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君の声  作者: ひなた
7.終わりへと
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世界進出へ

 明日の朝といってしまったせいで、本当に朝っぱらから、会議は行われることとなった。

 将軍ズは爽やかな笑顔を浮かべているし、舞姫は腰をさすりながらのご登場だ。

「何があっても避けたいのは、幕府が終わること。それと世界大戦。この二つだったよな」

 未来からではなくて、過去から来たんだよねこの人。そうツッコみたくなるところだが、慶喜は何もいわず、吉宗の言葉に頷いて返す。

 本来ならば吉宗の通訳をするべき舞姫も、ここのツッコミどころはわからなかったらしい。

 笑顔で話を先へと促している。享保の世は、それでなんとかなっていたのだ。

「倒幕運動は、たぶん、大丈夫だと思います。しかし海外からの攻撃を受けてしまっては、また幕府の力というものは、衰えてしまうことでしょうね」

「真似しているようじゃ、憧れているようじゃ、いつまで経っても馬鹿にされたままだ。だから逆に日本文化を海外に見せて、興奮させてやろうぜ」

 舞姫の言葉に慶喜が意見しようとすれば、大声で吉宗はいいだした。

 おかしなことをいっているわけではないのに、不穏な空気を纏っている。

 警戒してそちらを睨んでいれば、やはり奴はやってくれた。

「日本文化といえば、KAWAII! そう、可愛いだ! 可愛いものこそ、日本の誇るべき文化であり、世界のどこにも勝るもの!! 日本の可愛らしいものを持ち、海外の美人たちをあっといわせてやろう」

 といえばといわれても、周知の事実みたいにいわれても、だれも知らんがなである。

 ただ吉宗にとっては、日本文化といえば可愛いだったのだ。

 これは同じ夜を生きて、同じ世を渡ってきた舞姫にも、どうにもわからない。

「真似や憧れでは越えられないと、ここまではわかるのですが、日本は世界のどこよりも可愛いとは、一体どういったことなのです? 可愛らしいものならばどこにでもあるでしょうし、日本が特別、というようには思えないのですが。それに、ましてや日本文化だとも思えません」

 歌舞伎や相撲、浮世絵なんかを思い浮かべて、舞姫は首を傾げた。

 茶室や書院造の家を思い浮かべ、もっと古い日本の文化だろうかと、寝殿造りの屋敷で、蹴鞠で遊んだり和歌を贈ったりする平安貴族にまで考えは至った。

 それでも、可愛さというものが舞姫にはわからない。

「原宿にあるような可愛らしさも、秋葉原にあるような可愛らしさも、海外にはないものなんだ。日本にいると当然のように思えてしまうだろうが、それは特別なんだよ」

 まずは原宿や秋葉原を教えてくれよ、状態になってしまっていた。

 しかしあまりに吉宗が真面目な顔をしているものだから、ツッコもうにもツッコめない。

 真剣に、それっぽくいわれてしまったら、正しいことをいっているように思えてしまうからだ。従って、任せても良いと思えてしまうからだ。

 自分の無知のために、知る人をツッコむのは違うのではないか、と。

 知らない方が正しいなどとも、気付かないことだろう。

「ただ一つ、問題がある。メイドカフェは日本独自のものであり、海外進出はまだする前だろうが、残念ながらあのメイド服は西洋風だろう。イメージにあるメイド服はフレンチメイド服だからな」

 この人の頭だけはとっくの昔に文明開化しているのだろう。

 爆発した阿保っぽい思考の末に、数百年の未来にまで飛躍できるようになってしまったのだろうか。

 飛躍なんていつものことだけれど、一周回って天才の域にまでいったのだろう。

「そこで提案するのは、和装に身を包んだメイドカフェだ。和風の店もありはするらしく、そういった店では、和装を取り入れていると聞いた。どうだろう。外国人受けは最高だと思うのだが」

 ドヤ顔で決めてきた吉宗に、舞姫は全くの容赦がなかった。

 それが正論なのだから仕方がない。

「可愛い文化を求めて渡ってきた、元より日本への好意を持った、日本愛に溢れた日本大好き外国人なら嬉しいかもしれません。しかし日本へのイメージも持っておらず、日本に求めているものが、それというわけでもないこの時代に、和装メイドカフェというものが通用するでしょうか?」

 最初は周りと一緒に首を傾げていたが、吉宗の話を聞くうちに、全てを理解することができたらしい。

 そう、あの話で、できてしまったのだ。

 そして最後にはしっかりと止めを刺す。

「日本漫画やアニメの海外版が人気を博し、そのファンが日本を訪れる場合が多いです。それもなく、この時代では、だれも日本を知りもしないのではありませんか。ましてや、忍者や侍を求めてやってきて、そんなものもういないわ! ってツッコむところですのに、侍なんてゴロゴロいますよ」

 別に「ニンジャ、サムライ、ドコデスカ?」と日本人に訊ねて、「そんなものもういないわ!」とツッコミが入る。そんなやり取りで日本を楽しんでいるわけではないと思うのだけれど。

 どうやら舞姫の持っている外国人観光客のイメージがそれだったらしい。

 この時代この時代って、この人はどの時代から来たんだか……。

「会話の意味がよくわからないのですが、吉宗殿が治めていらっしゃった当時に流行っていたものなのでしょうか。わたしには、異国の言葉であるように聞こえるのですけれども」

 二人の世界に入ってしまって、止められなくなっていた吉宗と舞姫を、どうにか慶喜が止めた。

 他の人にはどう頑張っても無理なのだから、ここは将軍として止めなければならなかったところ。

 弱気なようにも見えるけれど、やるところはやれる、きちんとした立派な将軍様です。

「大体どれも元は英語だよ。だけどまあ、imageもanimationもKAWAIIも、もう日本語みたいなものだ。逆に日本語でいおうという方が難しいくらいだしな」

 どこで覚えてきたのかネイティブも驚くほどの発音で、吉宗は説明をしてやる。

 隣の舞姫は補足を加える。

「KAWAIIは日本語の可愛いがそのまま海外でも使われているわけですから、反対ですよ」

 本気でこの人たちは、いつどこで生まれ育ったのだろうか。

 明らかに貞享の日ノ本が生まれだとは思えない。

「もう、吉宗様ったら~」

「俺ったら、ついうっかりしてたぜ。てへっ」

「今度から気を付けるんだぞ☆」

 なんて古典的なボケもまだネタにはならない頃だろうに。

「……はぁ。異国についての知識は、相当にありそうですね。キリシタン弾圧が済んで時間の経った後に生まれたはずですのに、黒船の来航を知る由もないはずですのに、なぜ、どうしてそんなにも異国についてを知るのですか。もうそれならば、いっそ異国へと渡り、直接どうにかできないものですか?」

 英語が流暢なのはもうわかったことだし、知識もあるようなので、外国でもこの調子で人々の心を捉えてくることができると考えたのだろう。

 この二人の漫才は、世界に通用すると考えたのだろう。

 半分冗談八割本気で、慶喜は溜め息とも混ぜつつ呟いた。

 ちなみに全体が十三割存在しているのは、将軍の特権だ。

「それは素晴らしい。俺さ、新婚旅行は未来か海外って思っていたんだよな。未来の海外だなんて、両方を叶えられる、天才的じゃないか。本当に良いのか?」

 呟きをちゃんと拾って、嬉しそうに跳ねる吉宗は子どものようだ。

「日本ブームの前だから、日本好きは少ないだろうが、日本が好きすぎて黒船に乗り込んでしまうような人の対応はちゃんと丁寧にするんだぞ。または俺くらい天才的に上手く利用するか。とにかく俺らが海外にいる間、日本を守っておくんだからな」

 相手も将軍だというのに、とんだ偉そうな命令ぶりである。

 そもそも、本当に良いのかとは、だれに投げ掛けた質問であったのか。

 だれも返事をしていないというのに、勝手に話を進めている。

 そこで駄目という人はいないのだけれど、話は聞けよ馬鹿というとこだ。

「新婚旅行で海外へ。ついでに世界ツアーも行って、日本ファン主に幕藩体制ファンを増やし、幕府の危機を楽しく救っちゃおうの巻! お楽しみに~」

 はい、お楽しみに。

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