腰掛けたばかりのイスにさおきの上から座った。
「大丈夫か?起きたばかりで外に来て。寒くない?」
「うん。私は大丈夫。さおきは大丈夫じゃないでしょ。」
「? なんのことだ?俺は別に寒くないぞ?」
「はぐらかそうとしないで。ほら、有希さんの件で…」
「!?」
さおきの体全身がビクッとする。それを感じたリアは容赦なく続ける。
「さおきはさ…有希さんと一緒にいたい?それとも帰ってほしい?」
「!?」
今のさおきに対する質問はさおきの心、否、心の奥深くに刺さるようなものだった。
(ただでさえ答えづらいのに、こんな状況なのにさらに答えづらいじゃねぇかー!あー!どうすればいいんだー!)
大声で心の中で叫ぶ。もしここに誰もいなければ、それこそ口にしているところだ。
あまり返答が遅いとそれこそリアの機嫌を損ねそうで怖い。でも、どう答えればいいのやら…
「どっち?」
悩んでいるさおきにさらに追い討ちをかけるアミリエ。それを聞いた瞬間にさおきの答えは決まった。
「帰ってほしいって言ったら?」
そう。もし、〇〇って言ったら?戦法。これでさきにリアの気持ちを聞き出す作戦だ。それをリアは、
「さおきの意見を尊重する」
「お、おう…」
意外な返答にちょっとビクッとしたが問題はない。
「じゃあ、一緒にいたいって言ったら?」
「それもさおきの意見を尊重する」
思いもよらない返答が帰ってきたさおきはさらに混乱する。
(くそっ!なんでどっちでも俺の意見を尊重するんだ!自分はこうしたいとかないのか?)
再び考える。いや、いっそのこと素直に自分の気持ちを曝け出すべきか。開放的な作戦に切り替える。そして、素直に自分に問いかける。有希にここに残ってほしいか。帰ってほしいか。
答えは、決まった。いや、最初から決まっていたのかもしれない。
「俺は有希にここに残っていてほしい。」
それを聞いたリアは俺から降りて、なぜか俺の耳元のところまで動いた。俺が座ったときの高さとリアの身長がほぼ同じだからリアはなんでもできると言っていいだろう。そんなリアは俺耳元で誰にも聞こえないくらい小さな声囁いた。
「……そういう優しいところも、好きだよ」
「!!」
(? 俺、まだ会って数日しか経ってない子に"好き"って言われた?しかもなんだったんだ?今の間)
ちょっとの間、固まるも、考え直してみれば聞き間違えかと思い、ナイナイと手を横に振って、さおきも部屋の方へ戻ったのだった。
△▼△▼△▼△
『4人目』
夕食を食べ終え、なんとか説明を終えたさおきは、いつも以上に疲れたせいか、さきに寝てしまった。よって、今起きているのは女子3人のみ。
「ねえ、さおきくんって昔はどんな感じだったの?」
有希をどうするかはひとまず保留になった。よって、有希をどうするか決まるまではここで暮らすということになったのだ。
「そうだね〜、先輩は演技とダンスがとにかく上手だったね〜」
「へぇ〜」
「意外」
異世界でさおきと知り合った2人からしたらさおきが演技やダンスがうまいというイメージは全くない。だからさらに意外なのだ。
やがて、ウィクがテーブルの上にそれぞれ、ジュースをコップ一杯分用意し、3人がそれぞれイスに座る。今から何が行われるか。いわば、女子会ってやつだ。
テーブルでやるから有希のイメージとはちょっと違うが、女子だけで話す会でなおかつ2人以上だから有希の女子会の定義は全て当てはまる。(個人の見解です)
だからこれは有希からしたら立派な女子会なのだ。
(私、女子会なんて初めてなんだけどどうすればいいの?とりあえずウィクさんから話題振ってくれたけど、よくわからないし…)
と、内心、どう振る舞えばいいのかわからずにいた。
(私から話題振ってみますか!)
「先輩はこの世界ではどんな感じなんですか?」
「さおきくんは、そうだなぁ〜。」
と、ウィクがどんな感じかを頭でどう言うかまとめている間にリアが先に言った。
「さおきはすごい優しい。あと、結構甘やかしてくれる。」
「甘やかすの?先輩が?」
"甘やかす"という単語が刺さった。さおきは学校で自分や他の人を甘やかしている姿を見たことはない。だから人を甘やかすさおきの姿が見れたらそれはそれで新鮮だし、逆に見てみたい。
「うん。さっきだって、ベランダに行ったときに何も言わずにさおきのあしの上に座ってもなにも言われなかったもん。」
「?」
(? アミリエさん、甘やかすってそういうことじゃないと思うのだけれど、確かに前の先輩だとそう言うことしたらすぐに「どけ」とか言われそうだったし。先輩、世界が変わったせいで性格も変わったのかな?)
「あとさおきくんは結構リーダーシップってやつ?かはよくわからないけど、今の私たち3人の中ではリーダー的存在かな。」
「へぇ〜、リーダーシップかぁ。先輩、変わったんだなぁ。」
と、有希はすぐ近くのベットの上ですやすや寝ているさおきを見ながら言った。
ウィクが時計を見る。いつのまにか10時30分になっていた。
「おっと、そろそろ寝なきゃだね。明日もなにがあるかわからないし。」
「うん。」
ウィクとリアはイスから降りてベットへ向かう。その途中でウィクが立ち止まった。
「そうそう。私たち一応旅人だから。さおきくんがどうであれ、私は4人目の仲間として有希さんを歓迎するよ。リエちゃんもそのつもりらしいからあとはさおきくんがどうするかはだけど、私たちと一緒に来たかったら、来てもいいんじゃない?」
「え?いいんですか?」
「さおきくんがいいって言ったらだけどね。」




