『最下部にいた少女』
俺はレクライトたちと一緒にダンジョンに入った。中は思ったより広く、動きやすいダンジョンだ。
「気を引き締めろ!ここからなにが起きるかわからん!」
奥に行くにつれてだんだん歩きづらくなってきた。最初で歩きやすかったのはおそらく多くの冒険者が探索する時に通ったからだろう。
たまにコウモリらしきモンスターが飛んでくるがこちらが仕掛けない限り攻撃して来ないらしいので放っておく。
途中で3つの別れ道があった。道ごとに左からA、B、Cの札がある。俺たちはBチームを助けにいくため、真ん中のBの道を進んだ。
ーーーーーーーーーーーーッッ
音がした。先頭にいるリーダーが音源に近づいていく。なぜかみんなこのダンジョンに入ってから一言も喋っていない。それどころか、皆足音をもできるだけ出さずに歩いている。
「モンスターだ!」
リーダーが叫ぶ。途端にみんな、戦闘態勢に入った。
「問題ない!サキュバスだ!皆意識を強く保て!」
サキュバス。別名夢魔。人を眠らせ、眠らされたら人生が狂うほど夢を見せられ、生きる気を無くした瞬間にその夢を食べ、人を殺す。
だがリーダーの言う通り、意識を強く保ち、眠らされなければ夢を見せられることもなく、死なない。
「くっ…まだBチームは先にいるのに…」
Bチームはまだ先にいる。
それに、どうやらこのサキュバスはレベルが高く、俺の隣にいたレクライトはいつの間にかサキュバスと応戦していた。
「くそ…ーーーーーーッ!」
レクライトは主に剣一つで戦っている。他のメンバーは身体強化を使っているのに対しレクライトはなにも使っていないように見える。
しょうがない。助けてやるか。
「レクライト!伏せろ!」
俺の風の刃がレクライトが戦っていたサキュバスの体を貫く。
「申し訳ねぇ!」
「先に行ける者は先に行け!」
ルグシアが戦闘を終えたメンバーを連れて先に行く。この中で唯一戦闘をしなかったのが俺だ。俺はレクライトを助けただけ。それ以外はなにも役に立っていない。まさか俺ってお荷物?
俺はリーダーたちと一緒に先にいるBチームを助けに行った。レクライトたちは後で合流するらしい。
「なっ……」
人の死体がある。それも一人じゃない。2人、3人と進むたびに死んでいる人がいる。
「遅れたか……」
ルグシアが悔しみと悲しみを現にする。拳を強く握り、体から魔力がすこしずつだが漏れてきている。
彼の足元にリーダーのみがつけているバッジが落ちている。
つまり、Bチームは全滅したのだ。最も強いリーダーがつけていたバッジが落ちていたのだ。しかもリーダーの姿はどこにもない。
ギャーーーーーーーー!
変なギャー!が聞こえた。男にしては声が高いし、女の割には低すぎる。
「なに!?」
奥に来た多くのメンバーが急に戦闘態勢になる。
「ここからは自分の命を守ることを最優先にしろ!」
相当やばいやつなのか、数人震えていた。
「来るぞ!」
ーーーーーーーーーーーーッッッ!
なにか大きなモンスターが飛んで来た。あたりに急にすごく強い風が吹き荒れ、そこら中に転がっていた死体は全て飛んで無くなっていた。
「なんでこんなダンジョンに獄死竜がいるんだ!」
一人のメンバーが恐怖と驚きを抑えられなくなっている。実際、俺もなぜこんなところにドラゴンがいるのか気になる。あの入り口はどう見てもドラゴンが自由に出入りできるほどの大きさではない。
しかもこんなダンジョンで狭くないだろうか。
みんな獄死竜に必死で戦っている最中に、俺だけにだろうか。小さい声が途切れ途切れに聴こえていた。
(我………姫……守る………王からの………役目………果たす………)
姫?王?よくわからないことだらけ。このドラゴンはこれを繰り返して言っている。
(我………姫……守る………王からの………役目………果たす………)
こっちはあいつを抑えておくだけで手一杯なのにあいつは同じことを繰り返しに言っている。さては、長い間ここで姫とやらを守っていてバカになってしまったか!
『いくらなんでもそれはありえません。』
(もしかしたらってこともあるかもじゃん!)
『ないです。』
(ったく、冷たいなぁ。)
『前!前をきちんと見てください!』
ーーーーーーッッッッ!!
慌てて前を見る。目の前にはドラゴンから吐かれたブレスの炎がこっちまで広がっていた。それをなんとか躱す。
『危なかったですね。』
(油断大敵。)
と言ったそばから、容赦なく次の攻撃が飛んでくる。さっきよりも速く、しかも炎の攻撃ではなく爪による物理攻撃。
『緊急事態発生。緊急事態発生。これより防御システムを使用します。』
これはやばい!と思ったそのとき、
『刃風防御バージョン。』
俺の周りにイノシシ討伐でウィクが使ったあの刃風が出現。しかも周りに被害を出さないように攻撃用というより防御用にしてある。さすがだ。
ーーーーーーーーーーーーッッ!
『刃風で耐えきれません。この後、あなたは100%あの攻撃によってダンジョンの中の方に飛ばされます。』
(100%なの!?なんか方法ないの?ていうかどうやって計算してんだ!)
『計算方法は主に高速演算を使用しております。防ぐ方法はありません。あなたのレベルが高ければ防ぐことができたかもしれませんが、今のあなたのレベルとスキルで防ぐことは不可能です。なお、座標登録をしていないので地上にテレポートすることもできません。』
(詰んでるじゃねぇか!)
俺の周りを取り巻いていた刃風がドラゴンの攻撃により剥がれる。だが、その名の通り、風には刃が付いているため、ドラゴンの爪のかけらと血が落ちていた。
するともう一撃、後ろから来ていることに気づかずに、俺はドラゴンの直撃を受けた。
この世界に来て初めて感じた痛み。攻撃を受けた背中は熱く、血を流していた。
「さおき!大丈夫か!」
後から来たレクライトの声が聞こえる。
「……俺は、問題ない。……早く、ここから、逃げるんだ。……次の攻撃が、くる。」
ゆっくりと話している暇もなく次の攻撃が降りかかり、俺とレクライトの会話はそこで終了した。
その攻撃の巻き添いをくらって、俺はとばされてしまった。
ー残ったウィクたちはー
「ここからは私が指揮をとる!皆はぐれぬよう、気をつけてついてこい!」
私もさおきくんがダンジョンに入ってからしばらくしてダンジョンに入った。
途中で3つ別れ道があった。主にA、B、Cの立て札が置いてあって、私たちはCの道を進んだ。多分、さおきくんたちはBの道を進んだのだと思う。
特に強いモンスターとかも現れず、出てきたのはせいぜいコウモリくらいで殺さないでいいって言われたからそっとしておいた。
私たちは特になにも起きず、奥に空っぽの宝箱があって、行き止まりだったからそれでダンジョン探索が終わった。
外に出たら先に帰ってきているはずのさおきくんたちが未だに帰ってきてなかった。
「おい、先に入ったやつらは大丈夫なのか?」「ちょっと様子見てこようぜ!」
先に入ったさおきくんたちを心配する声やBチームの道に本当の宝があってBチームの道に行きたいという人がいた。でも、
「独断行動は許さん!帰りたいやつは帰ってもよい!」
「なにもなかったし帰るか。」「帰ろ帰ろ。」
多くの人が帰っていって、私たちCチームはこれで解散した。私はさおきくんがまだ出てきてないため、入り口の近くで待った。
*
ダンジョンのどこなのかもわからないところで目が覚めた。さっきまで血を流していた背中の血が止まっている。だがまだ熱い。それほど時間は経っていないのだ。ウィクたちはダンジョン探索を終えたのだろうか。
俺はゆっくりとその場から立ち上がり、周囲を確認した。なにもない。後ろに大きな門が一つと前にすごく急な登り坂がある。戻ったところでまたあのドラゴンと戦うだけだ。
これ以上、痛い目には遭いたくないためレクライトたちには申し訳ないが前の大きな門の先に進むことにした。
「んんーー!」
普通に押すだけでは開かない。よく見ると2つのハートの形をした穴がある。
【この門を開けたければこれから現れるモンスターを倒し、ハートをここに入れよ】
だそうだ。
「おいおい…」
まだモンスターが来るってのか。こっちはただでさえ負傷してるのに。というか、なんでハートなんだ。
このダンジョン作ったやつ、頭が狂ってるだろ。
ーーーーーーーーーーーーッッッ!!
愚痴を思っている暇もない。1体の大きいモンスター?が後ろの壁を壊して出てきた。いや、最初からあそこに仕込まれていたんだ。
まずは相手の出方を調べるため、俺は今ある自分の力と魔法を駆使して攻撃を躱す。それと同時にハートの在処を探していた。
ーーーーーーーーーーーーッッッッ!
あのモンスター?は普通のとは違う。魔法も扱える。これ本当にモンスターか?魔法は主に、火、水、風の基本の3属性を使ってきている。左手に盾、右手に剣を持っていて魔法と剣術の同時攻撃。俺はなんとか全て躱していた。
ーーーーーーーーーーーーッッッ!
ーーーーーーーーーーーッ!
重たそうな剣の一撃と大規模な魔法が次々とくる。
いくつかの技を見てきてわかった。これはモンスターじゃなくて機械だ!異世界風に言うとゴーレムってやつだ。しかも超ハイスペック。
そろそろあのゴーレムの使用スキルもわかってきたため俺も攻撃を開始することにした。俺も死ぬ前はたくさんのアニメを見てきたためこういうとき、ゴーレムの核は大抵…
「心臓だ。」
今ありったけの全魔力を注いで氷の槍を作り出した。これをもちろん心臓めがけて、
「行けーーーー!」
心臓があるであろう、体の真ん中に氷の槍を放った。だが、それはゴーレムの左手にあった盾で防御されてしまう。
さおきの氷の槍は盾を貫通はしたものの、惜しくもゴーレムの核があるところであろう真ん中には届かなかった。
貫通した盾がバラバラになって消え、そこからハートが一つ落ちてきた。
「まさか…」
確証はないが俺は攻撃を避けつつあの門に向かった。入れるとジャストフィット。するとゴーレムの左半分がバラバラに散り、消えた。
間違いない。ゴーレムの武器にハートが入っている。でもさっき消えたのは盾を持っていた左。剣を持って右の方はまだ残っている。
「まあいけるっしょ!」
あのゴーレムはすでに防御をする術を失っている。的確に攻撃をあてればいいだけだ。たとえ剣で上手く防御しようが剣を貫通させ、ハートを取り出してまた門に戻って入れればいい。勝ったな。
俺はまたさっきと同じ氷の槍を用意する。今度は死にたくないのか、微妙に動き出した。
だが俺は容赦はしない。確実に殺す。
「行け。」
俺は氷の槍を今度こそゴーレム核に向かって放った。氷の槍はゴーレムの真ん中を貫いた。
ゴーレムがバラバラになって崩れていく。こんなアニメの経験も役に立ったりするものなのだ。
「よいしょっと。」
動きを一度止めてからまた体を動かそうとするとすごく重い。剣からハートを取るだけでも一苦労だ。
俺は剣から取ったハートを門に入れる。
たちまち門は開き、俺は中に入った。また閉まったら今度こそ開けられないと思い、俺は門を開けるだけ開いた。が…
バタン!!
「は?」
門が勢いよく閉まった。門の高さは少なくともさおきの身長の10倍はあるだろう。さおきはあれを開くのに結構時間がかかった。なのにあれが一瞬で閉まったのだ。
俺はとりあえず奥まで行った。歩くたびに足音がよく響く。特になにもなく、すっからかんとしてた。財宝が山ほど出てくるって期待してたのに…
(この後出られない、とかそういうのはないよな?)
『ここから脱出するのは厳しいでしょうね。あの門はすごく頑丈にできていますし、この部屋の壁は光属性のシールドがかかっています。この部屋の感じからして数100年いえ、数1000年は誰もきていないのに傷一つありませんから破るのも難しいでしょう。しかもあなたは闇属性に適正はありますが闇属性の魔法は持っていません。ここから脱出するのはほぼ無理と考えてください。』
(まじかよ…)
一番奥に透明な箱がある。最初は誰かの柩かと思ったがなかに少女が入っていた。まさか、封印?
もしこれが封印とかだったらまためんどいことに…
「……くそがーーー!」
やはり門が開かない。終わった…俺は門の前に座り込んだ。
方法を考えては試して考えては試した。それでも開かない。
もしかしたらこの部屋になにかあるかもしれない。ちょっと散策してみるか。俺はロッカーや他の置いてある他の箱など、隈なく探した。が、脱出の鍵となるものやヒントすらなにも見つからなかった。
あるのはあの少女が封印されたあの箱のみ。方法もないし、しょうがない。封印を解くか。
封印の箱をよく見ると封印を解く方法が見当たらない。門を開く方法はあったのに…
いっそのこと、この箱を壊してしまおうか。そう考えた俺は氷の槍だと逆に氷が破れそうだったので風の刃で破ることにした。
ゴーーーーーーーーーーーン!
風の刃で箱を攻撃したときだった。風の刃が消え、た?驚きを隠せない。攻撃した瞬間に風の刃が消えたのだ。
でもまあ一応箱が破れたので目的は達成している。
「〜〜むにゃむにゃ…」
気持ちよさそうに寝ている。一応だが服は着ていた。
「おーい、起きろー」
俺は少女の顔をちょっと揺らす。
「〜〜」
なかなか起きない。それどころかさっきよりも眠りが深くなっている気がした。
「おーきーろ!」
遂にデコピン。なかなか起きてくれないためちょっとだけ手荒くする。
「んーー」
ようやく起きた。目を擦っている。長い銀色の髪と青く澄んだ目を持つ少女だった。
「あなたは、誰?」




