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まあ、メイドですので  作者: いけがみいるか
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潮凪家の事情

「「「ご馳走さまでした!」」」

「はい。お粗末様です」


 海斗達はセーラの料理を残さず食べ尽くし満足げな表情を浮かべていた。セーラはすぐさま食器を片付け、洗い物を始めた。


「ふぅ~食った食った。こりゃ当分外食とかしなくていいな」

「そうだね。むしろ外食の方が物足りなくなりそう」

「えっ?じゃあお父さんのご飯は?」

「いらな~い」


 ひまわりの無邪気かつ残酷な言葉にプライドみたいなものを粉々に砕かれた聡はリビングの隅でいじけ始めた。しかし、それでは困る。なんせ今からセーラのことについて色々と聞かなければならないのだから。


「ちょ、おじさん。飯も終わったんだし説明してくれよ。いじけてないでさ」

「ん? あぁ、そうだったね。忘れていたよ」


 忘れないでくれよ。これからの俺の人生に関わりそうな話なんだから、と思う海斗だった。


「ではでは、ここに二つの紙の束があります」

「……えっ? なにが始まった?」

「さあ?」


 蜜柑も何が始まったのかわからないようだった。その二人の表情を見て聡は説明を加えた。


「右がわかりやすく説明するための絵本の束。左が詳しく説明するための小説の束です。さぁ、どっちにする?」


 正直、マジでどっちでもいい。でも、ひまわりもいることだし、絵本にした方が良さそうだと海斗は判断した。


「絵本で」

「やっぱり。ひまわりのことを考えて海斗君なら絶対にそう言うと思ったから絵本の方しか書いてないんだよね」

「じゃあ今の選択肢に意味はあったの?」

「あはは。ないよ」


 自分の父の意味不明さに、蜜柑も頭を抱える。大変だなこんなのが親で、と蜜柑に同情する海斗。ていうか絵本とか描く前に小説書けよ小説家。


「じゃタイトル『潮凪家の憂鬱』始まり始まり~」


 タイトルが色んな意味で駄目すぎる。絵本としても駄目だし、憂鬱というワードはかなり危ない。だが、そんなことはお構い無しといった様子の聡は紙芝居のような絵本をめくり始めた。


「むか~しむかし。と言うほど昔でもないある日のことです──」


~~~


 潮凪海斗の祖父にあたる男、潮凪海路(しおなぎかいじ)は世界的な海洋貿易会社の社長であった。そんな海路は、後に潮凪海斗の祖母となる、海洋生物研究家の美舟(みふね)と結婚し、そして二人の息子に恵まれました。

 長男を海燕(かいえん)、次男を(ひろし)と名付け、家族四人で暮らしていました。

 その二人の息子はスクスクと成長し、やがて大人になりました。海路は長男の海燕に自分の会社を継がせようと考えていました。そのために色々と根回しをし、結婚相手も見付けてきました。しかし、その海燕は急にどこの誰ともわからない女の人を連れてきてこう言いました。


「俺、この人と結婚するわ」


 勿論海路は猛反対しました。しかし海燕は一歩足りとも譲りませんでした。ついに、堪忍袋の緒が切れた海路は海燕を勘当し、親子の縁を切りました。

 海燕も望むところだと、潮凪家を去り、戻っては来ませんでした。


 なので海路は洋に会社を継がせました。洋は海燕の代わりに海路の期待に応えようと頑張りました。その結果、会社は更なる進歩を遂げました。海路はその時思いました。洋を社長にして正解だったと。


 しかし、それは長くは続きませんでした。洋が39歳の時、突然の病で倒れ、そのまま息を引き取ってしまったのです。

 皆悲しみに暮れましたが、いつまでも悲しんでいるわけにもいきません。次期社長を決めねばならなかったからです。最初に案に挙がったのは洋の息子、洋二(ようじ)でした。歳はまだ19と若かったけれど、さすが洋の息子と言うべきか、かなり頭の良い者だった。なので、自分たちがサポートしてやりながらやっていけばいい。そう考えていました。


 ですが、そうはなりませんでした。洋二は社長にはならない。と断言したのです。理由を聞くと、彼は宇宙飛行士になりたい、という夢を持っていました。皆一笑に付しました。どうせ叶わぬ。それよりも社長になれ。誰もがそう言いました。しかし、洋二は本気でした。故に勉強もスポーツも頑張ってきたのだと。でも海路も引き下がらず、押し問答が続きました。


 結果、洋二は家を出ました。かつての海燕と同じように。


 このままずっと社長の席を空けておくことも出来なかったので、次に案を考えた。挙がった案は自分が再び社長になる、というものだった。現状、他に手段はなく、暫定的に海路が社長になりましたが、海路は既にかなり歳を重ねている身。いつお迎えが来てもおかしくはない。


 ならせめて、自分が生きている間に後継者を見つけておきたい。と考えました。

一番良いのは、洋二を説得すること。しかしそう簡単ではないし、万が一断りきられたとしたら、己の築いたすべてを他人に渡してしまうことになる。

 故に海路は保険をかけておこうと、昔勘当した海燕を探しました。ですが、その海燕も既に他界していたのでした。そして同時に、その忘れ形見である子供も見付けました。その子の名は──

 

~~~


「──潮凪海斗と言いました」

「ちょっと待って!!」


 余りに聞き覚えのある、ありすぎる名を聞き、今までずっと気のせいだ、と思い込みツッコまずに黙っていた海斗だが、思わず声を出してしまった。


「えっ?まだあとちょっとあるんだけど……」

「それは今はいいよ! それよりもマジな話なのこれ?!」


 海燕。やっぱり海斗の父の名前だった。

 海路。昔一度だけ祖父のことについて聞いたことがあった。その時名前しか教えてくれなかったが、社長をやってるなんて聞いてない。

 洋。叔父にあたる人がいたことも、そして亡くなったことも今初めて聞いた。

 洋二。海斗のいとこにあたる人。勿論知らない。宇宙飛行士目指してるなんて知る由もない。


 急なことに頭がパニックになってしまった海斗だが、聡は落ち着いた口調でなだめ、海斗も次第に落ち着いていった。


「ね~え? かいえんってあの写真の人のお名前だよね?」

「ん? あぁ、そうだ。俺の父さんの名前だ。よく覚えてたな」


 写真の人。ひまわりにとっては文字通り、仏壇に飾られている写真の人でしかない。ひまわりが産まれる前に二人は死んでしまったのだから当然だ。

 海斗はひまわりの頭を撫でながら両親のことを思い出し、ひまわりの産まれた日を思い出す。その時、海斗はひまわりが二人の生まれ変わりのように感じた。勿論そんなわけはないのだが、海斗はひまわりのことをとても可愛がっているのだった。


 海斗が物思いに耽っていると、蜜柑が冷めた目で聡を見やる。


「つまり、カイ兄は金持ち社長の孫ってこと? それ、どこの漫画からパクったのお父さん」

「パクり前提なんだ、蜜柑の頭の中では……。お父さんそんなことしないよっ」


 タイトル……。とは思ったが、口にするのはやめておいた。


「でも確かに蜜柑の言う通りだって。そんな話、すぐ信じろって言われてもさ」

「ですが、聡様の話は事実なのです」


 セーラが洗い物を終わらせて海斗達の会話に混ざってきた。


「三ヶ月前に洋様が亡くなられて、洋二様は家を出てしまいました。潮凪の血を継いでいるのはもうご主人様をおいて他にいないのです」

「と、言われてもな。俺だっていきなりそんな話されても困るって」


 それに正直そんなものに興味はなかった。確かに洋二のようにしっかりとした夢はない。でも、海斗は今の生活がとても気に入っている。それを捨ててまで金持ち社長になるつもりはない。しかし、セーラは海斗の反応を予想していたのか、優しく微笑んだ。


「もちろん。海路様も今すぐ後を継げとは仰っていません。そもそもご主人様はまだ高校生ですし、まだまだ社長の器ではありません」

「そ、そりゃそうだな。こんな若造がいきなり社長になるわけないよな」


 海斗はほっと安堵した。しかし、次のセーラの言葉を聞き、再び混乱することになる。


「ですが、後継者の一人であることに代わりはありませんので、今回私がご主人様のお世話を仰せつかったのでございます。ですので、これからよろしくお願い致します。ご主人様」

「あぁ……うん。よろしく……」


 ………ん? ……んんんんん???

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