それって、僕の名前?
二〇一二年五月二十三日撮影、とにかく小さい!
『この猫、オスかな~? なんだか膨らんでる気がするけど……』
「かあちゃん」という大きなママが僕を持ち上げて、不思議そうに僕の〇〇を見ている。小さな身体を精一杯じたばたさせて、僕は逃げようと必死になる。男の子だって、判るだろ~! そんなに見るなよ! 放せ~!
『子猫のって見た事ないんだけど、この猫本当にメスなのかな? オスを育てた事もないから分からないよ~』
『繊細な感じがするから、メスなんじゃない? メスって言ってたから、きっとメスだよ』
大きなおばあちゃんが断言する。僕はやっと大きなママの手を逃れて、どこか人目につかない隠れる場所を探しながら、よろよろと歩く。
『わ~、かわいい! ねぇ、抱っこしていい?』
今度はすごい勢いで嬉しそうに大きなお姉ちゃんが、答えを待たずに僕を抱き上げる。なんだか僕は疲れてきたよ……。
『少しだけだよ、来たばかりで疲れるんだから』
女の子は嬉しそうに、僕をなでる。気持ちいいけど、あまり変な臭い付けないで欲しい……。
少し深めの段ボール箱が用意されて、その中に敷かれた柔らかいタオルの上に僕は置かれた。中に小さなトイレと水を入れてくれたけど、不安いっぱい僕はそのまま疲れて寝てしまったんだ。お姉ちゃんに、会いたいよ……。
二〇一二年五月二九日撮影、足サイズ二三・五のおばあちゃんの足と比較、本当に小さい子猫です。
『ちっちゃい、猫だな~。うろちょろしてると、踏みつぶしそうだ』
怖い声が聞こえて、僕は目を覚ました。大きな人が段ボール箱の上から、怖い顔で僕を睨み付けている。ふ……、踏みつぶす?
『いくら動物嫌いだからって、踏みつぶさないでね! はい、ミルク(市販の子猫用)だよ~』
大きなママが抗議しながら僕を抱き上げる。小さな瓶から美味しそうな匂いがして、ママのおっぱいの様な物が僕の口元に当てられた。お腹がすいていた僕は、迷わずそれを口に入れてごくごく飲む。おいしい~。
『仕事に行く時は急いでいるから、うろちょろしてると本当に踏むぞ! ちゃんと管理してね』
そう言って大きな人は、僕に関心が無いみたいに向こうへ行った。
『はい、はい。とうちゃんは怖いから、近付かない様にしようね~』
とうちゃんって、なに? ママが言っていた、パパの事? あれが大きなパパなの? 怖~い! 僕は大きなママにしがみ付いた。
『名前、何にするの~?』
『キンカン』
『え~、かあちゃん、単純! いくら金環日食の日に来たからって、それはないよ~』
『そ~お?』
名前っているの? ママは「子供たち~」って呼んでいたけど。僕は大きなママの服をふみふみしながら、寝る準備をしていた。お腹いっぱいになったら、僕は寝るんだよ。
『メスかオスか分からないからね~、どっちでも通用する名前にしないとね。何がいい?』
『ご近所の猫と名前が被るのは、駄目ね。それ以外でメスらしい名前がいいと思うんだけど』
大きなおばあちゃんは、僕を女の子だと信じて疑わない。男らしい名前がいいんだよ~。僕、もう寝るよ。
二〇一二年五月二九日撮影、少し分かりにくいですが背中に羽根のような模様があります。
『雑種だけど、模様はアメショのレッドタビーだよね。顔が少し白っぽいけど……。お、背中に天使の羽根みたいな模様がある』
『あ、ほんとだ。じゃあ、テンシ』
『どっちが、単純だ。あんまり神聖な名前は止めようね。早く天に召されそうだから』
『そ~なの? じゃあ、テンテン、テンコ、羽根、はねちゃん。かわいいじゃん!』
やめてくれ……。僕は大きなあくびをしながら、半分寝ている。
『はねちゃんか、呼びずらくない?』
『ミカンとか、ユズちゃんとか、女の子らしい名前がいいわよ』
僕は男の子だって気付いてよ~。
『茶色が濃いから、くりちゃんは?』
『クリ、クリン、ク~リリ~ン!』
『止めようね、有名なキャラの名前は!』
なんだか、訳が分からないよ。眠い。
『栗色か……、じゃあ、マロン!』
『お~、マロン。呼びやすいね。マロ~ン』
「なんでもいいよ」
僕の寝る前のつぶやきは、大きなママの耳には「ニャ~」という返事に聞こえたんだ。
『お、返事した』
『マロン』
「僕は寝るんだから~」
『おおっ、答えてるよ。マロンって気に入ったんだ』
「ニャ~」という言葉にしか聞こえないから仕方がないけど、まぁいいか「マロン」って名前でも。だって大きなママにも「かあちゃん」って、変な名前がついているんだから。
『マロン』
「おやすみ~」
僕はかあちゃんに抱っこされながら眠った。
次回から「かあちゃん」で通します(笑)