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猫と曼珠沙華  作者: 鳥飼 心裏
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01それは始業式をサボった午後だった。

【外十間】は各区から出ることなく各種族が生涯を迎えられる設備を持っています。


【人外区】は人外の皆様に生活頂いてる区となっております。

【共存区】は人外と人間が平和に暮らす場所です。犯罪を犯した者はこの区へ入ることはできません。政府は人間が多くはありますがここの中央政府が外十間の中心となり、人外と人間が力を合わせている象徴となっています。

【人間区】は人間専用の生活区となり、人外の侵入は固く禁止されています。


各区への移動は専用の【門】を通ってください。

門以外では結界や塀などがあり、防犯や安全のため、空中や地中からでも他の区へは出ようとしないでくください。

警告を無視しての死傷に関して政府は一切の責任を負わないものとします。


【山間部】区外の周りの手つかずの森や山は山神によって監視と管理が行われている野生動物や野良妖怪の生息地域となっている為、許可なく出入りしたり荒らすと協定により山と街双方より警備が駆けつけます。

監視は山の神の善意の協力により成り立っている為、不法投棄等山の神の期限を損ねる行為は禁止されています。

扱いは人外区と共存区の中間とします。要は野生動物保護地区です。自然は大切にしましょう。


それではよい外十間ライフを。

――中央政府。

――外十間(この世界)は不平等だ。

 今日も高校をサボって空き地で猫達と戯れる、人間の少年が居た。金に染めた髪の小柄な少年――(さい)は何度考えたかわからない事を今日も思い浮かべていた。


 猫というのは【動物】だ。

 話せるほどの知能もない生物。

 もしこれが話し出せば【人外】という括りになる。

 人外は人間以外の言語を解する生物であり、人と交わったものやシルエットがだいたい人間的だと『亜人』に分類されたりするが…それは単に人外の中の小さな括りでしか無い。


 人外は人間がまだ着物を着て刀を振るっていた時代から、力も常識も人間とは違う為に必要以上に恐れられたり討伐されたりしている。

 そんなわけで、数を減らしている現代でも人外は迫害の対象で、人間たちに管理されていた。


 ちなみに【人間】は知力に長け、神々の姿を模倣して作られた生物でこの世界の頂点、その圧倒的知力を持って世界の管理を任された最高の生物とされている。要は吐き気がするほど人間至上主義なわけで、力だけの人外と圧倒的に知力のない動物を管理する崇高な生物ということになってるらしい。

 神々も存在はしているが、世界には気まぐれに関与するだけで基本的に運営管理は人間が行っている。口出ししてこないのを良いことに人間は全てを神に任されし生物だなんて傲慢にも豪語しているわけだ。


 外十間(そとま)では生活するに当たって地域もしっかり分けられている。

 人間しか居ない【人間区】

 人外しか居ない【人外区】

 人間と人外の共存を謳った【共存区】


 犯罪者は人外のみ【人外区】(専用の地域)から出ることが許されず、数少ない【共存区】は人間に関しては制限が甘い。

 自然に人外区は奥に行くほど無法地帯と化していき、人間区は奥に行くほど人外嫌いが集中して陰鬱としている。そして両区の中央に存在する共存区は綺羅びやかに多種族の共存共生の成功を謳って安全な人外のみを受け入れてそこそこ平和に過ごしていた。


 要はこの世界――【外十間】(そとま)は、人間を頂点とした差別社会なのだ。

 外十間(この世界)人間(どうぞく)も、彩は好きではなかった。

 

「お前たちはどこでも自由に暮らせるのにな。」

 彩は抱き上げた猫に今日も同じ言葉を投げかける。

 猫たち動物は、人外と人間双方にペットとしても可愛がられている。

 そこだけは平等で、とても自由に思えて――彩はそんな猫たちが羨ましかった。



「ん?何だお前。こんなとこでサボってる学生か?」

 空き地の日向で猫に囲まれて昼寝をしていると、話しかけてくる物好きが居た。

「あんたここ初めて? 俺なら何時もここに居るけど。」

 彩が学校をサボって空き地にいるのは、何も今に始まったことではない。

 自称不良の彼は天気のいい日は大抵ここに居座っていた。

 

「ふーん? まぁ、義務教育なんて出てもでなくても一緒だしな。」

 彩の制服と小柄な体つきを見てか。そう評した男に、彩の機嫌は悪くなる。

(あ?義務教育?)

 聞き捨てならない単語を聞いて、彩は顔の上で寝る猫をどけながら相手を睨んだ。

 早生まれで身長が伸び悩んでるとはいえ、男子高校生であり、そもそも義務教育の年頃で染髪を認めてる学校もないし、中学生以下に間違われるのは心外で…要は彩にとって、これはとてもデリケートな問題だった。


「俺はこれでも高校生だ!」

 どうだ凄いだろう、と言わんばかりに高校生を強調して言い放つ。

 ちょっと前まで中学生だった彩にとって、その違いは大きい。

 高校生といえば髪を染められて、バイトができて、バイクに乗れて、運動場も力技で年下たちから奪い放題という最強の存在である。(彩は染髪しかできていないというのは言わないのが優しさだ。)

 義務教育とは違うのだ、義務教育とは!

 そういった迫力を込めて言いながら睨んだ相手は、右目の瞳が2()()存在した。

「じゃぁ、わざわざ進学したのにサボってんの?お前。」

 不思議そうにそういう赤毛の男は、見間違いでなければ話してる時に()が見えた。


「そうだけど何?」

 人外だろうか? それにしては他に特に特出すべき特徴がない。

 人間だって探せば八重歯が大きい人も居るし、遺伝子異常であろう重眼が珍しいだけだ。

 人外であろうと人間でろうと別に差別する気もないが、中学まで人間区で育った彩には人外という相手はまだどうにも物珍しく見えて興味をそそられてしまう

 まあ、好奇心よりは自分を義務教育(お子様)扱いした無礼者が気に入らないという感情が勝っていたのでそれ以上観察することなく眼前の赤毛の男をジトッと見上げた。


 赤毛の男の身長は普通に180センチを超えているだろうか? 羨ましい。

 顔も俗に言うイケメンっていう部類に入るのだろう。

 彩も顔が悪いわけではないがどちらかと言うと可愛い(アイドル)系だった。

「人間なのに、重瞳(オレ)を見て驚かねーんだな?」

「何が?」

 男の言わんとする意図を読み取れず、オレを見て驚かないというナルシズム発言に彩は首を傾げた。

(この高身長と顔の整い具合…もしや、今を時めく俳優とかでこっそり路地裏から現場移動だった?

 いやないだろう。どんな確率だ。)

 なんて考える程度に人間にしては珍しく、この男の容姿は彩にとっては些細なことだったのである。


 赤毛の男が口を開きそこねている間に、彩の膝で寝ていた猫が起き上がって伸びをすると、道路の方へと歩いていった。

 道路を横断した先の塀の向こう側、そこがその猫の住居なので帰るつもりなのだろう。

「あ、おい! 帰るのか?」

 何時もはお互いが飽きるまで膝でくつろいでいく猫が、集まっていた野良猫が。今日の集会は終わりだと言わんばかりに早々と帰ってしまう。

 友達が居なくなってしまうほうが赤毛の男なんかよりも重大である。

 それもこれもこの赤毛のせいだ、と心のなかで八つ当たりしておく。

 まあ、猫なんか自由特権生物の代表格なので関係ないのはわかってるんだが。どうせ雨の気配を感じたとかだろう。

 話しかけても猫達は答えることもなく、帰路についたはずだった。


 遠くから急激に近寄るエンジン音。

 急いだ車が人通りの少ない路地を猛スピードで駆け抜けることは時々ある光景だ。

 しかし、今その音が近寄ってる道は猫が横断中なわけで。

 猫というのは戻るという選択ができない。

 固まるか、進むか。

 進んで渡りきってくれるか、道の真ん中で止まるぶんにはまだ車の大きさに寄ってはまだ助かる!

 そう思ったがどうやらそこまで現実は甘くないようで。


キィィィイイ!! ドン!


 凄まじいブレーキ音に続いて、目の前を車が横切った。

 その時に聞こえた衝突音と、打ち上げられた道路の真ん中の物体。

 走り出した赤毛の男が、落下してきたそれを受け止めた。


「…。」

 受け止めたものを見て、男が悲しそうな顔をする。

 遠くでエンジン音が聞こえた。

 どうやら車は、走り去っていったらしい。

 相手が猫だったからだろう、逃げていったようだ。


「嘘、だろ…?」

「…残念ながら。」

 男が首を横に振る。

 抱きとめられていたのは、不自然な方向に身体を曲げた猫だった。


 自分の飼い猫ではない。

 自分の家族ではないが、サボるたびに一緒に居た友達だ。

 そんな猫が最早死の直前にいて、医者に駆け込むまでもなく僅かな呼吸も止まろうとしていた。

 今まで感じたことのない喪失感とともに猫に触れた。


――俺が…俺が、変わってやれたら良かったのに。


 小さな猫より人間のほうが大きいのだ。

 助かる確率も違ったかもしれない。

 人間のほうが大きくて遠くから見えるから、ブレーキももっと早く踏んでもらえた。

 そんな同しようもないかもしれないが嵐のように脳内に湧き上がり、絶望感と喪失感で泣きながら彩は膝をつく。

 その時だった。


[対象に対する同情を確認しました。不幸値の吸収を起動します。]


 スーパーで聞くような機械的な女性の声が彩の中に響いた。

 右頬に温かみを感じるとともにそこから、寒気と悪寒のする何かヤバそうなものが流れ込む。

 それが全身を蝕むように広がっていく感覚と共に、彩は意識を手放した。

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