表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の声  作者: ひなた
1.暴れん坊将軍
2/21

勝手な将軍で困ります。

「……ああっ、んで……なんで……っ」

 他の男を犯しているときにも、舞姫のことが頭から離れなくなってしまっている。

 何度、空に「なんで」「どうして」と問いかけたことか。

 行き場のない想いを、吐きだして放出して絡め取って、それでも吉宗はもやもやを抱えていた。

 そんな吉宗を反映するかのように、立て直しかけた経済状況さえ悪化していく。

「なんで、なんでなんだよ……」

 頭を抱え、吉宗は嘆いた。

 しまいには、吉宗はおかしくなっていき、舞姫のせいで不幸になったとまでいいだした。

 江戸の街の乱れ。舞姫による拒絶と信頼の眼差し。

 何もかもに責められているように感じ、遂には塞ぎ込んでしまう。

 たった一年さえも経たないうちに、吉宗は変わってしまっていたのであった。

 もう八代目将軍は暴れん坊将軍ではない。

「吉宗様、元気がありませんけど、どうしたのですか?」

 彼の様子を見かねてか、一人の人が問いかけた。

 あんなにむちゃくちゃで優しかった吉宗がいなくなってしまう。

 むちゃくちゃだけど優しかった吉宗。自分はそんな吉宗のことが、なんだかんだ好きだったのだ。

 寂しくなった舞姫は、出会った頃のように問った。

「へこんでいる暇があったら、仕事をなさってはいかがです。警戒心なく相も変わらず無防備なんですから、待っている民のもとにでも行けば良いでしょう」

 限りなく優しくいう舞姫。

 その微笑みに吉宗が見惚れていると、そっと舞姫の方から吉宗に口づけたのだ。

 触れたこともわからないほどふわりと軽く。

 甘い口づけを落としたのであった。

「舞姫……。飢饉にも負けない国作り、お前も隣で支えていてくれるよな?」

「ここで否と答えたところで、あなたは私を隣にいさせるのでしょう? 自分勝手な将軍様です」

 久しぶりに元気で彼ららしいやり取りを交わし、吉宗は民と会い声を聞くために歩きだした。

 初めて舞姫からしてくれた、甘い口づけ。

 その感触を残しておきたいから、今日は口づけるのをやめておこうか。その愛しさは止まらないから、今日は意見を聞くだけにしておこうか。

 だって今の吉宗には、舞姫以外を想うことなど、できるはずがないのだから。


挿絵(By みてみん)


「お前らの意見を、俺に聞かせてはくれないだろうか」

 今度は民を招くどころではない。

 そうではなく、吉宗の方から街へ出向いて、実際にその様子を見ながら話を聞こうと判断したのだ。

 ――警戒心のなさは変わらないんだな。これじゃあ、注意をしたのは無意味だったみたいだね。

 街の状態や目で見たものを伝えてくる吉宗。

 それを聞きながら舞姫はそんなことを考えていた。

「でも俺、今日は一度も接吻をしていないんだぜ? お前の甘さを消したくなかったからな」

 恥ずかしげもなくそんなことをいう吉宗と、恥ずかしさで顔を赤くする舞姫と。

 そこにあるのは一時的な幸せ。

 彼らのもとにあるのは刹那的な幸せのみ。

 微笑み合う穏やかな時間が長く続きはしないようで、運命は二人に牙をむく。

 それは鋭く過酷な牙を。


 そんなことを知る由もない二人は、幸せは永遠だと信じきっていた。どんなことも二人なら怖くないのだと、信じきっていた。

 二人の身分を忘れ――。

 読んで下さっている方、応援して下さっている方、ありがとうございます。


 ここまでが、プロローグのようなものになっています。

 次回からはコメディーの名に恥じないように、思いきりふざけていこうと思いますので、それでも大丈夫だよ、という方は付いてきて下さい。

 これからも宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ