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第参話、妖怪は考察する

 ある日の夜。とある洞穴の中で火を囲みながら酒――人里から奪ってきたのであろう――を呑みつつ、とりとめも無いことを話している二人の人型がいた。その周りにいるのは、あまり力も強くない小妖怪が数十匹ほど。

 人型の内、一人は厳つい顔に身体つき、祭事まつりごとに着るような祭衣装を身に纏っている。そして額に聳える一本角が"鬼"であることを悠然と物語っていた。

 もう一人はあまりパッとしない風貌に、平成の世から見たならばかなり古風なものであろう、詰襟の学生服を着、学生帽を被った男。こちらもやはり、帽子を突き抜けるように引っ付いている獣の耳と、腰から生えているデフォルメされたかのようにくるりと丸まった栗鼠の尻尾が人間ではないことを示している。


 ――何を隠そう、俺と郭のことである。その大雑把な性格はあまり変わっていないこいつと、ついに念願の"人化の術"を修得した俺は、あれから各地をぶらぶらと歩き回っていた。

 あちらに寄れば、暇つぶしに集落を襲いまくっていた郭を宥めてなんとか壊滅しない程度に抑え。

 そちらに近づいては、襲い来る雑魚妖怪共のその命を一瞬で刈り取る郭に何となしに半殺しを提案し、その結果何故か勝手に付いて来るようになったそいつらに頭を抱え。 俺と郭が共に旅を始めてから既に数百年が経った頃。いつの間にか、自分達はここら一帯では並ぶ者がいないほどの強者となっていたのである。




▽▲▽▲▽




 この世界に生まれてから百年と少しを経った頃。年々妖力の量は増えているにも関わらず、一向に人の姿となることのない俺は、郭の言っていたことは間違っていたのではないかと考え始めていた。そう、「力が増えれば勝手に化ける」という話である。

 理由としては、例えばだ。有名な話をあげるなら狐や狸が悪戯に人間を化かし、懲らしめられる話がある。もし妖術が高等な技術だとするならば、そんなちゃっちい悪戯を起こし、そして簡単にバレるだなんて失態を演じるだろうか?答えは否である。多分。

 つまり、そういった奴らは"教わった"妖術を使いながら人化をし、時に惑わしたりしているのではないだろうか。

 では誰に?と問われれば、それは分からないが、恐らく親から子へ、仲間から仲間へと受け継がれているのだろう。

 長々と語って一体何が言いたいのか、というとだ。


 ――俺に妖術を教えてくれそうな人材が全くいないのである。

 未だに言語を操ることができるのは、俺と郭、そして人間の皆様のみ。ほかの妖怪たちに至っては、妖力で身体を強化して殴りかかってくるのが関の山だ。レベルを上げずに物理で殴る。……さっさと成長しろよお前ら。

 

 だがしかし!教わる相手がいない。だからといって諦めずに夢に向かって走り続けるのが"漢"というものであろう。レッツロマン。

 つまり――ないなら作っちゃえばいいんじゃね?――ということである。


 先程も書いたが、妖怪の攻撃方法としては妖力を使って手や足を強化し、攻撃するというものである。これは郭も同じようなものなのだが、あいつはさらに能力を用いることで簡単にとんでもない威力の攻撃を繰り出すことができる。元から地力の強い鬼であり、大雑把なあいつらしいやり方ではあるが。


 さて。この妖力の使い方だが、これなら今の俺にも簡単に行うことが可能だ。

 ぶっちゃけると、イメージである。どんすぃんく、ふぃー。

 するとだ。この単純な、イメージする、という使い方をもっと複雑なレベルまで突き詰めていけば、人化することも可能なのではないだろうか。ゆめがひろがりんぐである。

 こうなれば気合いだ、と。俺は試行錯誤を開始したのだった――




 ――この様な感じでわりと頑張った妖術の会得。実際に人化できるようになったのは、さらに五十年を過ぎた頃である。

 そうそう、前述していたが、学生服という奇妙な出で立ち。これは趣味とかではなく、人化の術を初めて使った時に、服装についての設定を術に組み込むのを忘れていたのだが、何故か勝手にそうなっただけだったりする。もちろん深くは考えない。郭の祭り衣装モドキといい、妖怪は実に不思議だと思う。

 因みに初の変化成功時……感激の余り気絶してしまったのはお兄さんとの秘密だ。




▽▲▽▲▽




 さて、することはそれしか無かったのかといえば、そうでもない。もう一つ不明なものがあった――"能力"というやつである。

 郭の持つ『刺し貫く程度の能力』、俺の持つ『拒む程度の能力』。能力というのは人、妖怪、その他諸々、どの種族も持つ可能性があり、その内容は一人一人全く異なるものである。そして"能力持ち"の数はかなり少ないとは郭の言。妖術とは違い、元からなんとなく使い方が頭に刻み込まれているので、こいつを色々と弄くり回すのにかなり楽で助かりそうである。



 ――様々な実験を繰り返した結果、この"程度の能力"とやら。中々に、というかとんでもなく使い勝手が良いことが判明した。


 簡単に言えば、能力に合わせた概念を操ることができるようだ。例えば俺ならば、『攻撃を拒む』ことで空間に障壁を作り出し、相手からの攻撃を防いだり、『見られることを拒む』ことで周りの視界から俺をシャットアウトし、その存在を隠したり。気配だって消すことができる。

 ……やってみればみるほど、つくづく内向的な能力である。このことを郭に話したら、すごく哀しい目付きでこちらを見てきた。やめろそんな目で俺を見るな!

 それと、能力は、力が上がることによって成長するらしい。初めの頃は、単純な行使しかできず、一度に使えるのも一つだけだったのに対し、今ではそれなりに複雑なものでも幾つか同時に扱うことができるようになっている。

 だがこの力、格上の相手には通じ辛かったり、もしくは全く通用しないことがあるらしい。郭相手に試しに張った障壁は軽々と貫かれ、気配遮断についてはしばらく効果はあったが、結局見つかってしまった。さすがは鬼。


 しかし、この"程度の能力"という言葉。どこかで聞いたような、何か思い出しそうな気がするのだが、全く分からない。なんというか何かが喉に突っかかっているような気持ち悪さを感じる。でも思い出せないのだから仕方がない、ということでスルー。




――そんなこんなで妙な気持ち悪さを感じつつも、暇つぶしに様々な妖術を作ってみたり、暇つぶしに能力や妖術を使って集落に忍び込み脅かして遊んだり、暇つぶしに酒を失敬しては郭や、いつの間にか配下となっていた妖怪たちに振る舞って酒盛りをしたりと、それなりに充実した暇つぶしの旅を送っていた俺たちがようやく"そこ"へと辿り着くのは、もうしばらくのことである。

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