砂城家の日常
海斗とセーラは今、瑞希の家である喫茶店「珊瑚礁」にいた。
榎本家の方には今日は瑞希の家で食事してくると連絡を既に入れてある。
電話に出たのは聡だった。その聡は今日は久し振りにお父さんの実力を子供達に見せてやる。と張り切っていたが、少々不安になる海斗だった。
そして今は聡の心配をしている余裕も無かった。
「これは、食える。でも、見た目が残念スね」
「うん、これは駄目だよお父さん。見た目だって重要なんだし」
「わかってるって。これは失敗作だ。しかも失敗作の中でも一番形も悪かったのが海斗の食ってるそれだ」
「何でいちいち余計な事言うんすか。言わなければいいのに!」
海斗が剛を半目で睨みながら、剛曰く一番の失敗作のデザートを頬張っていた。
「でも美味しいです。これで失敗作なのですか?」
「お、おう。ありがとよメイドさん。ところで瑞希」
「なに?」
「ちょっとこっちゃ来い」
「なんなのさ?」
剛は手招きをして瑞希を呼び出し、海斗とセーラから離れた場所でしゃがみこみながら耳打ちをする。
「何なんだあの子? さっきの発言も意味がわからんし。俺にわかるように簡単に説明してくれ」
「あの子? あぁ、セーラさんね。私もそこまで詳しいわけじゃないけど」
瑞希は一通り知り得る情報を剛に話すことにした。
「実は海斗は金持ち社長の孫で、セーラさんはその海斗の世話係りで、今一緒に暮らしてるみたい」
「……瑞希。お父さん悲しい。まさかお前がそこまで現実とフィクションの区別がついていないなんて」
「うりゃ!」
「あいたっ!? ぶったな、親父にもぶたれたことないのに!? 嘘だけどっ!」
「うるさいっ! 親父はお父さんでしょうが。あと、フィクションじゃないから。現実だから。ノンフィクションだから!」
わざとらしく嘘泣きの真似をする剛に瑞希は容赦なく右ストレートを放つ。
親子ならではの容赦の無さなのだが、端から見ていたセーラは少し驚いていた。海斗は既に見慣れた光景と気にすることなくコーヒーを飲む。
「自分の娘の言葉が信じられないってこと?」
「いや、そういうわけじゃあねえが……。はい、わかりました、ともいかねえだろ?」
「む……。まぁ、確かにそうだけど」
剛の言うことも尤もだ。そんな話をすぐ信じられる人間の方が少数だろう。
しかし、まごうことなき事実であるので瑞希もどうすればいいのかわからない。
「とりあえず、そう言うことだって理解しておいて」
「ふむ。まあ、わざわざ瑞希が俺にそんな嘘吐く必要もねえわけだしな。わかった。それじゃようやく本題だ」
「えっ? 本題まだだったの!?」
普通に驚いてしまった瑞希は思わず声が大きくなってしまう。あっ、と口を押さえながら剛の言葉に耳を傾ける。
「で、何?」
「海斗とは最近どうなんだ?」
「ぶふぅ!?」
予想すらしていなかった剛の突然の言葉に瑞希は吹き出す。
「どどどど、どうって何よ!?」
「何よも何も。言葉通りの意味だっつの。それどころか今の話を聞いて余計に気になったわ」
剛は真っ赤になっている瑞希を複雑な表情を浮かべながら見つめる。
剛にとって、瑞希は妻と同じくらいに大切なものである。そして次に大切なものが、彼の親友だった男、潮凪海燕の忘れ形見である海斗なのであった。
剛は海燕の死後、よく海斗の世話を焼いていた。少しばかり厚かましいとは思うがもう一人の親父であると思っている。
だからあまりしつこく言うことはないが、瑞希と海斗がくっつけばいいと思っているところがある。
娘をただでやるつもりなど毛頭ないのだが、だからと言って突然現れた違う女の子に海斗がなびくのも、それはそれで面白くないと思っていた。
勿論最後は海斗や瑞希自身が決めることだと思っている。だからこれはただの剛の願望である。
「で? どうなんだよ? ほれほれ言ってみ」
「う、ううう! そ、それは……」
「……あれ? 二人でこんなところで何してるんですかぁ?」
しゃがみこんでいる瑞希と剛の頭上から、間延びした声が聞こえてくる。
見上げるとそこには瑞希の母であり、剛の妻、砂城皐が見下ろしていた。
「お母さん。お父さんがプライバシーの侵害をしてくるの」
「皐よ。瑞希がもたもたしているから新たなライバルが出現したんだ。だから現状報告を求めていただけだ」
瑞希と剛は立ち上がって皐に訳を話していた。
「瑞希ちゃん。お母さんも詳しくお話聞きたいわ。メイドちゃんのことも。海斗君とのことも」
「うわっ! 二対一になった!」
「流石は俺の嫁だっ! はっはっは──」
「あぁ、お父さんは聞いちゃ駄目ですよぉ。女の子だけでお話しをしてきますので」
「それはあんまりだろ皐ィィィイ!」
賑やかな家族三人を遠めから見る海斗とセーラは既に空になった皿を自分達で片付る。
「砂城さん一家はとても楽しい家族なんですね」
「うるさいとも言うけどな」
親しい故の辛辣な海斗の台詞をセーラは楽しそうに聞き、砂城家の三人を優しい目で、とても羨ましそうに見つめていた。




