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まあ、メイドですので  作者: いけがみいるか
19/25

ラブレターの主

 ラブレターは昨日とほぼ一緒の内容だったのだが、呼び出す時間が昼休みに変わっていた。

 理由はわからなかったが、おそらく深い意味など無い。ただ単に早く答えを聞きたいから、とかそんな感じの理由だろう。というのが瑞希の推測だった。


 昼休み、大樹は昨日呼び出された場所、つまり告白スポットである体育館裏を訪れていた。

 ちなみに万が一のことを考えた海斗と瑞希が隠れて着いてきていたが、大樹はそれに気付いていた。

 面白半分、心配半分で着いてきているであろう悪友達を追い返そうかとも思ったが、結局放置した。


 体育館裏には既にラブレターの主がいた。

 名前は森塚久留美(もりづかくるみ)。一年一組に在籍している茶髪で明るい少女。

 友達も多く、見た目だけなら充分可愛い部類に入る容姿をしている。


 しかし男子からはあまり恋愛対象として見られていない。原因は一つ。


「あっ、山笠くん。来てくれたんだね」

「まあ……手紙貰ったしな」


 心の中で「二日連続でな」と飽きれていたが、大樹の目の前にいる少女は大樹が来てくれたことが嬉しいらしく、笑顔を振り撒いていた。

 本音を言えば、この笑顔は素直に可愛いと言えるし、この笑顔だけを見れば付き合いたいと思う男子も今よりは増えるだろうに。と大樹は考えていた。

 が、そうはならない理由があった。


「ねぇ。それで、気持ちは変わったかな?」

「……あのな森塚。お前の気持ちもありがたいんだが、お前の気持ちが昨日と全く変わらないのと同じように俺の気持ちも昨日と全く変わってないんだよ」

「ん~。そっか。残念……。なら、明日は? それとも明後日なら? あっ、一週間後とかならどう?」


 大樹は頭を抱えた。そして失礼を承知でこう思った。森塚久留美はアホの子だと。


 瑞希の予想は的中していた。大樹からしてみれば何で昨日の今日で気持ちが変わっていると思ったのか不思議で仕方無かった。


 しかし、現に今こうして久留美は二度目の告白|(?)をしている。だから大樹も真剣に向き合うことにした。


「悪いな森塚。たぶん、俺の言い方が悪かったんだと思う」

「えっ?」

「付き合うつもりがない、ってのは本当だが、それは別に彼女が欲しくないとか、そういう意味じゃない」


 大樹は一瞬、すぐそこにいる二人の悪友を気にしたが、構わず話を続けた。


「俺には、好きな奴がいる。だからお前の気持ちには答えられない。告白は嬉しいし、申し訳ないとも思う。でもこれが俺の答えだ」


 大樹は真摯に、真剣に答えた。これで例え久留美を傷付けることになるとしても、誤魔化すようなことは彼女の前ではしたくなかった。


 そして、久留美は──


「そっか。わかった。なら、友達からお願いしますっ!」

「……へ?」


 正直、大樹は好きな奴が誰なのかを聞かれたり、泣かれたりするものだと思っていた。しかし、返ってきたのは「友達」になってほしいというお願いだった。


「えっ、と。え? 友達? 俺、好きな奴いるって言ったよな?」

「うん。それはわかった。ほんとのこと言うとかなりキツい。でも、山笠くんはまだその人と付き合ってるわけじゃないんだよね? なら、まだ私にもチャンスはあるわけでしょ? だからまずは友達になって。お願いっ!」


 大樹はこの時呆気に取られていた。まさかそう返してくるとは想像もしていなかった。アホの子だと思っていたが、本当はそうではないのかもしれない。

 それに悪い気もしなかった。まさか、ここまで自分に惚れられているとは思ってもみなかった。


 大樹はここに来てからはじめて優しい笑顔を見せた。


「友達、ね。それはいいんだけど、俺の気持ちが変わるっていう保証はないんだぞ? それでもいいのか? もしかしたらお前にとって嫌な想いをすることになるかもしれないんだぞ」

「そこは全て自己責任でしょ? チャンスはあった。それを活かせなかった。なら、それは全部私が背負うことだし、山笠くんが気にすることじゃないし。それに」

「それに?」

「例えこれからどうなっても山笠くんが友達だってことは変わらないでしょ? 友達が増えて嫌な人なんて、いないと思うよ」


 やられた。本当に見事なまでに一本取られた気分だった。

 大樹は出会った時が違えば、どうなっていたかわからないくらい、久留美のことを気に入った。


「そっか。なら、これからよろしくな。久留美。俺のことは大樹って呼んでくれていいぞ」

「ふぇあっ!? あ、えと、よ、よろしく、お願いします。大樹、くん」


 大樹と久留美は今日、こうして友達となった。


~~~


「行くよ、カイ」

「あぁ」


 瑞希と海斗は二人の顛末を見届けてから、静かにその場を去った。

 心配など必要無かった。むしろ、変に疑った自分達が恥ずかしくなるような純愛だった。穴があったら入りたいまでの勢いだった。


「私さ。森塚さんとは体育で何度かグループになったことあるんだ。森塚さん、クラスでも飛びきりのお馬鹿キャラらしくて、運動神経は悪くないんだけど、すごくドジでミスも一杯するんだけど、絶対諦めたりとか落ち込んだりしないんだよね」


 何故か海斗にはその姿が容易に想像出来た。それは今しがた見たばかりだ。


「そういうところ、私、本当にすごいな。って思う。尊敬する」

「俺もそう思うよ。すげえ格好良い。俺には真似出来ないだろうな」


 海斗はそう言ってから、次に大樹の台詞を思い出していた。


 大樹の「好きな奴」のことについてを──


~~~


「──っつーわけで、新しく友達になった森塚久留美だ」

「森塚久留美でっす。気軽にクルクルとかルミルミって呼んでくださいっ。よろしくお願いしまっす!」

「よ、よろしく……」


 海斗と瑞希は何事も無かったように弁当を食べていると、こちらも何事も無かったような顔で教室に戻ってきた。

 例の森塚久留美を連れて。


 その時教室はざわついた。


「な、まさか……山笠に春が来たのかっ!?」

「えっ嘘でしょ!?」

「潮凪くんはどうするのよっ」


 などなど。


 海斗と瑞希は先程とはまるで違う久留美のハイテンションにもかなり驚いた。大樹と友達になったことがかなり嬉しいらしい。しかし、二人がどもった理由はそこではない。

 久留美からは見えないだろうが、その後ろに立つ大樹はかなりすごい目付きで睨んでいたからだった。

 大樹の目は「お前らに説明は不要だよな。なんせ覗いてたんだからな」と言っていた。

 実は二人はあの尾行はバレてないものだと思っていたので、かなり驚いた。


「お前ら、何固まってんだ。自己紹介しろよ」

「お、おう、悪い。俺は潮凪海斗」

「溺れてた人ですねっ」

「……あぁ、そうです」


 その覚え方はどうか勘弁してもらいたい海斗だった。


「私は、知ってるよね?」

「うん。体育の時のおっぱいの人」

「ちょっと待って何それ!? 何でそんな覚え方!? 瑞希! 砂城瑞希だからねっ!」


 その覚えられ方もあんまりだな。と思う海斗だった。


「あ、そ、そうだ。なぁ。ちょっと提案があるんだが」


 海斗は色々と誤魔化すために昨日、栞と交わした約束を思い出し、その旨を三人に話した。


「なるほど。親睦会も兼ねていいかもな」

「うんうん。友情を深め愛を育む第一歩だよね」

「私もいいけど、それならセーラさんも呼んだら?」

「そう、だな。わかった。言ってみるよ」


 意外と皆が乗り気だったので海斗は一安心だった。当初の予定より二人ほど増えたが、問題はないだろうと思った。

 ただ、栞に連絡先を聞いておくべきだったと軽く後悔した。

 明日にでも連絡先を交換しようと決めた海斗だった。


~~~


 本日最後の授業終了のチャイムが鳴り、棗が教室へと入ってきてプリントを配る。

 水曜日は授業が五時間だけなので、普段より早く終わる。その日に合わせて瑞希は約束を取り付けていた。

 瑞希は昼休みに海斗が提案してきたことを思い出していた。

 当初の海斗の予定では海斗、大樹、瑞希、栞の四人で遊ぼう。といったものだったらしいが、今日友達になった久留美と折角だからとセーラも誘うこととなった。

 確かに皆で遊ぶことに対しては瑞希も賛成だったが、どうにも気になる点があった。それはもちろん、栞のことだ。


 久留美は今日突然決まり、セーラは瑞希自身が誘ったので、海斗に思うところは何もなかったのは明白だが、栞だけは違う。

 栞だけは海斗が個人的に誘ったのである。しかも今回の企画は栞のためでもあるように思えて仕方ない。何かあるのかもと勘繰ってしまうのもしょうがないと言える。


(まさか、その気があるってこと……? でもあの海斗が? あり得ない。だけど……)


 机に突っ伏しながら考え事をする瑞希に前の席に座る生徒からプリントが配られてきたが、一向に受け取ろうとしないので、頭の上にプリントを置かれた。

 しかし瑞希はそれにすら気付かずウンウン唸っていると、プリントの上から軽く叩かれた。


「何をしてるんだ砂城。号令はどうした?」

「あっ……」


 出席簿で自分の肩を叩きながら棗は瑞希を呆れた眼差しで見つめる。

 気付けばクラスのほぼ全員が自分を見ていた。どうやらもうホームルームの時間は終わっていたらしい。

 なので、日直である瑞希が号令するのを待っていたのだが、その瑞希が頭の上にプリントを乗せながら唸っているだけで、痺れを切らした棗が瑞希の頭をその出席簿で叩いたのだった。


「き、起立っ! 礼!」

「それじゃ気を付けて帰れよお前達」


 棗はそう言い残して教室を出た。瑞希はそれを見届けた後、すとんっ、と椅子に座り直した。


「あぁ、恥ずい……。まったく、カイじゃあるまいし」

「その俺なら有り得るみたいなこと言わんでくれるか? ……いやまあ、確かにこの前も叩かれたばかりだが」


 気付くと瑞希の席のすぐ近くまで海斗がやって来ていた。

 

(くっ。全部カイのせいの癖に……)


 瑞希は中々に理不尽なことを思いつつ、気を取り直して鞄を手に持ち立ち上がる。


「それじゃ、早速今から行くよ。荷物持ち」

「その呼び方やめれ。で、どこ行くんだよ?」

「それは行ってからのお楽しみさ」

「楽しくはなりそうにないな」


 わざとらしく溜め息を吐く海斗を横目で見ながら、瑞希は無意識の内に軽く笑いながら教室を出て、海斗も何だかんだ言ってその後を追った。


~~~


 そんな二人を机で頬杖を突きながら見守っていた大樹は何かを考え始めていた。


「さて。俺はどうすっかな。…………よし、尾行だな」

「尾行っ! 面白そうですねっ!」


 大樹は自分の独り言にまさか返事が返ってくるとは思っていなかった。

 声こそ出さなかったが内心かなり驚いた。

 正面を向くとそこには久留美の姿があった。


「おい。気配を全く感じなかったぞ?」

「やまが、じゃなかった。大樹くんは気配を探れるの? 格好良いねっ」


 本気とも冗談とも取れる返答に苦笑しつつ、尾行作戦の道連れが増えたことを悟った大樹だった。

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