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第7話:海軍の頭脳ヴァルツ海軍元帥

寝てから夢も見ず、意識が途絶えるのも感じず気がついたら朝焼けだった。時計と自分が幻覚を見ていなければの話だが。日にちが分からず通信魔導具で侍従本部にかけると夜勤疲れのラミーナ侍従が応答する。

「侍従長閣下!生きておられましたか!……あ、いや。失礼を。2日間も音沙汰がなくて女王陛下も最初は私が休めと言ったと仰ってましたが昨晩から不安で眠れないとご相談を受けており……本日の正午にも連絡が無ければ強行突入する予定でしたよ!」

え?自分そんなに寝てたの?

「と、とりあえず疲れは取れたから着替えてから向かうから待ってて」

すぐに着替えて、その間にコーヒーマシンに自動で自分好みのコーヒー作らせ、歯磨きも済ませて温かいコーヒーだけ飲んだら、ドアを開けた……

赤髪の美少女の泣き顔で体育座りをしていた。なーんだ。女王陛下か……え?女王陛下!?

「陛下!?どうなさいましたか!?」

「あなたが……何も言わずに2日間も……寝ていたのが悪いのよ!!休めと言ったけど音沙汰無しは不安に決まってるでしょ!!」

陛下はここまで自分を心配なさってくださったのか……

「申し訳ございません……2日前にベッドに横になってたった今目覚めたばかりで……」

「うぅ……ちゃんと連絡ちょうだい!報告・連絡・相談は社会の基本よ!」

「はっ!精進!」

そのまま陛下に片腕を掴まれながら朝食食べに食堂へ入ると同時に離れる。

あまり他人には見られたくないのか。可愛いところありますね陛下。と心の中でイタズラ発言をする。

朝食はパンとコーンポタージュ、ローストビーフとツナサラダと栄養盛りだくさんでしっかり補給し、陛下に一言。

「お仕事頑張ってきます!」

「えぇ、頑張ってちょうだい。あと海軍幹部とのドクトリン(戦略方針)は明日に延期しといたわ。それまでに資料を作って」

なんだか初めて優しく頼られて、嬉しく感じて思わず「はい!喜んで!」と答えて侍従本部へと向かう。

ドアを開ける前から喧騒の声が廊下まで響いており、何事かと開ける。

「何があった!?」

「侍従長閣下!海軍軍令部と軍務省海軍作戦局との資料の折り合わせが付かなくて……」

なるほどね。制服組(現場の軍人)と背広組(防衛省や国防総省に該当)の摩擦みたいなものか。

「資料を見せてくれ」

ラミーナ侍従が素早く渡してくれて、内容を素早く精査する。

どうやら軍令部は戦艦と駆逐艦の二種強化による速さと火力を活かした艦隊決戦と呼ばれる艦隊同士での戦いを重視、作戦局は輸送艦の増強と補給ルートの複数確保による長期戦争への足掛かり作り。あれ?これどこかで見たような……

ハレルオン副侍従長が何かを察したようですぐに耳打ちでアドバイスをくれる。

「深くは問いません。恐らく先日の御前会議と重なる面があるのでしょう。執務室でお仕事でも問題ありません」

そして自分も「ありがとう。助かる」

と言い、ハレルオン副侍従長が全員に本部全体に聞こえる大きな声で指示を出す。

「来年の帝国国立1500周年記念晩餐会の準備に入ろう!閣下はお仕事を一人で担ってくれる。総員、閣下に負けない働きを期待する!」

「「「はっ!!」」」

流石有能な部下だ。有難いことこの上ない。

そして執務室へ戻り、資料にあった事をまとめる為周辺の地図と駒を用意して考える。ヴァンルデット連邦はこの世界最強クラスの国家でありながら列強と名高い帝国とも仲良くしてくれてる。少なくとも条約上は。ならば敵として見る必要は無いのだが……問題はその国力差である。連邦は即時動員可能な戦力を50個師団、わかりやすくいうなら吸血鬼60万名近くに相当する。そして内陸部は徹底的な要塞化と複雑化しており、仮に我が帝国陸軍が損害無しで突破したとしても砲弾の雨とあらゆる方向からの最新型機銃で資料によると3週間で壊滅するらしい。ここで重要なのはどのような条件で連邦が敵に回るかだ。人間の国を……自分の祖国と戦争してる間に後ろから猛烈な勢いのハンマーで殴られるのが恐らく最も有り得るパターン。

「どうしたものか……というか軍事素人の自分の仕事じゃないだろ……だって連邦にだって海岸があるんだから物資のピストン輸送……海岸?」

地図を見ると帝国総艦隊司令部からおよそ250kmの地点に物資集積所と艦隊及び地上戦力への補給施設がある。すぐに船の駒と敵部隊の駒、補給施設の駒の関係を見る。これだけの軍隊を動かすなら艦隊支援は必要。つまりここを破壊すれば敵の攻勢限界と呼ばれる攻める能力の限界を落とすことができる。自分は素人だから推測だが海岸側の部隊だけでも100km以上の行軍能力を落とせると思われる。さらに地図を見るとこの前の海軍本部からの60センチ砲の射程なら多少バラついても工業地帯が狙える。これだ。これにより戦争継続能力の粉砕に繋げれるだろう。

すぐに資料を作成し、陛下と共に海軍参謀本部へと足を運ぶ。

「1日早かったけど本当にしっかりできたの?」

「はい、陛下。こちらが本文になります」

陛下に資料を配布するとめちゃくちゃ頷く。正直可愛い。

「素晴らしいわね。お利口な変態侍従長ワンちゃん」

なんかもうあだ名が魔境になりつつあるが気にせずに変態侍従長ワンちゃんでいくことにした。

海軍参謀本部は海に近く、潮風が帝国へ来た日を思い出させる。

「さぁ、レイヴァス。ドクトリンを決めるわよ」

「はい!」

海軍参謀本部の白と灰色石のレンガで作られた司令部へ入り、最高会議室に通される。ここからが侍従長としてそして変態侍従長ワンちゃんとしての実力発揮だ。


海軍参謀本部最高会議室正午にて

ミスレイア陛下による議長の元で海軍軍令部と軍務省海軍作戦局との会議が始まる。

自分が思いついたドクトリンの地上連動型継戦能力粉砕ドクトリンを示し、大型の戦艦とそれを守る駆逐艦で連邦の湾岸補給拠点を壊滅させ、そのまますぐに工業地帯への大規模な砲弾の雨のプレゼント。

軍令部の方々はニコニコだが作戦局は納得いかないらしい。

「作戦に失敗すれば我々の継戦能力すら粉砕されかねない。持久戦にして他国からの増援を」

すると作戦局出身の海軍元帥が葉巻を吸いながらボヤつく。

「増援の確証は?我々の継戦能力?そんなもんたかが知れている。仮に連邦が敵対国になればこのレイヴァス侍従長の考えたドクトリン以上に優れたドクトリンは存在しないだろう」

すると陛下が煙たそうにしながら嫌そうな声で一言言い放つ。

「タバコ臭いからやめて」

「失礼陛下。ただ辞められないものでして」

「ふんっ!あなたは有能だから残してあげてるからそこは理解しなさい」

すると海軍元帥が「お褒めのお言葉感無量です」と言いながらもう一本葉巻を吸う。

あの、ミスレイア陛下が有能と認めるほど海軍元帥は優秀で自分のドクトリン案はその人に認められた事になる。これは大きな成果だ。

「おい!ヴァルツ海軍元帥!貴様は作戦局出身だろ!我々の顔に泥を塗るのか!?」

「逆に問おう。あなた方は女王陛下の顔と侍従長閣下の顔に泥を塗るのですか?」

気持ち良さそうに煙を吐き出して、窓を眺めるヴァルツ海軍元帥。

「では、侍従長閣下。具体的に必要になりそうな艦艇は?」

マズイ!そこまで考えてなかった……迂闊だった……このドクトリンが浮かんでからずっとそればっかり……

「元帥閣下、申し訳ございません。意中の外でした」

「そうか……素人と聞いているが閣下は優秀な戦略眼をお持ちのようです。ここからは私が作戦局を納得させましょう」

ヴァルツ海軍元帥は素早く60センチ砲搭載の超大型戦艦と36センチ砲の大型戦艦、18センチ砲の駆逐艦の駒を素早く配置し、諜報部が入手している、連邦艦隊の配置図との模擬演習を素早くかつ分かりやすく説明する。

「……以上で60センチ砲艦は4隻、36センチ砲艦は6隻、駆逐艦は10隻あれば基本的に陸軍国家の連邦海軍は粉砕できると説明できる。異議はあるかね?」

作戦局はついに強硬手段にでる。

「我々が予算案を承認しなければこの案は……」

「承認する!」

ミスレイア陛下の一言でほぼ決まった。

「自分も陛下と同意見です」

国家のトップ1・2が同意した。これは帝国の軍憲法で決められた方針であり、基本的に軍務省が通さなければ軍の予算案は通過しないが国王と侍従長が同意すれば特例で決まる。

そしてヴァルツ海軍元帥も葉巻を吸い終えて、マイ葉巻ケースに吸殻をしまって一言。

「作戦局は視野が狭い。これからはもっと奥まで覗くことだな」

そして作戦局の方々はブツブツ言いながら立ち去り、自分も陛下と帰ろうとしたらヴァルツ元帥に呼び止められる。

「レイヴァス侍従長閣下、恐れ多くも意見に賛同してくださり、感謝します。そして見事なドクトリンです。これは私の連絡先です。通信魔導具か電報で送れるので何かあればいつでもどうぞ」

「おい、レイヴァス。行くぞ」

「はっ!陛下!では、元帥閣下失礼します」

ヴァルツ元帥は窓から海を眺めながら「︎新しく新鮮な風が入ってきたな」と呟きもう一本葉巻を吸おうとする。

「おや、計算ミスか。歳をとるのは辛いな」

そして自分は侍従本部に着き次第報告すると、全員から感激されて、その夜は城内のバーで飲み明かし、食べ明かしをした。もちろん経費で。


皆様お疲れ様です。今日もお手に取って頂いた方、または始めましての方、黒井冥斗です。新人作家なりに頑張っているので応援していただけると嬉しく、励みになります!

今回登場したヴァルツ海軍元帥は今後作品の重要なキャラなので覚えていただけると嬉しいです。

そして今晩は沢山投稿するので短くは区切りますがお楽しみください!

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