夏がはじまる
「……暑い」
いかんともしがたい暑さに襲われ、潮凪海斗は目を覚ました。
時計を見ると、まだ六時だった。学校へは家から三十分もあれば着くのでもう一度寝ようと試みたが、暑苦しくてやめた。
せっかくいつもより早く起きたので、今日は豪華な朝食でも作ってみようかと思ったが、暑くてやる気がなくなったのでやめた。慣れないことはするものではない。
なのでいつも通り、コンビニで買ってあったパンを食べながら、ニュースを見る。内容も実に平凡そのもので、これといった事件もなく、ただ、これからもっと暑くなるということだけだった。
「マジかよ……」
しかし海斗にとっては非常に由々しき問題だった。ただでさえ暑がりである海斗には今でも十分過ぎるくらいだというのに、まだこれ以上に暑くなるなど耐えられる気がしない。
はぁ、と溜め息を漏らしつつ、パンの袋を投げ捨てる。その袋はゴミ箱には入らず、床に落ちる。四畳半しかない部屋のあちこちにゴミは散らかっており、所謂ゴミ屋敷のようになっていた。
ただ、一ヶ所だけ綺麗にされている場所があった。仏壇だ。そこには二人の男女の写真があった。海斗の父と母である。海斗の両親は海斗が七歳の時に事故で他界していた。海斗は仏壇の前に座り、手を合わせる。
「それじゃちょっといつもより早いけど、そろそろ行くわ」
そう言って海斗は鞄を持ち、家を出た。
──その数秒後、海斗は家に戻ってきた。
「やっぱ、今日はサボるわ。外暑すぎ……」
そう言うと、そのまま布団に倒れ伏した。
しかし、クーラーも扇風機もないこの部屋にいたところで暑さがましになるわけでもなかった。なら、冷房が効いてる学校へ行った方が得だと思い直し、再び外に出ようとした。その時ふとあるモノに目がいった。
「うぁ……。そういや、今日からだっけか。たりぃな~」
とはいえ、サボるとあの鬼教師と悪魔幼馴染みに何をされるかわかったものではない。そもそもついさっきまで学校自体をサボろうとしていたのだが、そのことはすっかり忘れて、溜め息を漏らしながらソレを鞄に詰め込み、今度こそ学校へ向かった。