『アミリエ』
誰かもわからない声が上から聞こえる。
「やっぱり…」
リアが眉をひそめた。すごく怒っていそうな感じがする。やっぱり、ということは、リアはここでこの声が聞こえるということまで…
「さおき、ウィク。協力して欲しい。これを達成したら、私たちは大きな力を得る。」
大きな力、か。やるしかないっしょ!と、俺はそのまま勢いでオーケーする。ウィクもよくわからないことがたくさんあるけどやると言ってくれた。
「ーーこれより、汝らに試練を課す。内容はシンプル。お前たちには入ってくる道に3本の道があったはずだ。一番強きものはここに残り、二番目に強いものは左の道、三番目のものは右の道を進め。その先に試練が待ち受けている。制限時間は2時間だ。」
その後、天井に大きい時計のようなものが現れた。1秒1秒、刻一刻と減っていく。つまり、試練はすでに始まっているのだ。
「さおき、ウィク。近道。私はここに残る。」
リアがそう言って、あの落とし穴を開けようとする。だが俺が、
「待って。」
「どうしたの。さおき。」
「これを持っとけ。負けそうになった時とか危なそうな時とかにそれを割れ。そしたらリアを助けてくれるはずだ。」
そう言って、俺はリアに小さい、魔法陣の埋め込まれた赤い石を投げて渡した。
「もうっ。心配症だなぁ、さおきくん。」
「わかった。2人とも、頑張って。」
落とし穴が発動した。慣れない。この落ちる速度が異常すぎるのだ。
「ーーー行ったか。」
「ええ。」
「ーーわかっているな。私が与えるものも。これから起きることも。」
「ええ。達成した暁には本当にいただきますよ。くれるのですよね?究極魔法。」
「ああ。もちろんだ。私が自分の愛娘に嘘をつくわけがなかろうて。」
とても父と娘のやりとりには思えない。アミリエがまるで彼女の父、悪魔王を信用していないような感じだ。あたりには負の感情が漂っている。
「では、さっさと終わらせてしまいましょうか。私も、父からの最初で最後の送り物を手に入れたいですからね。」
「……愚か者め。誰がおまえにあげると言った。」
「!?」
このときアミリエの心の中にあった疑問とその答え、なぜこうなったのかなど、全てのことが繋がる。このとき、アミリエには父の考えていることが思っていたことよりずっと恐ろしいものだと理解する。
「まさか!あなた!私以外の…人間に!あの力を!どうなるか!あなたも知っているはずでは!」
アミリエが天井から話かけてくる父に向かって叫ぶ。だが、彼女の口からすでに父という言葉は出なかった。
アミリエの声が激しくこの大きな封印部屋に響く。彼女ののども叫んだせいで少し痛んでいた。
「………」
なにも答えない。答えが返ってこない。この父の態度にアミリエの怒りがついに限界に達する。
自分が復活したばかりだったから念のために仲間も一緒に来てもらったのだ。本当は自分一人で成し遂げないといけないとわかっていた。でも、父が出す試練は自分に対してだけだと思っていた。仲間には手を出さないと思っていた。だが実際、父は仲間にも、そして自分に手を出した。あのときと同じように。
あのとき、というのは遠い昔、まだ人間が悪魔、天使の連合軍と戦争をしていたときだった。
悪魔の王と一人の悪魔に子供ができた。それは、戦時中だった軍の指揮をこれまでにないほど高めた。生まれてきたあとには、若くして魔法の才能に目覚めた。それだけでなく、皆が気に入っていたのがその容姿。
長くきれいな銀髪とその青く澄んだ目。悪魔の寿命は20年で人間でいう1歳程度とされている。彼女、アミリエは僅か30年で、人間でいう1歳と半年で全ての魔法およびその知識を習得した。誰もが彼女は戦場にて活躍をし、これからの悪魔族のリーダーとなるべき存在だと思っていた。だが、結果は違った。
彼女の父、悪魔王が彼女を戦場に行かせなかったのだ。理由は教えてくれなかった。毎日頼み込んだ。戦場には、多くの悪魔が血を流した。彼女はそれを見過ごすわけにはいかず、次第に自分でこっそりと戦場に行くことを試みた。だがそれも全て父には筒抜けだった。
どうしてもわからなかった。父がなぜ、自分を戦場に行かせてくれないのか。なぜ、たくさんの悪魔には血を流させて、戦わせておきながらも自分はなにをしないのか。なぜ高みの見物をしているのか。わからなかった。
このころ、彼女はまだ60歳にもなっていない。つまりまだ人間でいう、3歳程度なのだ。わからなくて当然である。彼女は、なんとか遠方からでもみんなを助けたいと思い、魔法の開発に勤しんだ。住んでいる城からは出ていないため父もなにも文句はなかった。
でもなぜかみんな、私と近かった人たちが姿を消してゆく。アミリエはそんなことを気にもせず、魔法の開発を進めた。次第に、彼女を取り巻く人たちがだんだんと彼女の前から姿を消していった。それは、彼女と一番付き合いが長かった侍女までも。
「なぜ皆、私の前からいなくなっているのですか?」
侍女までもいなくなったことで父に聞かねばならなくなった。いつも優しくしてくれていた唯一の悪魔。いつしか、それは彼女に欠かせない存在となっていた。それまでもが、彼女のそばからいなくなったのだ。
「……戦争だ。」
「!?……なっ…!」
言葉も出ない。アミリエは自分が戦場に行ってみんなを助けたいというのに対し、父は行かせてくれなかった。それなのに自分と親しかった侍女などは戦争をさせる。矛盾だ。
そのあと、アミリエはそれ以外なにも聞かずにズタズタとわざと足音をたてて部屋に戻った。あのあとは父となに一つ言葉を交わさなかった。魔法の開発を続けた。
ある日、魔法が完成した。父が完成したら見せてくれと言ったけど見せたくなかった。だが、勝手に無許可で使うのも良くないと思い、しぶしぶ父に見せることにした。
魔法を見せたら父は、
「危険すぎる。制御ができなかったらどうするんだ。」
と言って、この魔法の使用許可を出してくれなかった。でもアミリエは諦めなかった。せっかく何年もかけて開発した大魔法なのだ。なんとしても発動させ、みんなを戦争という呪縛から解放しようと奮起した。毎日父のスケジュールを確認し、父が留守の日を待った。すぐにその日はやってきた。
急いで研究室と自分の部屋を行き来し、準備を進める。部屋ごとに警備をしている兵たちは何かあったのではないかとアミリエにはなしかけることもあったほどだ。
「できた!」
全ての準備が完了する。自分の魔眼で戦争中かどうか確認し、発動させる。
内容は至ってはシンプルなものだ。空中に全ての戦場を取り囲むように魔法陣を展開。主に月の光をエネルギーに変える。悪魔は夜の方が魔力が高まるため月にした。そのエネルギーをさらに下に用意した魔法陣にて、悪魔にとっての回復薬に変換する。それが戦場に降り注ぐ仕組みだ。だが、もしそれが人間に当たったらそのエネルギー量に耐えきれず、死ぬ。絵に描いたような一石二鳥。この魔法が発動すれば悪魔たちは全員無傷で、なおかつ人間も自然と倒せる。
このシンプルな魔法を開発するのに数10年かかったのだ。その努力が今、報われるーーーーー
はずだった。
報われるはずだった。発動させようとして自分の手に魔法陣を出し、これから!というところだった。魔法禁止領域が展開されたのは。
抵抗する。だが、この魔法の発動が禁止となってしまった。まさか…
「私だ。」
研究室のドアを開けて入ってくる。父だ。今日はいないはずの父が、目の前にいた。
「なぜ…」
「まさか、本当に実行しようとしていたとはな。あの魔法の危険性はおまえだって知っていたはずだ。それなのに…」
今さらだが、この魔法の危険性。
それはまず、あの魔法陣を展開するだけで戦場の魔力がごっそり持っていかれること。1つ展開しただけでも半端じゃないほどの量なのにそれが2つ。結果、戦場にある魔力が尽き、魔術師はその意味を成さなくなる。
次に、月の光に頼るところだ。この魔法は主に月の光をエネルギーに変換してやっと発動する。でも、肝心の月が雲や誰かが作り出した障壁などで光が魔法陣に届かなればどうだろう。そうなればこの魔法はただ、魔力を大量に使用しただけでなにもできない。
最後に、悪魔王が最もアミリエに戦場に行ってほしくない理由、それはアミリエが戦場に行くことによって、他の兵士たちがアミリエをだんだん頼り始め、次第にアミリエが一人で戦争をすることになってしまうことだ。こう見えてもこの子はまだ子供なのだ。
悪魔では150歳を超えると大人という扱いになる。だがこの子はまだ60歳の子供!戦場に行かせてはならない。この子にはまだ、世界の過酷さを知る年ではないのだ。
「アミリエ、おまえはすごい。だが、それは使い方を間違えれば仲間を傷つけてしまうことになる。よって、その魔法とおまえを一緒に封印する。私もこの手を使いたくなかったが…」
「覚悟ならとっくにできています!さあ!」
「いいだろう!放っておいたらまたいつか、脅威になりかねない!」
「もうあなたを父だとは思いません!」
こうして、アミリエは封印されたのだった。だが、悲しいことにその封印をアミリエは軽々とそれを解除した。
「ちっぽけな封印。さて、」
門を開けにいく。
「ーーんぐーー!」
だがそれは開かなかった。そして周りには光属性の高度な結界。しかも中に魔力が入ってこない仕組みになっているため、結界を割ろうとしたら魔力切れで死ぬ。
「厄介ですね…」
なにもすることができない。この封印部屋にも本の一冊もなかった。
しばらくしてアミリエは忘れていた大切なことに気づく。魔法だ。自分のスキルと魔法がなにもかも失われている。これもあの父のせいなのだと察した。途端、上から聞き覚えのある声が聞こえる。
「気づいたか。おまえの魔法とスキルは全て私が統合した。もちろん、あの魔法も含めてな。それのおかげで究極魔法が誕生した。いつか渡そう。その時まで待て。」
アミリエは待った。その時まで。することもなかったのであの封印箱の中で眠りながら。
次第に寝過ぎたのか、はたまたあの父のせいなのか、目が開けられなくなった。その間、何人もの人間がきた。強い人間や弱い人間など、いろいろだった。でも、目を開けることはできなかった。
何週間経ったのか、何年経ったのかわからない。そんなとき、あの人はやってきた。あの人は今までの人間のなかで一番闇属性が強かった。さおきだった。見た目とステータスだけを見るとそんなに強い人間ではなかった。でも、他の人間とは違う。
今まできた人間は私を恐れたり、利用したりしようとしていた。でも、さおきからはそれを感じない。私に対して普通に接してくれている。それがすごく新鮮だった。
「だから…」
言葉と同時に力を解放する。初めて戦う。天井から聞こえる忌まわしい父の声が消え、大きいモンスターが目の前に現れる。
「私は、これ以上、失いたくない。」




