第五話:部活
「どうして僕の名前を知ってるのかな?」
怪訝そうにこちらを見る彼に、俺は苦笑いしながら応えた。
「あぁ、さっき廊下を歩いてたら、クラスメイトたちが身体検査で『Bランク』を出したアルカナとヴァルカンの噂をしていてさ。見た目の特徴もなんとなく聞いてたから、もしかして、と思って」
「なるほどね。じゃあ君も僕と同じで、一年生の体験入部的な感じか」
「そうだな。俺はフルード。よろしく」
「僕はアルカナ。よろしく」
差し出された手を握り、俺たちは握手を交わした。しかし、改めて室内を見渡してみても、他には誰も見当たらない。
「なぁ、アルカナ。他の部員はいないのか?」
「僕がここに来た時も鍵は開いていたけど、誰もいなかったよ。この学校の生徒は基本、みんなアストロフを倒すための実戦訓練に必死で、部活なんて入らないからね。たいした活動実績もないし、それ以外の奴らはみんな自分たちで適当に遊んでるよ」
なるほど、だからこんな離れた寂しい場所に部室が追いやられていたわけだ。お互いに椅子を引き寄せて座ると、自然とここへ来た理由に話が及んだ。
「ちなみに、アルカナはどうしてこの学校に来たんだ? やっぱりアストロフへの復讐か?」
「いや、僕はアストロフに対して特別な恨みはないよ。父は奴らに殺されたけど、プライドが無駄に高くて、家では母や僕に暴力を振るっていたから……当然の結果だろうと受け止めている。僕がこの魔法学校に来たのは、純粋に『神話級魔法』を開発したいからなんだ。ここへ体験入部に来た理由も同じさ」
さらりと重い過去を口にした後、アルカナは真剣な目でこちらを見た。
「……でも、不思議だな。先生の話だと、神話級を扱うには回路数が50本以上必要らしいけど、アルカナもそれくらいあるのか?」
「まさか。僕は34本だよ。特級がギリギリ扱えるレベルさ。……その言い方をするってことは、君は50本以上あるのかな?」
「うん。ぴったし50本」
アルカナの紅い目が、驚きでわずかに見開かれた。しかし、彼はすぐに不敵な笑みを浮かべた。
「へえ、すごいね。でも、世間では回路数が足りないと上位魔法は使えないと言われているけれど、僕は納得していないんだ。たかが50年で魔法の全てが解明されているわけがないし、絶対に『例外』があると思っている」
「確かに、まだ歴史が浅いもんな」
「それに、僕の固有魔法があれば、きっと回路数の限界を超えて、神話級の魔法だって再現できるはずだ」
「どんな固有魔法なんだ?」
「『魔力圧縮』。文字の通り、発動する魔法に魔力を限界まで詰め込むことで、魔力がある限り魔法の効果を無限に引き上げられるんだ。この魔法のおかげで、僕はランクBのゴーレムを倒せた。その時点でB+を倒せるほどの魔力は残っていなかったからリタイアしたけどね。……さあ、僕は手の内を明かしたよ。君の固有魔法も教えないと不公平だろ?」
綺麗な顔でじっと見つめられ、俺は少し照れくさくなりながら自分の能力を説明した。
「俺のは『水素変幻』。水素を水と氷に変えたり、逆に水を氷や水素に変えたり、氷を水や水素に相互変換させることができるんだ」
「なるほど、物質の組成を組み替えるのか。面白い固有魔法だね」
話が弾んできたところで、俺は気になっていたもう一人の天才について尋ねてみることにした。
「なぁ、アルカナ。もう一人、同じBランクを出したっていう『ヴァルカン』について何か知ってるか? 俺の超えるべき壁だから、情報を集めておきたくて」
「ああ、彼ね。彼は滅んだクロバキア王国の元王子だよ。知識も運動神経も抜群で、かつては『過去最高の王になる』とまで称えられていたんだ。……今は祖国を失って、随分と刺々しくなっちゃったけどね。僕は彼と身体検査が同じ班だったから、戦い方も間近で見たよ」
「どんな戦い方だったんだ?」
「基本は、自分の高い身体能力を活かした強烈な物理攻撃。ただ、魔法を全く使わないわけじゃなくて、身体強化や速度上昇、それに雷や炎の属性付与を組み合わせて戦っていた。……だけど妙なんだよね。彼は最後まで、自分の『固有魔法』を使っている感じがしなかったんだ。僕が彼について話せるのは、これくらいかな」
固有魔法を使っていない――。
戦闘に直接使えない魔法なのか、それとも発動の魔力消費が激しすぎるのか。あるいは、何か特殊な発動条件がいるタイプだろうか。
物理主体の戦闘スタイルは、魔法学校にしては珍しい。けれど、50年前の隕石衝突以降、星の環境が変わって人間の身体能力自体が底上げされているから、なしではない。現に、5歳の時に俺を助けてくれた一般兵の軍人だって、魔法を使わずに戦っていた。
「質問ばかりされたから、今度は僕から。君がこの部活に来た理由を聞いていなかったね。どうしてここへ?」
アルカナの問いに、俺は真っ直ぐ視線を返した。
「俺もさ、いつか神話級の魔法を開発したいんだ。それと、もっと使える魔法の数を増やしたくて。だからここなら、何かヒントがあるんじゃないかって思ったんだよ」
「ふふ、僕と全く一緒か。君とはいい相棒になれそうだね」
少しだけ距離が縮まった気がして、お互いに笑みを浮かべたその時だった。
静かだった廊下の奥から、フンフンと鼻歌を歌いながら、上機嫌にこちらへ近づいてくる足音が聞こえてきた。
ガラッと勢いよく部室の扉が開く。そこに立っていた小柄な彼女が、俺たちの姿を見るや否や、パッと目を輝かせて大声を張り上げた。
「新入部員だ〜〜〜〜っっっ!!!!」




