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第弐話、妖怪は邂逅する

 ――前回までのあらすじ

 謎の光に導かれた選ばれし少年少女たち。着いた先には荒れ果てた街、闊歩する獣の群れ。訳もわからぬままサバイバル、一体ここはどこなのか誰がなんの為にそして何が起こったのか……。各地に散らばった謎のピースを揃えたその時、全世界を揺るがす衝撃の事実が浮かびか上がる!さあ行け少年少女たちよ、宇宙を救うのだー……ごめんなさい。


 自分自身が化栗鼠――所謂物の怪、妖怪となったことを自覚した俺はその後どんな変化を迎えたかというと……別段これといって何もなかった。

 言葉が話せて身体の丈夫なただのリス、人になぞ見つかれば見せ物小屋かテレビのスター、はたまた秘密の施設で解剖されるだけだろう。

 では未だに優雅なリスライフを送っているのか、と言われればそうでもない。


 実は――


「……何をぶつぶつ言っている」

「いーやなんにも」


 仲間が出来たりしちゃったのである。




▽▲▽▲▽




 こいつの名は郭〈カク〉――鬼だ。そう、あの有名な鬼である。虎のパンツは履いていないし金棒も持っていないが、厳つい身体に顔立ち、そして額にそびえる一本角が人間ではない、ということを物語っている。

 郭と出会ったのは少し前、偶然にも俺のいる山の近くに来た時に、ここ近辺では殆ど感じられなかった自分意外の妖力に気づき、興味本位でやってきたらしい。

 妖力、というのが俺の感じていたチカラの正体なのだそうだ。妖怪の力で妖力。実に安易である。誰が名付けたのか聞くと、「知るか」と一蹴された。本能に刻まれているのかこいつが馬鹿なのか、悩ましいところだ。

 俺が知らなかったのは郭のように初めから妖怪として生まれた訳ではなく、後天的に変化したせいか人間の記憶があるからか……どうでもいいことに頭を使ってしまうのは根っからの性分なのだ、許してほしい。


 さて。夏も終わりかけ木々の葉がその色を変え行く中、運命的な出会いをした俺は、せっかくだからと――半ば懇願に近い形で――強引に郭について行くことにし、そして現在に至るのである。

 わりと大雑把な性格らしいこいつは、ちっさいリスが一匹ついてこようがあまり気にしないのであろう。


 この妖怪という種族について、そして外の世界について知るため、さらにはこの俺の小さな目標のためにも、ささやかなリスライフに終止符を打ち、外の世界という名の大海原に漕ぎ出すのは必然である。


「という訳でだ、色々教えて欲しいことがあるんだが」

「?……ああ。俺も一人で退屈していたからな」

「それじゃ――」




▽▲▽▲▽




 結果から言えば、ある程度この世界について知ることはできた。が、非常に疲れた。前述した通り、大雑把なこいつは説明がものっそい下手糞だということが判明。 なんとか手を変え品を変え、あれこれと質問しまくったお陰で、俺も郭も無駄に口が疲れたような気がする。気がするだけで実際は面倒臭くなっただけだが。まあ、必要な知識を得られたのでよしとしよう。


 この世界についてだが、実はというかやはりというか、元の世界ではないらしい。異世界だぜ兄貴ィーヒャッハー。

 海は無く、ただただ山や森、草原などが広がっているらしい。だったらなんで四季があるんだと思ったが、深く考えるのはやめておく。創世からしてなんかもう色々と違うんだろう、うむ。


 郭が今までフラフラと旅のようなことを続けていたお陰で知ったのだが、人間はいることはいる。だが、そこまで文明レベルが高いわけではないようだ。むしろ低い。話を聞くに、外敵――主に妖怪――から守る壁を作り、その中で多くても数百人程度が暮らしている。そんな集落がぽつぽつとあちこちに点在しているぐらいのものらしい。

 では妖怪は?と聞けば、ここより遠くにはいくらか数はいるが、俺や郭のように、言葉を交わすことが出来るのは今のところは会ったことはないそうだ。


 ――意外とリスとして生まれて正解だったのではないだろうか、なんて考えてしまう。もしこの世界で人間として生まれた場合、余り高くもない文化レベルの中で、人としてのプライドを捨てられないまま、いつ来るとも知れぬ妖怪たちに怯えつつ生涯を閉じてしまったかもしれない。郭よりはフクロウのが幾分もマシである。動物万歳。プライドは投げ捨てるもの。


 そんな世界で、時に襲ってくる妖怪を殴り殺し蹴り殺し、時に暇つぶしと人の集落を襲ってみたりしつつ、ぶらぶらと過ごしてきた、というのがこいつの半生らしい。

 まあなんというか鬼らしい、妖怪らしい奴である。俺もいずれは道行く者を薙ぎ倒すキリングマッスィーンになってしまうのだろうか、なんて思ってしまうのも無理はあるまい。頑張れ理性、全ては君に掛かっている。


 そして――


「これが最後、というか一番聞きたかったことなんだが。」

「……なんだ」

 面倒臭いのだろう、テンションが低いような気がする。


「妖術ってのはある?例えば人化の術みたいな」


 そう、俺の小さな目標とは人間――せめてそれに近い身体になりたいのである。やはりこの小さなリスの姿はこれから生きていく上で不便となるのではないか、というか人の姿に戻りたいだけなのだが。早く人間になりたーい。


「知らん。なんだそれは」

「えぇー……」


 早くも撃沈。よくよく考えれば元から人の姿として生じた上に、強い力を持つこいつは、元来の性格も手伝い、そんなものを必要とすることがなかったのだろう。

 一応ダメ元で説明を試みる。


「えーとだな。何というか、妖力を操って色んなことする能力……かな?」

「よく分からんが。人型になりたいのなら、妖力が上がればいいんじゃないか」


 そういうものなのだろうか。つまり月日を重ねるべし、ということだろう。一体いつになるんだか……はぁ。


「それと、能力というのはこういうことか?」


 ――突然鋭い気を放った郭は近くに生えていた木に向かって、拳を繰り出した。

 ガッ!という音と共に、木の幹が拳大にくり貫ける。


「は……いやいやいや今のは普通に木を殴っただけでしょうが!」


 ビビった。これでもリス時代は猛禽類からの攻撃を掻い潜ってきた実績があるわけだが、それでもやはり驚くものは驚く。せめてワンクッション何か置いてくれ。


「いや、今のは俺の『刺し貫く程度の能力』を使った。普通に殴れば――」


 もう一度見た目としては同じ様な感じで、拳を振るう。今度は爆音と共に根本からへし折れた。


「――こうなる」


 だからビビるっての!やめて!


「分かったか?」

「誰が分かるか!」


 誰が分かるか!お前は脳筋か。


 また色々と聞いたところ、この"能力"というものは人によって様々な種類があり、そもそも発現する奴は数が少ないらしい。 何故そんなことを知っているんだ、と聞くと「さぁ」と一言。――真相は神のみそ汁。というかこいつ、身体を動かしたからか、先程よりもテンションが高い……脳筋め。


 それは置いときつつ。俺にも何かいい能力はないかなー、なんて軽い気持ちで心の内に念じてみる。能力能力のうりょく……

 すると今まで何故気付かなかったのか、というくらいの簡単さでポン、と浮かんできた。



 『拒む程度の能力』



「なんだそれは」

「俺に聞かれても分からんわ」

 当事者にもよく分からない、それが"能力"クオリティ。

 拒むってなんだ。俺はいつからそんな内向的な性格になったんだ。寧ろ逆だろ、受け入れろよ慈愛の精神で。マザーテレサもびっくり。まぁそこら辺は要実験ということで一先ず置いておく。オラワクワクすっぞ。

 というか"程度の能力"という言葉、どこかで聞いたような気もするが……?


「あぁ、そういえば」

「また何か殴るのか?」

「そうじゃない。お前の名前を聞くのを忘れていた」

「……そうだっけ」


 ――この数十年、話すことも話す相手もいなかったからだろうか……すっかり忘れていた。せっかく新しく生まれ変わったのだ、名残惜しいが前の×××××という名は捨て、新しく名前を作り出すべきだろう。

 何がいいだろうか。リス、栗鼠、くり、ねずみ、怪人ねずみ男、ないわ……栗、そういえば読み方を変えれば――


「栗〈リツ〉だ。改めてよろしく頼む、郭」

「栗だな。よろしく頼まれた」

「……」




 鬼と栗鼠というあまりにも異色過ぎる組み合わせ、不安ながらもワクワクしているのは嘘ではない。

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