第壱話、妖怪は変化する
この作品は、ゲーム〈東方Project〉シリーズ及びそれに連なるお話の二次創作となります。
作者はこれが初の執筆となります。読んでいないお話、プレイしていない作品もあり、勝手に作ったオリキャラ、登場人物の背景、口調、歴史等々、独自の要素が多分に含まれています。ご注意下さい。
後悔先にたたず、という言葉がある。何かが起こってから後悔することがないよう、先によく考えましょうね。なんて意味なのだが、もし今の俺にこの言葉を掛けるような奴がいたのなら、そいつの顔面にトマトケチャップでも塗りたくっていたことだろう。まぁそれも叶わぬことなのだが。
何故かと問われれば、それは周りに人がいないからではなく、孤島に取り残された訳でもなく、そもそも友人と呼べる人間がいないということでもない。
そもそもこの言葉は常識の範囲内に起こりうること限定であって、常識はずれの奇想天外ビックリサプライズに使うべきではない。当たり前である。
ではいったい何が起きたのか……さぁ聞いて驚け見て笑うな。なんとまさかの、どうやら俺は人間をやめてしまったらしい。
「キー!」
それもリスに。
▽▲▽▲▽
今俺は、マイマミー(リス)とパピー(リス)が見つけたのであろうこの素敵な素敵な木の洞で、飯が届くのを今か今かと待ち構えている……我が麗しき兄弟たちのしっぽをもふっている最中である。あぁ嫌がるな嫌がるな。
こんなことになってしまったきっかけは何だったか、と思い返せば……やはりあれだろう。その日は何かがおかしかった。普段インドアな生活ばかり、せっかくの休日だから――と散歩なぞに出掛けた先で偶然見つけた空中に浮かぶ奇妙な真ん丸の穴。好奇心で近づいたのが運の尽きだったのか。 いや、それ以前に普段は人通りの多いはずのあの大通りに人っ子一人いなかったのも、それに気が付かなかったこともおかしい。その時すでに、俺は超自然的何かに巻き込まれていたのだろう。もしくは事故か何かで死に、テャマスィーが勝手にあの空間に流れ着いたとか。なんちゃって。こまけぇこたぁいいのだ。どうせ考えても分からん。
ともかく、あの時意識を失った俺は、いつの間にかこの木の洞の中で何匹もの兄弟たちに囲まれながら目を覚まし、そして現在に至るのである。 それにしてもリス、リスだ、リスである。もっとこう、生まれ変わる?のなら他にいくらでもあるだろうによりにもよって微妙なこのチョイス。人間は無理でもせめて、せめて犬か猫がよかった。ペット万歳。
しかし周りを見回せばたくさんの子リスだ。子リスパラダイス。もう可愛いから何でもいいんじゃね?ハァーもっふもふですわれっつぱーりーない……とかやりつつも考える。
これだけふざけられるのも、余裕が出来てきたのだろうか。初めの頃はそれなりに辛かった。リスが食べるもの。ドングリ?木の実?それだけならまだ良かったが。よく考えれば思いつく話、雑食なリスさんは虫だって食べちゃうのである。慣れるまではこのゲテモノ大バーゲンは精神を削った、とだけ記しておこう。
そして予想通りではあるが、どうやら俺のように高い知能を持つ――自慢ではない――奴はいないらしい。母親然り、俺を含め全員似たり寄ったりな可愛い姿の――決して自慢ではない――兄弟たち然り。どいつもこいつも「キー」しか言わない上に、どう考えても本能で生きているとしか思えない。ショッカーかお前らは。イー!
やはりというか何というか、俺は極めて異例なのだろう。輪廻の輪から頭一つはみ出したかのような。まぁこっちから見ればただの動物だが一応育ててくれた母リスにも感謝しているし、俺も「キー」としか言えない訳だが。もっふもっふ。
では父リスは?と思うだろうが、会ったことがないので知らん。それがリスの生態というやつなのだろう。もふふもっふ。
「キィ……」
どこからか抗議の声が聞こえてくる気がするが爽やかに無視。自分の尻尾をもふるのは虚しいんだ、分かってくれブラザー。また考える。
やはり思い出してしまうのは人間だったころのこと。未練がない訳ではない。元々学生だった自分はもちろん友人だっていた。某ラノベの如く都合よく両親は既に亡くなっていることもなく生きていた。
もう二度と会えいかもしれないことを考えれば辛いが、くよくよするよりは楽しく、ポジティブに。そうするのが俺のすべきこてなのではないか、なんて考える。とりあえずは目の前の尻尾をもふりたい。それが漢の生き様。嘘だ。
……と、どうでもいいことよくないこと、何日もごちゃもふごちゃもふ考えているとわりと何とかなるんじゃね?なんて考えてしまうのは人の性ってやつなのだろうか。リスだが。 俺は元々わりとポジティブな性格なのだ。さぁ、考え方を変えてみて欲しい。まずはこの素敵な木の洞での生活、素晴らしいだろう。ロマン溢れるじゃないか。そして二度目の人生、多くは語るまい、ロマンだ!!そして――
「キキー!」
あ、母上の御帰還だ飯飯。
どうせ長くは生きられない小動物の身、結局は色々と諦めて気楽にするのが大切なのである。はぁもっふもっふ。
▽▲▽▲▽
そんなこんなでぐだぐだもふもふと過ごしていたのも今は昔。いくら寿命を全うしようとも短い人生、いやリス生?とはいえ投げ捨てる訳にはいかぬと頑張ったのがよろしくなかったのか。
餌の取り方、巣の作り方、天敵から身を隠す為には、その他もろもろ。時にこの辛く厳しい食物連鎖を生き抜くため、特には今まで十数年の生活とのギャップから必死になって生活の術を憶えていった。
最初の頃よりいくらか数を減らした可愛い可愛い兄弟たちよりも出来の良かった俺はもう独りでも生きていけるだろうということだろうか。わりと早い段階で強制的に親元から旅立たされたのである。
さらば兄弟できれば長生きしろよ、なんてふざけながらも。あまり深い思い入れはないが、一応この体と共に育った場所。俺は生まれ育った我が家、そして家族に別れを告げ旅立ったのである。
――いきなり木から落とされたとかないない。慌てて戻ろうとしたら母親はおろか兄弟たちからも攻撃されかかった為に、泣く泣く元我が家を離れたとかないったらない。全くない、記憶に御座いません。――そんなに尻尾もふられるのは嫌だったのか。
それから――山を巡っては巣を作り、秋になれば餌を溜め込み冬眠し、天敵に殺されかかってはなんとか生き延び、また巣を作りと。時間は矢のごとく過ぎ去っていった。
▽▲▽▲▽
――初めは微々たる変化だった。
月日は流れ、十年と少し経った頃だろうか。昔の記憶からすると、リスとしては長生きし過ぎな年齢を迎えたあたりから少しずつ、"違和感"というものを自分の身体に感じるようになっていた。こう、芯のほうからチロチロと小さな火が燃え出るような。そんな感覚がいつの間にか身体の奥底に存在していた。
病気を考えたが、特に体の不調は起こらず。そろそろ老いが来るだろうと思っていたがそれどころか、むしろ丈夫になっていくこの身体、そういう特殊な種類のリスに生まれたのだろうと無視することにした。
――小さな違和感は疑問に変わり。
内に燃える火のようなものは年々少しずつ大きくなっていった。そんな矢先。
それは突然の変化だった。リスとしての常識であったはずの"冬眠"。全くする必要がなくなったのである。やはりおかしい。元気過ぎると思うのは、リスの本能か人の知性かはたまた。
――疑問は、
未だに増え続ける内に燃える火――最近では何らかのチカラなのではないかと本能ながら感じるようになった――は、とうとう無視の出来なくなるようなレベルへとなっていた。
これは一体なんなのか。俺の身体はどうなっているのか。何度も何度も考えに考える内に。
――確信となる。
ふとそれを思いついた時。馬鹿馬鹿しいと思いつつも。ずっと感じていた、親しみすら覚えていた違和感がスッと消え。
何かが頭の中でストンと落ち着いた。
俺は――
「嗚呼――化けたのか」
この姿となって二十年を過ぎた頃。化け栗鼠として、俺は新たな一歩を踏み出したのである。
「お、話せる」
……締まらない。