『目覚めた"あいつ"』
俺と騎士の戦いが暗く包まれた空で始まった。俺はとりあえず相手の出方を見るために攻撃と防御を繰り返している。それに対し、騎士は問答無用に俺に攻撃を仕掛けてくる。
初めての人同士の戦い。しかもそれが空中戦。相手はなにかに乗っているのに俺はなにもない。ある意味不利だがある意味有利だ。騎士まで魔法が届かないからいっそのことあの鳥を殺してしまおうとも思ったが鳥の鎧が異常に固い。
「ふん。この程度か。終わらせよう。」
そう言ってあの騎士は鳥から降りた。そのまま空中を走って剣で攻撃してくる。俺の剣と騎士の剣が触れる音がさっきと比べ物にならないほど大きくなり、歯を食いしばらないと衝撃で飛ばされてしまう。
俺は攻撃を避けきるだけで精一杯だ。この世界に来て、初めて自分の実力不足を感じる。ダンジョンのときは運良く助かったからそんなに重く捉えていなかったのかもしれない。だがこうして、自分より強い人が目の前にいると感じざるをえない。
「これで終わりだ!」
そう言って、騎士は立ち止まる。この周囲の魔力が全て騎士の剣の先に集中する。あれを喰らえばひとたまりもない。
俺は即座に騎士と距離を取る。あれは剣に集中している魔力とその魔法陣を見る限り光属性。ちょうど俺が闇で相打ちにすればいい。
俺は自分の魔力を使う。周囲の魔力は集め方がわからないため習ってから使おう。
「符呪"獄炎"」
自分でも驚いている。炎の体積?質量?かよくわからないがとにかく大きい。黒い炎が俺の剣を包んでいる。
「ほう。獄炎か。珍しい。」
騎士から剣が放たれる。猛スピードで俺のところへ向かってくる。俺はとりあえず剣を振ってみた。獄炎が流れるように飛んできた剣を覆った。
急いでその場から離れる。だが誰も想像しなかっただろう。まさか、
「なに!?」
俺の獄炎があの騎士の剣に勝ったのだ。結果、俺の獄炎があの騎士の剣を灰すら残さず燃やし尽くした。
「ーーーーーふははははは!」
急に笑いはじめた。俺みたいな弱いやつに剣を燃やされて狂ったか?
「おもしろい!貴様をみくびっていたが、この私の剣をこんな風に燃やし尽くせる者はそういない。名は?」
「さおきだ。お前は?」
どうやら俺は今こいつに認められたらしい。別にどうでもいいが。
「セウイだ。」
? あいつ、そういえばルージアってやつじゃなかったか?なんで2つも名前が…
「おまえ、ルージアじゃなかったのか?」
「あれは偽名というか、家の名前というかだな…」
まあいい。だいたいわかった。
「で、どうするんだ。お前にはもう武器がないようだが。」
俺が燃やしつくしてしまったからな。正直、自分も今起きていることが夢なのではないかと思っている。たしかにこの剣には闇属性の効果を強くする効果がある。それが、これほどとは。
「問題ない。それなら…」
一瞬で光る剣が出てきた。特になんの動作もなかった。おそらく魔力で作ったものだろう。でも、反則だろ。こっちはこの剣を手に入れるために来たってのに。
「さあ、続きだ。」
あ、はい。一番嫌な展開だ。おそらく今度こそ手抜きなしで本気でくる。さっきので結構やばいのに本気で来たらどうなることやら…
「なあ、この辺にしないか?ほら、お前だって召喚者を案内とかしないとだし…」
早くこのおっかない人から逃げたい。頭にはそれしかない。体全体がこれ以上戦闘をすれば死ぬと危険信号を出している。その時だった。
ーーーーーーーーーーッッッ!
「ーーがっ!」
背中に突如、激しい痛みが襲う。振り向くと背中から自分の血が吹き出していた。瞬間、別の痛みが自分の身体を襲う。
「なに手間取ってるんだ。さっさと終わらせろって。」
奥から知らない騎士がもう一人出てきた。つまり俺は不意打ちされたのだ。
「いいだろ。俺の獲物なんだから。てか、久しぶりにいい勝負になりそうだったのに。」
痛みのせいで俺はバランスを崩し、落ちていった。
いくつのも雲を落ち抜ける。さっきまで熱かった傷が風ですっかり冷たくなっていた。魔法が使えない。当然だ。少なくとも体制を立て直せなければいけない。落ちる。落ちる。どんどん落ちて、いつのまにか雲の下にいた。
このまま落ちると確実に死ぬ。まだ転生して1週間も経っていない。それなのに死ぬのか。俺。
悔しい。こんなに早く死ぬのはおそらく転生者のなかで最速だろう。そんな汚名を着るのもいいかとも思ってきた。思考が止まる。頭が空っぽなる。
もうすぐ森に落ちる。あぁ。死んだか。
「…………」
ダメだーーーーーーーーーーーーーッ!死にたくない!今更なにを言っているんだと自分で突っ込むが死にたくない!
『魂の結合を確認しました。早速ですね。』
あいつの声がした。なにを言っていたかはよく聞こえなかった。
眠い。急に瞼が重くなった。だけど眠れない。ここで寝たら死ぬ。でも、目が言うことを聞かない。寝たら死ぬのに……。俺の意識は、深く沈んでいった。
『さて。ようやくですか。助けてあげるとしましょう。』
さおきの体が黒いオーラに包まれる。途端、この辺り一帯に衝撃がはしる。その時だった。
「回復結界。」
この森全体に結界が張られた。アミリエだ。成功したのだ。おかげで、さおきの傷も少しずつ癒されていく。
『さてと。男の体は少し慣れないですが、やってみますかね!』
さおきの体に憑依した。中にいた"あいつ"が。
「「「「!?」」」」
全員、この衝撃に反応する。セウイも。ウィクも。アミリエも。そして、あの騎士も。全員。
たちまち、さおきの体からアミリエと同じような黒い翼が生える。傷は結界のおかげですっかり治り、再びあの騎士がいる場所へ向かう。
「なんだ!この尋常じゃない圧は!」
どうやらあの騎士たちには圧に感じたらしい。すごく強かったのか、鎧にヒビができていた。
「さおき…」
さおきの身になにがあったのかはっきりと理解しているのはアミリエだけだったかもしれない。衝撃波の属性は闇。しかもそれだけでさおきの魔力の2倍の量の魔力が入っている。
「さて。続きをしましょうか。」
「誰だ。さっきのさおきと気迫もなにもかもが違う。」
騎士たちが微妙に震えている。無理もない。たかが一つの衝撃波で自分たちの鎧にヒビが入ったのだ。さっきの立場が逆転したといっていいだろう。
「今から私の力を少し見せる。これで逃げるというのなら見逃しましょう。戦うのであれば相手をします。」
そう言って、"あいつ"右手を挙げた。
「偽りの帳よ……我の前より消え失せよ!」
瞬時に、この魔法陣を覆っていた雲全てが消える。そのせいでどこでなにが起きているのか全て見えるようになり、魔法陣2つともよう見えるようになった。
「え?さおきくん?」
急に全ての雲が消え、することがなくなったウィクこっちにくる。さおきの体から生えているこの黒い翼に困惑していた。
「おもしれぇ!さっきまで弱かったやつが急につよ…」
セウイがさおきを攻撃した騎士の口を強制的に塞いでいる。なんというか、気持ち悪い。
「すまなかった。我らはこれで退くとしよう。」
そう言って、セウイとあの騎士は転移魔法でいなくなった。
「さて、戻りましょうか。」
「う、うん。」
戻るとアミリエがその場で倒れていた。
「リエちゃん!?大丈夫!?」
ウィクが急いで声をかける。だが、寝ているだけだった。「本当によく寝るね〜」と、またウィクが撫でていた。
「さて、私の話をしましょうか。」
アミリエも眠そうに起き上がり、真剣に話を聞いた。




