展示品
何故私はここに居るのだろうか、と考えた事は有る。
それは、あり過ぎるほどに、有る。
目が覚めたその時から、今この瞬間に至るまで何度となく、改めて考えるまでもなく、当たり前過ぎる疑問として、ふと気づけば考えていた。
しかし、その答えは一向に分からない。多分、今の所、誰も答えを持たないのだ。いや。あるいは、あの人なら知っているかも知れない。私をここへと連れて来たあの人なら。
そう思いはするものの、連れて来られてから早六年が経つが、未だに何故だか恐ろしくて、聞けずにいる。
幼い少女が母親に手を引かれていた。
「ままぁ。あのおねえちゃんきれー」
少女は繋いだ手をくいっと引っ張り、母の歩みを止めさせた。
私のガラスを隔てた向こう側で、少女はキラキラと瞳を輝かせ私を指さしている。母親は少女を振り返った。母親も私を見る。そして少女に「そうね」と笑顔を返した。
「ねぇ、まま。なんでおねえちゃんはがらすのなかにいるの?あそこがおねえちゃんのおうちなの?」
少女は素朴な疑問を口にした。
「そうねー•••••••、あそこに居るのがお姉ちゃんのお仕事なの」
「おしごと?」
母親は少女に言いにくい事を上手く隠して説明した。
「そう。綺麗なお洋服を着て、可愛くお化粧して、芸を披露して、皆んなに見てもらうのがあのお姉ちゃんのお仕事なのよ」
綺麗なお洋服、可愛いお化粧と聞いて少女はいっそう瞳を輝かせる。
「まま!わたしもおおきくなったらおねえちゃんとおなじおしごとしたい!きれーなおよーふくきたい!!」
大きな声で夢を語った少女に、母親は目を丸くし、慌てて咎めるように言った。
「ダメよ!こんな事、人間のする事じゃないわ!」
少女は母親の反応も、言っている事も理解出来ず首を傾げた。
「にんげん?おねえちゃんはにんげんじゃないの?わたしとおんなじじゃないの?」
「違うのよ。お姉ちゃんは外のヒトなの。私達とは違う生き物なのよ」
母親は言い聞かせるようにはっきりと言い、まだ納得しきっていない少女の手を有無を言わさず引いて歩き出した。少女は名残惜しそうに私の方を一度肩越しに振り返ったが、母親に逆らうこともなく、良くは分からないがそう言うものなのだ、と疑問を感じる事を辞めたようだった。
それは世界の縮図のようだった。
疑問も、自分の感じたモノも、大きな世の中の流れに飲み込まれて、曖昧になって、ぼんやりと輪郭を無くし、大多数の意見に沿って生きて行く。その行為に何も思う事など無くなって。
しかし、あの母親は嘘は言っていない。
私などに憧れるものではない。
少女は元々内側の人間で、私は外側のヒト。少女は選ぶ権利を持つ者で、私は持たない者。
連れて来られて、檻に入れられて、見せびらかされる、ただのヒト。
人間と言う権利と尊厳を持った生き物では無い。ヒトと言う、動物。
そう、私はただの展示品でしか無いのだから。