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君の声  作者: ひなた
7.終わりへと
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大切な場所

 吉宗は相当に嬉しかったのだろう。

 いつも以上に人の話を聞かない。早く出発したくて堪らない、といった様子なのであった。

 航海に必要なもの、舵取りまでを含めて慶喜が船を手配しようといっているのに、今すぐ出発したいからとそれを断る。

 そしてどうするのかと思えば、舞姫を抱き上げてぴょーんである。

「島を渡っていったら大陸には着くだろう。ただ、朝鮮や清でなくて、更なる西の地へ俺は連れていきたいと思う。距離があるから、舞姫、途中で疲れたとか、何かあったらちゃんと報告してな」

 紳士な笑顔で舞姫の頭をぽんぽんすると、舞姫を背負った。

 どうやら、おんぶして大陸を渡るつもりらしい。

「ええ、わかっています。吉宗様も、無理はなさらないで下さいね」

 耳元で囁いて、抱き締める腕に力を籠める。

 ぴったりと体を吉宗にくっつけて、心地好さそうに笑う姿は、愛らしい猫かのようであった。

 それに吉宗が反応を示してしまっているのは、いつものことなので、いうまでもないことであろう。何を今更と笑われてしまう。

 動揺しているところと合わせ、どちらもどうせ舞姫にしか知り得ないことなのであるし。

 走るのが速すぎて、だれにもその姿は見られないのだから。

「むっ、胸が、胸が当たってるっ」

 胸筋もなく、男なのだから膨らみもあるはずがなく、痩せた舞姫の胸は、ほとんどが骨と皮だけのようなもの。

 揉めば柔らかいかもしれないが、おんぶして、背中で感じられるほどの胸ではなかった。

 しかしあろうことか、反則にも近い技で、舞姫はそれをやってのけたのだ。

 男の身でありながらどのようにその誘惑をしたか。そんなの決まっている。

 だって男にも乳首はあるのだから♡

「ごめんなさい。嫌でしたか?」

「俺は嫌なわけがない。だけどどうしても意識しちゃうし、どうしても興奮しちゃうから、舞姫が嫌な思いするんじゃないかと思って」

 まるで本物の新婚夫婦のようであった。

 爆発しろと思うようなオーラを放ち、二人は西へと進む。

 周囲の人からしてみれば、何が通ったのかわからないけれど、とりあえず爆発しろという気持ちになるのだから、恐ろしいものだ。

 楽しくお話ししながらだったので、長い旅路の辛さもそうなく、二人は無事に欧羅巴にまで到達した。

 植民地を見ても仕方がないよなぁ。

 そう考えたため、スタートは英吉利本土だ。

 吉宗に話せるのは日本語、中国語、英語の三か国語だけなのだということも大きいだろう。

 仏蘭西語はともかくとして、独逸語や伊太利亜語はさっぱりなのだ。

「素敵ですけれども、私にはとても文字が読めず、何の店であるかがわからないのです。それに、ここまで上品ですともう恐ろしくって、尻込みしてしまいます」

 舞姫が英吉利の建物や人々に、怯えとも取れるような表情をしているのを見て、吉宗はまず彼を洋服屋へと連れていった。

 そうして、英吉利の婦人が着ているようなドレスを、日本人らしい顔をした舞姫にも似合うものを選んで着せてやった。

 日本でも男性としては小柄な舞姫であるから、英吉利に来ると子どものようにすら思えた。

 隣の吉宗が、大柄であることも大きいだろう。

「お前は本当に、どこまで可愛けりゃ気が済むんだよ。可愛いなぁっ」

「私は男ですから、可愛いなどといわれても嬉しくありません。けど、不思議なことで、吉宗様のお言葉ならばとても嬉しいのです。吉宗様のために、もっと可愛くありたいと思うのです」

「んだよ、それ。こっちはお前が可愛すぎて、独占したいのに、それが許されないようで、不安に思えているほどだというのに。これ以上可愛くなろうってのかよ」

 すっかりデレ状態の舞姫は、本人が気にせずとも、十分に優雅であり上品であった。

 阿保将軍の吉宗も、一通りの礼儀作法ならば身についている。

 英語がわからない舞姫の、そのサポートも正に完璧であった。何があっても舞姫が恥を掻かないようにと、注意を払っているようである。

 そんな吉宗の気遣いもあって、新婚旅行一日目in英吉利の巻は大成功となった。

 二日目は日本ファン主に幕藩体制ファンを増やすためのライブを行おうin仏蘭西の巻がメインとして行われた。

 薩摩藩は英吉利を、幕府は仏蘭西を。

 そういった形に割れたのは、吉宗のこの選択によるものだったり、じゃなかったりする。

 だって英吉利人は吉宗と舞姫のデートしか見ていないわけよ。日本はちょろいわりに美味しい→我が国のものにしない選択はない。亜米利加よりも先に、亜米利加なんかよりも絶対に先に!

 ってなるじゃん。

 だけど仏蘭西は吉宗のパフォーマンスを見て、すっかりファンなわけ。

 そうなったら、幕府を支援しない道はどこにもない。

 なのだから幕府側としても、仏蘭西を選ばない理由はない。

 歴史というのは背景が大切だからね、うんうん、ここテストに出るよ( ..)φメモメモ

 その後は、どこの国というわけでもなく、ふらふらと吉宗が走り、舞姫が興味を示した場所を楽しむといった感じであった。

 英語圏以外では会話も微妙なところであったが。


 早いもので、一カ月程度が経過した頃。

 遂に所持金が底をつき始めたので、帰らなければいけないことになる。

 欧羅巴をぐるりと旅して諾威まで来ていたところだから、吉宗も舞姫も満足そうな顔をして、土産を纏めて帰り支度をしている。

 さすがの吉宗も疲れたらしく、帰りはきちんと乗り物を使う。

「吉宗様、私は幸せです。寵愛を受けるというよりも、愛されているといえるような、この関係が幸せなのです」

 船の上で口説かれ続けた舞姫は、ほろ酔いのためか、そういって自ら吉宗の手中に入っていった。

 身を委ね、艶やかな笑みで襲われるのを待った。

「あれだけ堅物だったお前が、こんなにも淫らになってくれるとは。俺のテクニックにメロメロで、止められなくなっちゃったのかな」

 ふざける吉宗に、舞姫はちょっと不機嫌な顔。

「優しさに騙されているだけです。堅物だった覚えも、淫らになった覚えもありませんし」

 船でまでいちゃらぶを堪能した二人が帰った江戸は、出迎えてくれた人々は、二人がよく知る江戸の人々なのであった。

 享保の飢饉から救われて、以前にも増して吉宗を慕うようになった、吉宗が治める江戸の大切な人々だ。

 二人が旅していただけの時間は、ここでも経過していたらしい。

 心配よりも呆れられていたようだが、行方不明だったということだ。

「心配させたな、新婚旅行へ行ってきた」

「舞姫様、心配しておりました」「舞姫様、よくぞご無事で」

「将軍の俺はぁっ?!」

 江戸は今日も平和です。

 これで完結となります。今までありがとうございました。

 ちょうどぴったりですよ。文字数も時間も♡

 ちなみに国名など全て漢字にしてしまいましたので、難しそうなところはちゃんと書いておきます。諾威はノルウェーと読みます。

 それでは最後までお付き合い下さりありがとうございました。

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