『殺、した?』
アミリエがさおきを抱えてきて、再び行ってしまった。とうのさおきは気を失っている。
「さおきくん…ごめん!」
と言って、ウィクが全力でさおきをセウイの元まで引きずりながら持っていった。もし、さおきに意識があったらすごく痛がるだろう。
セウイは、アミリエの治療のおかげで傷はすっかり治っていた。上空の戦闘を見ている。
「なんなのだ、あの少女は。人間の域を超えている…」
まあ、魔神だからね。悪魔でも人間を超えてるのにその悪魔をもさらに超えた子だから。
でも、あの戦い様。完全にあの騎士たちを嘗めているようにしか思えない。攻撃を避けてばかり。手の内を調べているのかどうかはわからないけど逆に怒りを買っているような…
「くそっ!俺たちがこんな小娘なんかに負けるなど、あってたまるか!」
1人の騎士が全員に向けて叫ぶ。アミリエはそれをものにもしなかった。それどころか、
「まずはあなたからね。」
と言って、士気を上げた騎士の影とついでに乗っていた鳥の影をその右手に握っている剣で切った。
影が2つに分離し、消える。瞬きをする余地もなく、騎士と鳥はバラバラになった。
「ぎゃあぁぁーー!やめろー!やめてくれーー!」
と、弱音を吐き、数名の騎士が逃げていった。もしかしたらできる限り殺さずに全員の戦意を喪失させて逃そうとしているのだろうか。
それでも果敢にアミリエに向かって攻撃や魔法を仕掛けてくる者もいる。それを見てセウイがゆっくりと立ち上がった。
「ほんとうにすまない。さおきをも含め、私はあなたたちを敵だと思っていた。だがそれは私の思い込みだったようだ。治療までしてもらってかたじけない。」
セウイは礼を言ってあの鳥のところへ戻った。
「あの!」
ウィクが声を上げる。セウイはまだなにかあるのかと嫌々振り向いた。
「その鳥はなんて言うんですか?」
セウイは「なにかと思えば…」と落胆の声を漏らし、
「これはグリフォンという種類の鳥です。聞いたことはあると思いますが。どこにでもいますし。」
ウィクは「そうなの?」って感じだった。
セウイがグリフォンに乗り、アミリエと騎士たちが戦っているところに向かって一直線に猛スピードで進む。
目を離した隙にいつのまにかアミリエに背中を向けて騎士たちの目の前にいた。
「この人たちは俺たちの敵じゃない。撤収だ!撤収!」
争うのはやめるように騎士たちに促している。
さっきからずっと忘れてたがセウイは一応まとめ役のような存在だ。だからなんとか全員撤退…というわけにもいかなかった。多くの騎士が反論している。
さすがに大人たる騎士が目の前にいる少女に負けるなんて大恥だ。
そんな情報が上の方に入ればみんなただじゃすまないだろう。その気持ちはセウイの重々理解していた。
「セウイさん、」
と言ってアミリエはトントンとその小さな手でセウイの左肩を右手で叩いた。
「つれて帰れるだけ連れ帰ってください。残った人は私がなんとか持ち堪えるので、もう一度ここに戻ってきてください。できる限り、私も人を殺したくはないので。」
仕方ないとセウイもそれを呑んだ。その後、セウイは強制的に数十人引っ張って帰っていった。
残ったのは役3分の1ってところだろうか。人数的には問題ない。あとはいつセウイが帰ってくるかだ。
「行くぞー!」
と、もう一度戦いは始まった。
騎士たちはずっと、同じ陣形を組んで、なおかつそれを崩さないようにして攻撃している。
連携もとれていて非の打ち所がない。でも、そんな彼らの魔法も斬撃もアミリエの前にとっては、無意味だ。
全て躱されてしまう。
逆に、アミリエはというと、攻撃を躱しつつセウイが戻っていった方向へと向かっている。
こちらもこちらで作戦がうまいと言えよう。
でも、それも長続きはしない。
アミリエの体力が減ってきているからだ。かと言って戦闘状態になり、体力を回復させたとしても本末転倒だ。この人たちを殺してしまいかねない。なにか方法はないものかと頭の中で模索するも、なにも思い浮かばない。
少しづつ、息切れしてきた。それでもセウイは来ない。さっきまで鮮明に見えていたウィクの姿も見えなくなっていた。このままじゃ、この人たちを連れ帰ってもらう前に自分がやられる。それだけは避けたい。でも、セウイは来ない。
結構して、ついに、アミリエの堪忍袋の緒が切れた。セウイが来ない。大声でこのうそつきぃーーー!って叫びたい気持ちをグッと抑え、本気を出す。
こんなに待っても来ない。だったら全員殺してしまう。しかもウィクとネメシスを待たせている。
なにより、もう残り体力も限界に達していたのだ。自分の体力がないせいでもあるかもしれないがそんなのどうでもいい。
再び、戦闘状態へ。体力は一瞬で回復し、右手には魔剣がある。でも、ちょうど雲の下にいるから魔剣は役に立たない。
アミリエは魔剣を亜空間にしまう。それと同時に騎士たちの真下に大きな魔法陣。
「獄炎乱射」
下から攻撃されていることに気づかず、獄炎は直撃。騎士およびそのグリフォンは跡形もなく燃え尽きてしまった。
「さてと、終わったことだし…」
少しだけ罪悪感はある。でも、人のことよりも自分が一番大事だと、そうお姉ちゃんに言われた。だからなにも悪いことはしていない。アミリエは、そう自分に言い聞かせながらウィクたちのところへ戻った。
△▼△▼△▼△
「っていうのがさっきまでの出来事ってわけ!」
と、痛すぎてまだその場に倒れた俺にウィクが話してくれた。というか、ウィクが俺のためにアミリエに付いて行かずにここに残ってくれたせいか、話の内容が大雑把すぎる。今の話をまとめると、
リアが突然もう一度きた騎士とセウイたちの相手をした。ということだけだ。
「なあ、その、リアがセウイたちと戦う前は何があったんだ?」
俺がそれを聞くと、ウィクは急に顔を近づけてきた。
「ちょっ、近いって。」
「ねえ。これが、記憶喪失ってやつ?」
「だから近いって!」
ウィクは「ごめんごめん」と、顔を離した。でも、記憶喪失?俺は誰かの不意打ちを喰らって、空から落ちているときまでの記憶しかないぞ?
「まあ一応話してくれ。」
ウィクはなんで?と首を傾げているが、俺は冗談とかではなく本当に気を失っていたのだ。リアに聞こうとしても戻ってきてからずっと無視されている。俺、なにかひどいことでもしたのだろうか。
「まあいいや。すっごい簡潔にいうね!」
「……」
「さおきくん、人殺したの。」
「はい?」
「……だから!さおきくんは、人を殺したの!」
念押しにもう一度聞いたら、倍の大きさの声で帰ってきた。
でも、俺が、人を殺した?ありえない。セウイと戦ってはいたものの、殺されかけたのは俺であり、俺はセウイに傷一つすらつけなかった筈だ。…たしか。
「さおき、確かに人を殺した。」
リアまでも!俺が人を殺したと言っている。そんな記憶、どこにもない。必死に思い出そうとするも、なにも思い出せない。それどころか、体中が痛みを抑えるために全神経を集中させている。今から思い出すのは無理だ。
「とりあえず、俺が人を殺した話は一旦置いといて。これからどうする?」
召喚の魔法陣は未だ消えていない。いつのまにか雲も消えていて、ウィクとリアはそれも俺がやったと言う。そんなことをした覚えはないのに…
俺は青く、そして少しだけオレンジっぽく染まっていた空を見ながらゆっくりと起き上がった。




