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観測者の所見。

作者: 長井瑞希

見守ろう、いつまでも。その時が来るまで、待ち続けよう。

 錬金術師という生き物は、何のためにその能力を使用するのだろうか。

 究極、それは自分のためか他人のためかという二つに分けられる。

 ある物は黄金を生み出すことを目的とし、またある者は不老不死を目的とし、またある者は完全なる人工生命体を目的とした。


 私の観察対象である彼の者は不老不死を目的としている。彼は愛する妻のためと言って妻を不老不死にすることを目指した。だが、彼の願いは……結局のところ自分のためでしかなかった。妻のきれいな姿を永遠に見ていたかったと、そういうわけだ。

 だが、自分のためであったと同時に妻のためでもあったのかもしれない。正確には、妻の欲望を満たしていたかもしれない、ということだが。

 女性はいつまでも美しくありたいと思っている。それはきっと、錬金術師という世間からは浮いている職業である者を夫に持つ女性であっても例外ではないのだろう。

 故に、いつまでも若い肉体で居られる不老不死という研究は、女性の願望を叶えるものであると言えるだろう。

 研究のためになかなか妻と顔を合わせない生活が続いても彼女が幸せだったかどうかははなはだ疑問だが。


 そしてついに、観察対象は、あくまで擬似的なものではあるが、あくまで不完全なものであるが、不老不死を完成させた。

 彼の者は真理にたどり着いた。だからこそ、不完全な不老不死だった。


 魔法も、魔物も、悪魔も、天使も。神さえが存在する世界であっても、不老不死というものは外道なのだ。正道では、ない。


 悲しいことに……いや、人類からすれば喜ばしいことに、彼は錬金術師であってもまともな倫理観の持ち主であった。


 妻のため、己のために大量虐殺を行うことにためらいを持った。いや、持ってしまった。


 それを行ってしまえば、人を超えたナニカになれたというのに。


 …………。


 ……。


 悲しい出来事であった。実に悲しい出来事であった。


 結局、彼は己を捧げることで妻を擬似的な不老不死にした。

 その甲斐も有り、彼女は通常よりも50年長く生きることが出来る、若い肉体になった。

 そんな彼女も、彼の後を追って自殺してしまったが。


 大量虐殺を、近くの街を、村を、国を犠牲にさえ出来れば、私と同じものになることが出来たというのに。


 私はホムンクルス。とある錬金術師が一つの街をイケニエに捧げて完成した、完全なるホムンクルス。

 生みの親である錬金術師も死んでしまった今では、新しい仲間の誕生を見守るため、その仲間を迎え入れるため、禁術に手を染める錬金術師を見守っている。

 さぁ、今日もまた錬金術師を観察しに行こう。

機械化するか他者の生命を生け贄にするか(正確には生命力を奪い自分たちのものにするという、大がかりな仕掛けが必要な、しかし個人でおこせるという魔術)それとも吸血鬼になるか。いずれにしても不老不死にまともな成り方は存在しない。

彼は生命力を妻に譲渡する形で死に、研究資料を見てしまった妻は後を追った。

ラブラブだし来世では幸せになっていることだろう。

いいなぁ、不老不死。

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